Bose初のグローバルマーケティング責任者であるジム・モリカ氏が、感情に訴えるマーケティングを通じて60年の歴史を持つブランドを進化させる方法についてMarketing Diveに語った。
2024年2月にオープンイヤー型イヤホン「Bose Ultra Open Earbuds」を発売したBoseは、従来の機能訴求型マーケティングを改め、デザインを前面に出したプロモーションを展開した。インフルエンサーやセレブリティーをアンバサダーに起用し、ストリートウェアブランドKithとパリ・ファッションウィークでコラボレーションを行うなど、前例のない大胆なマーケティング手法を採用したのが、同社初のグローバルCMOを務めるジム・モリカ氏だ。
UNDER ARMOURやRALPH LAUREN、Disneyなどの名だたるブランドでのキャリアを経てBoseの変革に挑むモリカ氏は、60年間にわたり最高の音楽とサウンドを届けることに専念してきたBoseが、ビッグテックと互角に戦うために感情に訴えるアプローチを重視していると語る。
本稿は「Boseが新型イヤホンをアクセサリーに CMOが語る『オシャレ推しに転じた理由』は?」の続きです。
――感情的なポジショニングの構築に加え、どのような能力を強化していますか。
モリカ 完全にマーケティングを近代化するための変革を行いました。それは、ブランドをありのままに表現するという従来のアプローチから脱却し、あらゆる消費者について、彼らのいる場所に会いに行く戦略を採用するということです。私たちは、各プラットフォームに合わせた独自のデジタルコンテンツの制作に重点を置くようになりました。例えばTikTokでの制作方法は、他のどのプラットフォームとも全く異なります。
ディズニーやパラマウントで働いていた経験から、広告ではなくコンテンツを作ることが、消費者の時間と関心を得るために非常に重要だと学びました。私は今でも創造性を強く信じていますが、データに基づいて行動し、成功をデータで検証することが重要です。これらは全て、インフラの近代化、マーケティングテクノロジーや広告テクノロジーの強化を通じて実現されました。
――そうした変革を推進する際に直面した課題は何ですか。
モリカ 過去15年間、さまざまな役職で変革に携わってきましたが、そうした経験があったことは幸運でした。ただ、伝統のある企業に入るときは常に困難を伴います。特定のオーディエンスに大きなブランド力を持つ場合でも、進化は必要です。私たちは18歳から24歳の若者たちにブランドを紹介していく必要がありました。彼らはBoseをあまり知らない層です。製品の特徴や機能を延々と説明したところで、誰も聞きたがりません。そのため、メディアプラットフォーム、コンテンツクリエイター、ブランドアンバサダーを通じてブランドに興味を持たせ、欲望を喚起する必要がありました。それはチャレンジでもあり、同時に楽しかった部分でもあります。
――現在、多くの伝統的なブランドがZ世代向けに自らを改革したいと考えていますが、リスクを避ける傾向があります。これについてどう思いますか。
モリカ 適切なタイミングで適切な企業を見つけることが重要です。私のキャリアの中でも、全く同じことを試みてうまくいかなかったケースはありました。ただ、重要な味方が何人かいれば、大きな違いを生み出せます。本当に困難な状況にあるブランドは、これは存在自体に関わる問題だと認識する必要があります。「これまでやってきたことや現在購入しているオーディエンスは、もはや意味がない」というような極端な転換は現実的ではありません。既存のコアブランドのDNAを取り出し、それを若いオーディエンス向けに再定義する、非常に思慮深く洗練された方法があるのです。
――McKinseyが最近実施した調査で、CMOの多様な役割と成熟度のギャップが指摘されました。これはプレッシャーであるとお考えですか。また、それに対してどのように対応していますか。
モリカ 私がこの業界に入った頃、CMOの役割は主にクリエイティブプラットフォームを作る「ブランドの精神的なリーダー」的な存在でした。そのプラットフォームは主にテレビのスポット広告や付随的なもので表現されました。役割や成長に対するプレッシャーが大きくなるにつれ、そのクリエイティブな要素が試されています。ただクリエイティブであるだけでは不十分です。露出とエンゲージメントをどのように生み出すかを考え出す必要があります。
短期的な利益を重視するグロースハッカーがスキルセットを変え、デジタルネイティブの採用が増加しました。真実は、どちらのスキルも必要だということです。CEOが成長の説明責任は与えても責任は与えない場合に問題が生じます。それがこそが現在の課題であり、非常に厳しい状況です。
――2025年についての予測はありますか。
モリカ AIについて多くの懸念が挙げられていますが、AIは単なる新しいツールであり、私たちの仕事をより良く、より共鳴させるために活用できるものだと思います。ブランドアンバサダーや有名アスリートのように、時間、予算、リソース、才能に縛られることはありません。これにより、コンテンツクリエイターやインフルエンサーの力が弱まり、クリエイティブプロダクションや代理店業界にも大きな影響を与えると考えています。この新しい環境に適応できる企業だけが成功するでしょう。
――インフルエンサーの重要性にAIが影響を与える可能性があるとおっしゃいました。「Bose Ultra Open Earbuds」発売ではインフルエンサーに大きく依存していましたが、来年AIを活用した実験を行う計画はありますか。
モリカ もちろんです。私たちは英国のAutomated Creativeという会社と協力しており、毎月約5000本のコンテンツを制作しています。これには静止画、動画、製品のコピー、検索用コピーが含まれます。ただし、これは単純な「コピー&ペースト」ではありません。AIが思考の出発点を提供し、それを人間がさらに改良するプロセスを取っています。
AIはコンテンツクリエイターに変革をもたらし、インフルエンサーにプレッシャーをかけるだけでなく、ブランドアンバサダーとの関係にも影響を与えるでしょう。特に、ブランドアンバサダーや有名人にアクセスする機会が増える一方で、彼らが必要となる時間や範囲が減る可能性があります。それでも、彼らのブランド力や本質、個性を活用し続けることは重要です。
アーティストは常に重要な存在であり続けるでしょう。AIがセントラル・シーやドン・トリヴァー、タイラのような人々との関係を完全に代替するとは思いません。ただ、そのつながりを補強する上では、非常に力強いものになると確信しています。
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