2024年2月にオープンイヤー型のイヤホン「Bose Ultra Open Earbuds」を発売したBose。従来、愚直に製品の品質だけで勝負してきたオーディオの老舗が新たなマーケティング手法を選択した理由とは何か。
Boseは2024年2月にオープンイヤー型のイヤホン「Bose Ultra Open Earbuds」を発売した。この新製品のプロモーションに、Boseは通常とは異なるマーケティング手法を採用した。
同社はオーディオ機器メーカーとしてこれまで、消費者向け電子機器を売る際には製品の機能重視の戦略を採用してきた。しかし、今回はそうはしなかった。機能面に頼るのではなく、イヤーカフのように耳たぶに引っ掛けて装着するこの独特のデザインを訴求し、カルチャーの最先端を行く人々に愛されるスタイリッシュなアクセサリーとして位置付けたのだ。
「ヘッドホンは最も目立つファッションアイテムの1つだと言えます」と、BoseのグローバルCMOであるジム・モリカ氏は語った。
外部の音を取り込みながらもプライベートなオーディオを再生できる機能を持つUltra Open Earbudsのプロモーションに、Boseはインフルエンサーやセレブリティーのアンバサダーを起用した。また、ストリートウェアのブランドであるKithと、新作発表会のパリ・ファッションウィークでコラボレーションを展開した。
これはBose史上初の試みだ。トレンドを意識したパートナーシップは大きな注目を集め、今秋本格的に有料メディア展開に踏み切る前に話題を醸成した。
この計画は、モリカ氏の下でBoseがブランド構築に回帰する取り組みの一環だ。モリカ氏はUNDER ARMOURやRALPH LAUREN、Disneyなどのブランドで勤務した後、3年前にBose初のグローバルマーケティング責任者に就任した。非公開企業であるボーズは長い間、口コミによるマーケティングと店舗での体験に依存してきたが、消費者のEコマースシフトの影響で、2020年に小売店舗部門を縮小している。
Marketing Diveは最近、Kithとのイベントのためにニューヨークを訪れていたモリカ氏に、インフルエンサーの価値、マーケティングの課題、人工知能(AI)への展望について話を聞いた。以下は、分かりやすく簡潔にするために編集されたインタビュー内容だ。
――今年の大きな製品発表は、Bose Ultra Open Earbudsでした。この製品のマーケティングにおいて、どのような点を重視しましたか。
モリカ マーケティングの観点から、この製品が「Google Glass」のように感じられることを避けたかったのです。つまり、単なる奇抜なウェアラブル製品として終わらせたくなかった。では、どうすればこれをスタイリッシュに見せることができるのか。その最初の答えが、パリファッションウィークで発表したKithバージョンでした。そこから、NBAオールスターウィークエンドでは、NBAのチャンピオンシップリングを制作する同じデザイナーによる解釈を用い、さらにはジュエリーデザイナーのマギー・シンプキンスによるビジューをあしらったバージョンを導入しました。リアーナやトラヴィス・スコットをはじめ、多くの著名人が「それを手に入れたい」と連絡してきました。
この製品をカルチャーに影響力のある人物に体系的に紹介した後、一般市場向けの流通に乗せました。この製品は2024年2月に登場しましたが、専用のマーケティングキャンペーンを開始したのは9月末になってからです。
――インフルエンサーネットワークの役割について触れましたが、有料メディアはどのような位置付けですか。
モリカ 製品を音楽への情熱を持つ多様なユーザーの手に渡すことが重要でした。その後、デジタルコンテンツクリエイターに向けても同様に取り組みました。ブリーフとしては「製品をこう使うものです。これについての解釈を教えてください」というものでした。彼らに自由に制作してもらいました。どれも私なら作らない内容ではありますが、それが彼らに任せた理由です。彼らは、自分たちの視聴者にリスペクトされるやり方を心得ているのです。
テレビCMも行っていますが、CM制作ではアーティストが実際に製品を使用している様子を舞台裏から紹介するという面白いアプローチを採用しました。商業撮影やライブの音楽パフォーマンスの準備中の情景です。われわれが音楽を深く愛するブランドであることを示すために適切なブランドアンバサダーを選びました。最も有名なスターではなく、ドン・トリバー、セントラルCee、タイラ、リサといった新進気鋭のアーティストたちです。
――このキャンペーンから得た教訓は何ですか。また、Boseのブランドポジショニングをどのように構築していきますか。
モリカ 私が3年前にこの会社に入社した際、最初に行ったことの1つが、ざっくりとしたBoseの認知マップをナプキンの裏に書き出すことでした。Boseが差別化されているポイントは、60年の歴史がありながら音楽とサウンドの追求にのみ専念してきた唯一のブランドであるということです。われわれが競争している他の企業は、全てテクノロジー企業です。彼らは素晴らしいグローバル大企業ですが、音楽は副業のように扱っています。彼らにはスマートフォンやノートPC、洗濯機、冷蔵庫、広告ネットワーク、テレビ番組など、本行があるからからです。
製品が卓越している必要はありますが、本質的には音楽の感情的な体験が重要というのが私の信念です。つまり「音楽体験がBoseでより豊かになるのか?」ということです。だからこそ私たちは感情に訴える方向性へとシフトしたのであり、単なる数値や技術的な要素がきっかけではありません。
(続く)
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