Xが非営利団体GARMに対して法的措置を取った数日後、同団体はその活動の一時休止を発表した。
Xが非営利団体のGARM(責任あるメディアのための世界同盟)に対して起こした訴訟(※)は各方面から批判を浴びたものの、少なくとも部分的にはその目的を達成したようである。2024年8月8日(米国時間)、WFA(世界広告主連盟)は、同組織が運営するGARM(Global Alliance for Responsible Media:責任あるメディアに向けた世界同盟)の活動を「当面の間、中止する」ことを発表した。
※編注:XのCEOであるリンダ・ヤッカリーノ氏は2024年8月6日(現地時間)にGARMとその母体であるWFA(世界広告主連盟)およびそのメンバー企業を独禁法違反で提訴したと自身のXアカウント発表した。Xのオーナーであるイーロン・マスク氏は自身のXアカウントで、ヤッカリーノ氏の投稿に「2年間平和な解決を試みてきたが、もう戦争だ」と添えてリポストした。
Business Insiderは以下のように報じている。
WFAのCEOであるステファン・ロルケ氏は会員向けのメールで、この決定が「軽率に下されたものではない」もののGARMはリソースが限られた非営利団体であるとコメントした。ロルケ氏は、WFAとGARMがXの訴えに対して法廷で異議を唱えるつもりであり「われわれが全ての活動において競争規則に完全に従っていることが証明される」ことになると確信していると述べている。
WFAはXの訴訟に対して異議を唱える意向を示しているが、現時点ではGARMプログラムを縮小し、今後の対応を検討している模様だ。
GARMとWFAがイデオロギー的な理由で広告主のボイコットを組織したとするXの主張は、最近米国下院司法委員会に提出されたスタッフレポート(外部リンク/英語)に基づいている。レポートは、GARMのメンバーが「結託して主要な広告主が好まない声や意見を抑圧している」ことを示唆している。GARMは特に保守派のメディアを避けるようにメンバーを誘導し、それによってこれらメディアの収益を妨げたという。レポートは、このような行為が不合理な取引制限を認めないシャーマン法に違反する可能性があると指摘している。
Twitter/Xはこの報告書で具体的に名前が挙げられており、GARMのメンバーはマスク氏が同社を買収した後にこのプラットフォーム上での広告を避けるよう助言されたとされる。そのため、マスク氏とXは、GARMの助言が「数十億ドルの損失」をもたらしたと主張し、損害賠償を求めている。
法律の専門家は、Xの訴訟が精査に耐えられるとは思えないとの見解で一致しているが、Xが高額な法的手続きを開始することはそれ自体、結果と同じくらい重要かもしれない。マスク氏はほぼ無制限の資源を持ち、それにより法的措置を追求できるが、Xに訴えられる側の組織は比較的小規模な非営利団体や研究機関であり、法的防衛の資金を賄うことができない。そのため、これらの団体は通常、さらに費用がかかるのを避けるために活動を縮小したり、Xに関する分析をやめることになる。
マスク氏による買収後、Xの行動に批判的ないくつかの研究グループがこのような道を歩むのを、私たちはすでに目にしている。Xは2023年、Xアプリ内でヘイトスピーチが増加したと主張したCCDH(デジタルヘイト対策センター)を提訴したが、最終的に裁判官はXの主張を却下した。また、Xは同社が不快なコンテンツと並んで広告を表示していると報告した監視団体のMedia Mattersに対しても法的措置を取っている。
関連するケースでは政治的影響のためにソーシャルプラットフォームが悪用される事例を調査していたスタンフォード大学インターネット観測所が、保守派団体による訴訟のために法的費用が増大し、2024年初めに閉鎖された例がある。
要するに、研究者たちは法的圧力によって特定のプラットフォームに関する分析活動を縮小せざるを得なくなっている。彼らが特定のプラットフォームの問題を調査するのをやめれば、法的圧力も止むのである。
今回のGARMに対する訴訟も同様のケースであり、実際にはプロジェクトが棚上げされることこそが、Xの訴訟の狙いだったかもしれない。しかし、今回のX社の訴訟はかなり粗雑なものであり、特にマスク氏がさまざまな状況で誤情報を増幅し続けている点を考慮すると、なおさらそう思える。
実際、前出のCCDHは、マスク氏が2024年だけでも50回、誤報が証明された情報や誤解を招くような情報を拡散させており、それらの投稿が12億人以上に閲覧されたという新たなレポートを発表した。同レポートは重要な点として「マスク氏の50件の投稿のいずれにも、彼の主張を訂正したり文脈を追加したりする『コミュニティノート』が表示されなかった」とも指摘している。
このレポートによりXが再び法廷に立つ可能性もあるが、これらの例が示しているように、実際に広告主を遠ざけているのはGARMでも独立した研究者でもなく、マスク氏自身の行動である。
マスク氏の分断をあおるようなコメントは、多くの広告パートナーをますます疎遠にし、彼の見解に懸念を抱かせている。それがXに多大な悪影響を及ぼしていることはマスク氏自身も認めている。だからこそ彼は「自分が言いたいことを言うし、その結果としてお金を失うならそれで構わない」と宣言し、さらに広告主に対して「気に入らなければくたばれ」とまで言っている。
つまり、マスク氏は自分のコメントやスタンスが自分やXに金銭的損失をもたらすことを理解しているわけ。それでも、プラットフォームの広告事業が崩壊し続ける中、責任転嫁を図って、その損失を取り戻そうとしている。
今回のような法的措置により、最悪の場合、他の組織がXについて報告することをためらい、結果的にXがリスクを知らない広告パートナーを引きつけやすくなるかもしれない。Xの訴訟自体には勝ち目がないかもしれないが、GARMの場合のように、その結果がマスク氏に有利に働く可能性は十分にある。
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