「アドフラウド」以外に、広告が届けたい相手にきちんと届くようにするために留意すべき「ビューアビリティー」「ブランドセーフティー&スータビリティー」「位置情報」について説明します。
前回、botを使ったアクセスでディスプレイ広告のインプレッションやクリック数を水増しして広告費を不当に稼ぐ「アドフラウド(広告不正)」と呼ばれる悪質な手法について説明しました。
アドフラウド排除は真っ先に取り組むべき重要課題ですが、対策が必要なのは、それだけではありません。今回は、アドフラウド以外に広告費をムダにしてしまうミスマッチ要因について説明します。
あらためておさらいすると、広告が表示されているように見せかけて、実際にはbotがインプレッションやクリックを偽装するのがアドフラウドの本質でした。では、実在するページ上の広告枠に広告が表示されてさえいればいいのかと言えば、そうではありません。「ユーザーに見てもらえない広告は果たして意味があるのか?」という疑問から誕生したのが「ビューアビリティー(可視性)」という概念です。
IAB(米インタラクティブ広告協会)は、ユーザーが閲覧できる状態(画面の外に配置されていたり、他の要素の下に隠れていたりしない)で、広告を構成する画素(ピクセル)の50%以上が、1秒以上(動画の場合は2秒以上)表示されたものを「ビューアブルインプレッション」、総インプレッションのうちビューアブルインプレッションの占める割合を「ビューアブル率」と定義しています。
DoubleVerifyの調査によれば、ビューアブル率を最適化するよう管理されたキャンペーンに比べて、何もしていないキャンペーンのビューアブル率はディスプレイ広告で12%、ビデオ広告で31%低くなっています。逆にいえば、何も対策をしなかった場合、ディスプレイ広告の43%、ビデオ広告の57%がインプレッションとして広告費を消化するにもかかわらず実際には消費者に見られていないということです。その結果、ビューアビリティーに対して何も対策がされていないキャンペーンでは、10億インプレッション当たり45万8000ドル(1ドル150円換算で約6870万円)の広告費がムダになっています。
ユーザーが増加してきているCTVにおいても、DoubleVerifyはビューアブルでないインプレッションを発生させる新たな事象を発見しました。スマートスティックをテレビに差し込んでいると、電源オン状態のCTVとしてデータが受信されてしまうことです。そのため、テレビ画面がオフになっている状態でもデータを受信し続けるため、広告のインプレッションもカウントされ続けていました。広告費のムダを減らすためには、この状態を「広告が見られていない」と判断する仕組みが必要になります。
広告が効果を発揮するためには、誰に届くかだけでなく、広告枠がどこに置かれているかということも重要です。広告メッセージ(コンテンツ)と広告が配信されるスペースとの関連性にズレがあれば、広告が否定的に受け止められ、かえって逆効果となる懸念もあります。このような状態を放置していると、ブランド価値を毀損しかねません。
典型的な例が、タバコやお酒などの成人向け商品の広告が子ども向けコンテンツの横に表示されてしまうケースです。広告が商品を購買するターゲット(成人)に届かないだけでなく、コンテンツと広告を一緒に見た人からは「子どもにとって有害な情報を配信している」と受け止められてしまいます。
広告主が自社のブランドイメージを保護するために広告の掲載面を最適化する取り組みは「ブランドセーフティー(安全性)」として語られるのが一般的です。しかし、何がふさわしい掲載面かはブランドによっても異なります。例えば、アルコールに関連する記事は、おつまみになる食料品を売るブランドが広告を出すにはふさわしいかもしれませんが、家族向けのイメージを大事にしているブランドが広告を掲載するには適していないかもしれません。それぞれのターゲット顧客層に合ったアプローチを考える上では、ブランドセーフティーの進化系ともいえる「ブランドスータビリティー(適合性)」が必要になります。
もう一つ、考慮すべきが、広告を出稿する「場所」です。物理的に届く範囲が限られる電波や紙媒体と異なり、インターネット広告は世界中のどこにでも情報を届けることができます。しかし、ほとんどの広告配信において、ターゲットオーディエンスがいる地域は限定されます。その範囲外にいる人に広告を届けても、効果は見込めません。位置情報を考慮した上での配信が求められます。
「アドフラウド」「ビューアビリティー」「ブランドセーフティー&スータビリティー」「位置情報」という4つの視点は複合的に絡み合っています。DoubleVerifyでは、出稿時にこれら全てについて検証を行い、これを統合した「オーセンティック率」という指標を高めるように広告配信をコントロールします。
ビューアビリティーだけ、アドフラウドだけといったように単体で検証するだけでなく総合的な視点で検証しなければ、インターネット広告が適切な方法、場所、環境下で配信されたかを評価することは難しいと言えます。
米国の大手携帯電話会社の例を紹介しましょう。この会社は、新規顧客獲得のためのキャンペーンを実施するに当たり、「ビューアビリティーを高めればコンバージョン率も上がる」という仮説を立て、インターネット広告の最適化を実施しました。
結果として、ビューアビリティーは42%から57%に上がったのですが、コンバージョン率は逆に下がってしまいました。
そこで最適化後のアドフラウド、ブランドセーフティ、ジオについて調べてみたところ、アドフラウドの発生率や非ブランドセーフなコンテンツへの掲載率が上がっており、ジオも50%以上が指定外の地域に出稿されていました。結果、オーセンティック率は33%から30%と逆に下がってしまっていたのです。
その後、この会社は、オーセンティック率を最大にするようインターネット広告の最適化を再度行い、オーセンティック率を59%まで高めたことでコンバージョン率を0.063%まで上げることができました。
インターネット広告を掲載するメディアやコンテンツは常に変化しています。SNSでは日々新しいコンテンツが公開され、CTVのような新しいメディアが出てくれば、そこにのるコンテンツも、消費者の視聴態度も、アドフラウドの手口も変わります。
ひとたび社会をゆるがす大きな事件が起これば、正しさの基準も変わります。昨日の常識が明日も通用するとは限りません。昨日まではビューアビリティーが高くアドフラウドも少ない、一等地だったコンテンツが、今日からはブランドセーフティの観点で決して広告を配信してはいけないコンテンツに変わってしまう可能性は十分にあります。
そんなメディア環境の中で広告キャンペーンを実施する広告主に重要なのは、キャンペーンのスタート時に計画を立てて実行するだけでなく、期間中も自社の広告を常時4つの視点で検証し続け、最適化することです。
クラウドプラットフォーマーやセキュリティベンダーはよく「Always On」という言葉を使います。環境を常時検証し続けることで、安全な状態を保つという意味ですが、インターネット広告の検証も「Always On」で進めることが、インターネット広告のムダを減らし、キャンペーンの成果を高める第一歩だと言えるのです。
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