X(旧Twitter)の米国における広告収入が激減している。だがイーロン・マスク氏は「広告に依存しなくてもやっていける」と自信を見せる。その理由は何か。
イーロン・マスク氏によるX(旧Twitter)の実験がうまくいくかどうか、正直なところ、私には全く分からない。
スタッフの80%を淘汰した後に通常通りに事業を継続することが可能なのか、当然のことながら多くの人が疑問を呈している。私も認証を有料化してAPIへのアクセス価格を引き上げるというマスク氏の決断に懐疑的な批評家の一人だった。しかし、彼の型にはまらないアプローチは明らかに、少なくともある程度はうまくいっている。
2023年9月4日(米国時間)、米国のユダヤ人の権利保護団体であるADL(名誉毀損防止同盟)をXから追放すべきか否かという論争の最中で、マスク氏(外部リンク/英語)は以下のように述べた。
私たちの米国での広告収入は、主に@ADLによる広告主への圧力が原因で、依然として60%減少している(これは広告主が私たちに言っていることだ)。そう、彼らは X/Twitter をつぶすことにほぼ成功した。
Xの米国での広告収入は、マスク氏による買収前と比べるといまだ大幅に減少している。米国での広告収入はX全体の収入の約50%を占めているため、これはかなり悲惨な状況と見るのが自然だ。
しかし、マスク氏の次の投稿(外部リンク/英語)によると、どうやら違うようだ。
その通り。
われわれはもはや、生き残るために米国の広告を以前のレベルに戻す必要はない。
もちろん、復活してくれるに越したことはないが。
Xは私有法人(株式非公開会社)となって業績報告を公開する必要がなくなったため、現在のXの収益の内訳に関する正確な情報は得られないが、分かっている数字を掘り下げた限りでは、Xが生き残るために米国の広告収入を必要としないところまで来たとは考えにくい。
マスク氏が引き継ぐ前の最後の業績報告期間である2022年第2四半期(2022年4〜6月)の業績について、当時のTwitterは11億8000万ドルの収入があり、その内広告収入が10億8000万ドルを占めていると報告している。
つまり、広告収入はXの収入額の90%以上を占めており、前述の通り歴史的には米国が最大の広告収入源で、広告収入全体の約50%を占めていた。ということは、米国の広告による収入は約5億ドルあったと考えられる。マスク氏が指摘した通りそれが現在60%減少したとすれば、現在Xが米国から得る収入はわずか2億ドルで、他の影響を考慮しなければXの広告収入は四半期当たり7億ドル台に減少していることになる。
しかし同時に、Xは大幅なコスト削減も成し遂げている。2022年第2四半期のXの総支出は15億2000万ドルで、キャッシュフローは大幅なマイナスだった。人件費だけで9億5000万ドルの負担だったが、マスク氏は従業員の80%を削減したため、ざっと見積もっても合計で1億9000万ドル程度まで人件費を減らすことができた。また、マスク氏はデータセンターの廃止や契約の再交渉など、経費削減のためにさまざまなことをしているため、存続可能性の基準はかつてよりもはるかに低くなっている。
他の市場においても広告費が下がっていることを前提に試算すると、Xは現在、四半期当たり5億〜7億ドルの広告収入を生み出す一方、大まかな計算では総経費もほぼ同レベルのようだ。
ここで未知数なのは、X Premiumおよび企業向け認証プログラムである「Verification for Organizations」というサブスクリプションから生じるものだ。どちらも普及は限られているが、Xが新たに始めた広告収益分配プログラムにより利用者が増加している可能性もある。一部の企業は、現在ではAPIアクセスに使用した金額よりもはるかに高い料金を支払っている。
ということは、Xは以前のように米国の広告費を必要としていない可能性がある。つまり、広告パートナーから一定の基準を求められない限り、同社はコンテンツの裁定やモデレーションの決定を好きなように下す自由を得ることができる。
はっきりしたことは分からないが、これらの推測には多くの要因が影響している。その要因には、Xがオフィス賃料の支払いを拒否したり従業員の資格手当を支給しなかったりすることも含まれる可能性がある。もし、これらの追加要素を含めなければ、Xはより強い立場にあるのかもしれない。
いずれにせよ、現在のXの利益は非常に薄く、再び大幅な赤字に転落するリスクを負うことなく新規プロジェクトに投資し続けることは簡単ではないはずだ。それでもXはそれを続けている。XはAIに投資しているが、実際の資金調達方法やサービスとの関連性は不明だ(このプロジェクトはX Holdingsから資金提供を受けている)。その一方で動画コンテンツへの取り組みも強化しており、運用を維持するためのサーバ負荷が増加している。
これまでXは数多くのサービスアップデートをリリースしてきたが、その大半は実際には全く新しいものではなく、以前のTwitter経営陣によって棚上げされていたテストや実験だった。これらのプロジェクトのほとんどを使い果たした今、Xは「全部乗せアプリ」になることを目指す上で全く新しい領域に進まなければならず、そのためには新しい要素や分野への投資も必要となる。
ここが本当の試練になるだろう。Xは以前と比べてはるかに少ないリソースでイノベーションを起こそうとしている。そのため、個々の取り組みの規模はかなり小さくなっていくと予想される。マスク氏は収益にも目を光らせているため、大きな財務的リスクなしに目立った動きをするのも難しい。
マスク氏自身にとっては、リスクは大きな問題ではないだろう。しかし、基本的にXの収益はかつてよりもかなり下がっており、より多くの広告費やサブスクリプションを誘致したいのであれば、新たな要素を介して投機しなければならないだろう。
うまくいくだろうか。
繰り返すが、私には分からない。もし1年前に当時のTwitterが米国における広告収入の60%減をどうにか乗り切れるだろうと言われたら、私は疑心を抱いていただろう。Xが財務的に安定し、その上繫栄する企業になる可能性は非常に低いように思える。しかし、マスク氏はこれまでも困難に立ち向かってきた。だからXにおいてもまた、ありそうでなかった成功を収めるかもしれない。
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