「顧客体験のためのツール」を提供する会社でCMOを務めるということSitecoreペイジ・オニール氏インタビュー

SitecoreでCMOを務めるペイジ・オニール氏はIT業界で25年近くマーケティング上級職を歴任し、女性役員がほぼいない頃からCMOを務めてきた。既存のロールモデルに縛られず、自分らしいリーダーシップ像を見つけるまでに歩んできた道のりとは。

» 2022年06月14日 08時00分 公開
[池田園子ITmedia]

 良質な顧客体験を創出できるか否かはビジネスの成否を左右する。重要なのは顧客一人一人の課題に寄り添ったコンテンツを、最適なチャネル、最適なタイミングで提供すること。そのために、従来のWeb CMS(コンテンツ管理システム)の枠を超えたDXP(デジタル体験プラットフォーム)が注目されるようになっている。

 代表的なDXPベンダーの一つであるSitecoreでCMO(最高マーケティング責任者)を務めるのがペイジ・オニール氏だ。「お客さまに共感を示してつながりを持ち続けることが、ブランド側から求められるようになってきている」とオニール氏は話す。それを実現するための製品を売る企業で自社のマーケティングチームをけん引するとはどういうことなのかを聞いた。

ペイジさん ペイジ・オニール氏
Sitecore CMO(最高マーケティング責任者)。エンタープライズソフトウェア、顧客体験、クラウドコンピューティングなどのさまざまな分野で、20年以上にわたりマーケティング上級職を歴任し、2018年より現職。製品マーケティングの専門知識とコミュニケーションの幅広い経歴を兼ね備え、認知度、差別化、需要を構築するオピニオンリーダープログラムの開発に情熱を注ぐ。

やりがいに満ちたCMOの役割

――現在の役割について教えてください。

オニール氏 SitecoreのグローバルCMOとして4年間、ブランドコミュニケーションからデマンドジェネレーション、デジタルマーケティング、Webサイト、製品マーケティングまで、マーケティングのあらゆる側面の責任を担っています。

――この4年間で何か変わったことはありますか。

オニール氏 当社自身のことだけでなく、多くのことが変わったと思います。2018年に現職に就いたとき、Sitecoreは急速に成長しつつありました。当時の私に求められていたのは、その成長を維持し続けること。そこで、ブランドを世界レベルに引き上げることに集中しました。

 CMOになって2年目を迎えたところでコロナ禍を経験し、そこで変化を目の当たりにすることになります。当時、既に米国を中心にマーケティングのデジタル化は進んではいましたが、他の地域もそうであったわけではありません。そこで、あらゆる地域のあらゆる組織のデジタルシフトを進めるために、われわれのマーケティング計画も迅速に変えていくことになりました。

 この2年間の活動を通して私たちもまた多くの学びがあったと思います。対人のマーケティングがなくなったわけではありませんが、ここで培ったデジタルマーケティングの力は今後も維持していきたいと思っています。

――SitecoreのCMOであることのやりがいとは何でしょう。自社、競合、顧客、それぞれの視点でどういうことが言えますか。

オニール氏 CXの領域のテクノロジーというのは非常に面白いものです。私たちがフォーカスしてきたのはマーケティング部門が抱える技術的課題ですから、私自身も新たな技術を理解した上でチームメンバーに伝え、彼らにも理解を深めてもらうようにしています。

 対競合という意味では、変化が激しく競争の激しい領域で自社のポジショニングや他社との差を明確にしたメッセージの出し方を考えることにやりがいを感じています。2021年には4社の製品を買収しましたが、その際、まず自社内で製品理解を深めるサポートを行い、営業チームにトレーニングを施して他社と差別化させるプロセスも、とてもワクワクするものでした。

 そして顧客。Sitecoreのお客さまは、各社がそれぞれのお客さまに対し顧客体験を提供しています。さまざまな企業のCMOと話す中で、共通の課題も見えてきました。顧客体験を理解し、それを最大限に良いものにするために、どういうプラットフォームを使うのが適切か、多くのCMOが悩んでいます。それを解決するための製品を私たちは持っている。この立ち位置にいるのは、とてもうれしいことです。

――CMOの仕事は面白さや刺激に満ちている一方で、難しさもあるのではないでしょうか。

オニール氏 他社のCMOからは「経営層にデジタルテクノロジーやDXP分野への投資を承認してもらうため、準備を手伝ってほしい」と相談を受ける機会が増えています。先ほども申し上げたように、さまざまなテクノロジーやプラットフォームが存在する中で、最適な組み合わせを作るのは非常に難しいのです。また、私のようにB2B領域でCMOをしている人間は、マーケティング部門と営業部門の間のパイプラインをどう合理化して構築するか、そのためにテクノロジーをどう活用するかを考え、試行錯誤する日々を送っていると思います。

 デジタルマーケティングの世界がより一層速いスピードで移り変わっていく中で、そこにキャッチアップしながら顧客が抱える多種多様な課題に応えるのは、なかなかハードなことです。しかし、だからこそやりがいがあるともいえます。

――御社は4社の買収で製品群の在り方を刷新し、「コンポーザブルDXP」というコンセプトを大きく打ち出しました。CMOやマーケティング部門が多様な課題に向き合う上で、旧来のモノリシックなシステムから解放されることは、一つのポイントになるのではないでしょうか。

オニール氏 DXPが内包する多様な機能をコンポーザブル(組み合わせ可能)なコンポーネントに分解することで、顧客はDXPを柔軟に構築していけるようになります。ですから、おっしゃるようにコンポーザブルであることは今、とても強く求められています。

 デジタルエクスペリエンス関連のプロジェクトは数年単位で実現するものもあり、全てのソリューションを特定のタイミングで使い切るやり方は、いまや時代遅れです。その時々で必要なテクノロジーを用いて、ソリューションが必要であれば後で足すような形で、シームレスにやっていくことが重要になってきます。コンポーザブルDXP戦略を取り、SaaSベースのモダンなプラットフォームを提供することで、それぞれの組織が望むやり方でソリューションを拡張してもらえるようになると思っています。

唯一の女性役員だったときに感じた孤独

――ここからは個人のキャリアについてうかがいます。オニールさんはもともとマーケティング職を志望していたのでしょうか。

オニール氏 昔は大学教授を目指していました。ニューヨーク大学大学院に通っていたころの話です。結果としてアカデミアの道には進まず、当時アルバイトしていたPR会社にそのまま就職しました。自分の描いていたイメージとは違う形でキャリアがスタートしましたが、その後、転職してIBMで働いていたとき、インターネット部門が立ち上がるタイミングでマーケティング業務に従事するようになりました。Webがビジネスに及ぼす影響を考えると、その最前線で働きたいと思ったのです。

――その後、マーケターとしてキャリアを築き、何社ものCMOを経験することになるわけですが、チームを率いる立場になって変わったことはありましたか。

オニール氏 初めて管理職になったころ、自分一人でやれば早く上手にできるはずのことが、チームに任せるとうまくいかない難しさを感じたのを覚えています。チームをマネジメントする際、自分が培ってきたことをいかに伝えていくかが大変だったのです。試行錯誤を重ねるうちに、自分にはコーチング型マネジメントが合うと気付き、それを実践する中で一人一人が自発的に動くチームに変わっていました。

――管理職になって以降、ジェンダーギャップを感じたことはありましたか。また、それが仕事のやりづらさにつながった経験はなかったでしょうか。

オニール氏 Sitecoreを含め7社でCMOを経験してきました。経営陣のうち自分だけが女性だった、取締役会でプレゼンをする女性が私一人だったというケースも少なくありません。そうした中で、孤独を感じることは数多くありました。

 初めてCMOの役職に就いたのは35歳のときで、他の役員は私よりはるかに年上の男性ばかり。彼らと私との間に接点はなくて、横のつながりを構築していくのは簡単ではありませんでした。もちろんそうした中でも学びはあるものですが、役員の中で女性が一人だけという状態は、なかなか厳しい立ち位置になることが多いです。

誠実さと共感性が求められている

――2022年3月8日の国際女性デーにSitecoreが発信したプレスリリースの中でオニールさんは「男性的なロールモデルに従おうとしなくなったときに、やっと自分自身のリーダーシップスタイルを確立できた」とコメントを寄せていました。その真意についてもう少し詳しく聞かせてください。

オニール氏 どのようなリーダーになればいいのかと考え、いろいろな組織を見てきた中で、ロールモデルになるのはいつも男性ばかりでした。リーダー的立場にある女性もときどきはいましたが、圧倒的多数は男性です。挑戦的かつ野心的な人が大半で、私はそれこそがリーダー像なのだと思い込み、そのスタンスをまねしていました。

 しかし、経験を重ね、いろいろなスタイルのリーダーシップを見る中で、自分が目指したいリーダーシップについて真剣に考えるようになりました。具体的には相手と真摯に向き合い、透明性を持って関係を構築し、共感を示し、ポジティブなエネルギーを伝えること。私が理想とするのはそんなリーダーだと気付いたのです。

 リーダーとして何か変革を起こすときも、私自身が変化にワクワクしながら、楽しんで取り組んでいるのを周囲に伝えるよう意識しています。そうすれば皆も同じようにポジティブなマインドで動いてくれて、好循環が生まれます。

――「共感を示す」をはじめ、オニールさんがリーダーとして大事にしている要素は、多くの女性が得意とすることのように感じます。

オニール氏 そう思います。ちなみに私のチームでは女性メンバーが8割を占めています。特にコロナ禍以降、お客さまに共感を示してつながりを持ち続けることが、ブランド側から求められるようになってきていると感じています。ブランドを代表する立場で仕事をするのがマーケターです。誠実に対応し、共感を示し、良い関係性を築いていく。女性であれ男性であれ、お客さまに対しそれらを実践しているならば、マーケターとして大いに自信を持ってほしいと思います。

執筆者紹介

池田園子さん

池田園子

いけだ・そのこ プレスラボ代表取締役。編集者。2009年楽天入社。2012年ライターとして独立。2016年から4年「DRESS」編集長を務める。相撲とプロレスが好きでコンテンツ制作に携わることも。2020年2月代表交代に伴い現職。

 

Twitterアカウントは@sonokoikeda

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