「コンテンツの民主化」に伴うリスクとガバナンス グローバルWebサイト運用の課題をどう解決する?withコロナ時代の「デジタルプレゼンス」を語ろう 第3回(1/2 ページ)

「コンテンツの民主化」が叫ばれ。制作から公開までの役割分担が大きく変わりつつあります。そうした中、コンテンツのサプライチェーンにおけるガバナンスは重要なテーマとなっています。アバナードCTIO(最高技術革新責任者)の星野友彦氏に聞きました。

» 2020年08月21日 08時00分 公開
[安部知雄サイトコア]

 こんにちは。サイトコアの安部です。

 「デジタルプレゼンスの再考」をテーマに、松永エリック・匡史氏がキーパーソンの話を聞く企画も3回目。今回のゲストにはアバナードでCTIO(最高技術革新責任者)を務める星野友彦氏を迎えました。アバナードはアクセンチュアの子会社で、とMicrosoftとの戦略的合弁会社として設立したコンサルティングファームです。最近ではDXやイノベーション創出の支援に力を入れていて、サイトコアにとっては日本を含む世界各国で協力関係を築いている大事なパートナーの一社です。2人は「コンテンツの民主化とガバナンスの両立」をテーマに、未曾有の環境変化に適応しようとするクライアントのサポートについて語り合いました。

ローコード開発への注力

星野友彦氏 アバナード CTIO(最高技術革新責任者)

星野 コロナ禍のように予想できない問題に直面したとき、どう柔軟に対応するか。これはクライアントから頻繁に聞かれる質問です。この悩みを解消する手段として、アバナードでは数年前から高度なコーディングの知識や経験を必要としない「ローコード開発」に注力してきました。今、そのローコード開発の必要性が高まっていると感じます。ローコード開発のメリットとしてはまず開発生産性の向上が挙げられますが、開発のハードルを下げることも見逃せないメリットです。ローコード開発であれば、予想外の問題が起きたときにもビジネスの最前線にいる人たち自身で対応できます。

松永 日本企業は米国のようなトップダウンではないので、コンテンツ制作に関しても、現場からボトムアップで変えようという動きが活発化しています。ボトムアップの変革とはすなわち「コンテンツの民主化」です。コンテンツ制作から公開までのサプライチェーンは、これまではマーケティング部門あるいは広報部門といった専任部隊が担当するものでした。だから例えば商品開発の現場に自由にコンテンツを作ってもらうようになると、かつてのような部門ごとの役割分担を変えなくてはならない。コンテンツは商品を一番知る部署が作成するというようになると、公開前に法的にあるいはブランド統一の観点から問題がないかをチェックする専門部署が必要になるでしょう。そのためには商品開発とプロモーションを一体的に行えるよう体制を変えていくべきです。現場の自由度が高まるとガバナンスとの両立が難しくなるところは要注意ですね。

星野 今から7年ぐらい前になるでしょうか。ある消費財メーカーのクライアントを担当していた頃、マーケティング部門が作ったコンテンツを営業部門が使っていないという問題に気付きました。顧客のニーズを十分にくみ取らずにできたコンテンツが現場では使われないという問題は、今に始まったことではありません。しかし、進化したテクノロジーを活用すれば、現場を知る営業がコンテンツサプライチェーンにコンテンツを載せ、マーケティングがガバナンスを利かせるという役割分担が実現できます。それができれば、この問題は解消できると思います。また、コンテンツの量が増えてくると、どこに何があるか、再利用していいのかといったコンテンツ管理の問題が出てきます。最新テクノロジーはその問題も解決できる。その意味で、今は企業がやりたいことを実現しやすい環境になっていると思います。

B2C向けツールには要注意

松永エリック匡史氏 アバナード デジタル最高顧問。青山学院大学 地球社会共生学部 教授

松永 一つ、今の話に関連して企業が留意すべき点があります。コンテンツ制作において企業が使うべきB2B向けツールと、若手が普段親しんで個人的に使っているようなB2C向けツールは根本的に違うということです。コンテンツサプライチェーンにおけるガバナンスとは、セキュリティは当然のこと、デザインの統一感のチェックや利用許諾の確認が中心になると思いますが、往々にしてB2C向けのツールはそのようなエンタープライズ要件を満たしていません。例えば、現場と管理者が役割に応じてコンテンツ編集を行えるようにするには権限管理機能が必須ですが、B2C向けツールにはグローバルコンテンツサプライチェーンに必要な機能が備わっていないのです。B2Bの要件に対応し得る仕組み作りに知見のある企業もまだまだ少ない。グローバルレベルの組織変革を企業の中の人材だけで見直し、自社だけで環境変化にスピーディーに対応することは困難だと思います。その意味で、グローバルでの変革成功事例を持つ企業をパートナーに進めていくべきなのです。

星野 同じ会社で同じ製品を扱っているにもかかわらず全く違う画像を使うようなコンテンツがあると、お客さまから見て違和感があるだけでなく、コンテンツサプライチェーンでもムダができてしまいますよね。ガバナンスを利かせることはムダを減らし、スピーディーに対応できるということでもある。そのためのプラットフォームを整備すれば、現場にとってもプラスになりますし、組織改革と合わせてやるべきだと思います。

松永 今までのデジタルはリアリティーを追求してきましたが、コロナで人と実際に会うことがなくなる中、「Zoom」や「Microsoft Teams」を使ったオンラインコミュニケーションこそがリアルになるという逆転現象が起きています。「しょせんはWeb」という考え方はafter/withコロナの時代ではとても危険です。経営者はWebコンテンツが持つパワーを認識する必要があります。Webはすでにリアルの世界になっているのですから、お客さまは「これはWebだから」と許してはくれない。そう考えると変革に必要なことが分かるのではないでしょうか。

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