連載
» 2020年08月14日 16時00分 公開

【新連載】ダイレクトな人々 第1回:小嶋陽菜さんが作りたかったコミュニティーとしてのD2Cブランド「Her lip to」 (1/2)

話題のD2Cブランドとそこで生まれるコミュニケーション、ブランドの仕掛け人の思想について考察します。

[池田園子,プレスラボ]

 自社で企画・製造した商品を自社のチャネルで販売するD2C(Direct to Consumer)のビジネスモデルが注目されている。D2Cの本質は、購入までのプロセスを通して、ブランドの価値を直(Direct)に体感してもらうところにある。それを後押しするのが、顧客の共感を生み出す「ストーリー」だ。この連載では、筆者が注目するD2Cブランドのストーリーとその語り手であるブランドオーナーに注目し、顧客の心をつかむコミュニケーションの在り方を考察する。

 第1回で取り上げるのは、アパレルブランド「Her lip to(ハーリップトゥ)」。プロデューサーを務めるのはタレントの小嶋陽菜さんだ。

小嶋陽菜さんのアパレルブランド「Her lip to」

 小嶋さんは2017年4月にAKB48卒業後、2018年6月に同ブランドを立ち上げ、ネットショップ作成サービス「BASE」を活用してECサイトを展開している。

 発売即完売となるアイテムが続出し、多くの顧客が商品到着後の写真や着用写真をSNSにアップする人気ブランドである。SNSで「#herlipto」と検索してみていただきたい。

 芸能人プロデュースと聞くと、当人がブランドに名前を貸して、広告やパッケージに「◯◯プロデュース」と記載されるようにしたり、商品企画だけに関わったりするのを思い浮かべるかもしれない。だが小嶋さんはブランドオーナーとして事業にコミットし、商品企画からメーカーとの打ち合わせ、着用モデル、ECサイト掲載用の写真選定・色味調整、売れ行き分析、SNS運用、ポップアップストア展開など、川上から川下まで全てに関わっている。

 自身の公式Twitterアカウント(@kojiharunyan)の投稿は、今ではHer lip toに関するものがほとんどだ。新作販売や再販の告知、商品動画の紹介、ブランドプロデューサー・経営者として受けた取材記事の告知、ブランド公式Twitter(@Herlipto_info)の投稿リツイートなど、自身のリソースの大半をブランド運営に投下していることが伝わる。

ファンとつながるメディアを作るつもりだった

 一人の実業家・スタートアップ経営者としての小嶋さんの考えとはどのようなものか。2020年7月30日にセールスフォース・ドットコムがオンラインで開催した「Salesforce Live: Commerce」でそれを聞く機会があった。

「Salesforce Live: Commerce」に登壇した小嶋陽菜さん

 小嶋さんはAKB48在籍時から単独での露出も多かった。モデルとして女性誌『MAQUIA』『sweet』で活躍し、資生堂やユニクロのイメージキャラクターに起用されるなど、男性ファンのみならず、女性ファンを多く獲得していた。小嶋さんのメイクやファッション、スタイルに憧れる女性は多い。

 もともと小嶋さんはファンとつながるために、コミュニティー的な役割を果たすメディアを作ろうと計画していた。それが、一つのコンテンツとして考えていた洋服の販売を主軸として展開することに方向転換し、アパレルブランド「Her lip to」が誕生した。

 なるほど、SNSでハッシュタグ「#Herlipto」が付いたファンの投稿を眺めていると、そこに小嶋さんが当初作りたかった「コミュニティーのようなメディア」のイメージが感じられる。Her lip toは小嶋さんが理想とする「場」であり、小嶋さんはHer lip toというコミュニティーのオーナーなのだ。さらに、顧客はコミュニティーの参加者であり、オーナーと共にHer lip toというコミュニティーを作り、その場を盛り上げている。

 Her lip toはワンピースを中心とした、1着2万〜3万円台の洋服が中心のブランドだ。主な購買層は30代女性。公式Webサイトの「About」には「生地の素材やラインにこだわり、日常に自然と溶け込む気品と華やかさをHer lip toは提案します」とある。

 試しに「Multi Stripe Back Ribbon Dress」(2万3100円/税込み)を見てみよう。商品の説明テキストはやや長文だ。「肌触りの良いさらりとしたサマーニット糸を使用」「ところどころに上品な細かいラメ糸がさりげなく施されて」「リブの幅を部分的に変えたIラインシルエットはスタイルアップを演出」など、小嶋さんのこだわりが詳細まで言語化されている。

 加えて「肩ひものリボンは長さを調整する事で背中の空きを広げることが可能」のように、自分らしい着方を楽しむ提案もある。「日常のドラマティックな瞬間がワードローブで叶うように」(Aboutページより)との思いが、各商品に込められている印象を受ける。どの商品ページを見ても、軸がブレることがない。淡くやわらかな色合いで統一された写真は品があり、商品のディティールを真摯に伝えるテキストと相まって、上質な世界観を打ち出している。

世の中の変化に敏感に対応

 以前のHer lip toは「よそ行き服」が多かったが、2020年3月頃からラウンジウェア(部屋着)やワンマイルウェア(“ちょっとそこまで”の外出をおしゃれに彩る、抜け感のある洋服)が目立つようになった。コロナで外出自粛が要請され、自宅や近場で過ごす人が増えたことを想定し、当初作る予定だったアイテムから路線変更したという。

 具体的には、シルク素材でできたマスク「HLT Beauty Silk Mask」(3850円/税込み)や、ロゴTシャツ「Stay Home T」(6050円/税込み)、「Relaxed T-Shirt Long Dress」(1万2100円/税込み)のように、1万円以下から1万円台前半のアイテムが並ぶようになった。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.