「スマートドライブ」「カルモ」「akippa」「Zuora」 移動×サブスクの未来を語る所有から利用へ(2/2 ページ)

» 2019年11月27日 20時00分 公開
[やまもとはるみITmedia マーケティング]
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モビリティー領域における市場創造の課題

 モビリティーの領域でデジタルテクノロジーをベースにした新たなビジネスが続々と生まれている。カルモやakippa、スマートドライブもまた、そうした勢力の1つと数えられるだろう。この領域、あるいはスタートアップという立場だからこそ感じる難しさというものは何か。

 高橋氏が自社の課題として挙げたのは1つ。カーリースはデジタルコンテンツと違ってアセットが必要になる点だ。資本が十分でないスタートアップが自前で自動車を購入してリースに提供するのは現実的ではない。必然的に大手企業とアライアンスを組みながら消費者にニーズのあるサービスを作り出していく取り組みが必要になる。

 その際にいちばん困るのが、動きの速度が合わないことだ。大企業とスタートアップでは危機意識や切迫度に大きなギャップがあり、そこに難しさを感じるという。

 「大手からすると極論1年くらいこのままでも別に構わない。かたや自分たちは1年間動きが止まったら倒産してしまう」(高橋氏)

 大企業とスタートアップのギャップという点でいえば、大企業のやりたいことに対してベンチャー側のリソースが足りないというパターンでスピードが落ちるケースもあると金谷氏は指摘する。akippaを始めたときにはDeNAからエンジニアや大手向け営業担当を出向させてもらった。現在は損保ホールディングスの代理店網を使ってビジネスを拡大しようとしているが「自分たちには代理店の気持ちは分からない」(金谷氏)というのが正直な本音だ。大手と組んで事を進める際には、リソース不足をどう賄ってもらうかといったことも条件に織り込んでもらう必要がある。

 北川氏のスマートドライブでもリソース不足で悩んだ経験があるという。そうした中で難しいのが、複数社と提携する際の優先順位の付け方だ。「以前は一緒にやってくれたのに今は……」といったパワーバランスに悩まないためにはどうすればいいのか。一つの答えとして金谷氏は「メイン戦略を定期的に伝えて意思疎通を図る」ことを挙げた。

モビリティーならではのやりがい

 逆にモビリティーならではのやりがいとは何か。高橋氏は自動車が「リアルテック」であることを挙げた。

 「この領域の魅力は人の生活がダイレクトに変わるということだと思っている。Webで完結している世界で仕事をしていると事業の手ざわり感が損なわれる面がある。自社のサービスでクルマを手にした人の喜びの声を聴くとうれしい。また、大手企業とのアライアンスがうまく機能すれば大きなことができること」というのは、SEOから始まり長年デジタルマーケティング支援事業をメインフィールドとしてきた高橋氏ならではの感想だろう。

 国内自動車メーカーやMaaSを手掛ける企業からも相談を多く受けるという桑野氏は、モビリティーをサービス化することで、単にクルマの価値を12分割や24分割にするだけにとどまらない、別の付加価値を付けて提供できること点に触れた。

 提供すべき価値とはすなわち顧客のニーズだ。あるカーシェアリングサービスで走行距離が伸びない人がいたので調べてみると、その人は自動車を動かさずにそこで睡眠を取っていたのだそうだ。利用者はクルマの中で仮眠を取っているかもしれないしカラオケの練習をしているかもしれない。クルマは運転して当然というプロダクトアウトの発想では、こうした価値に気付くことはできない。顧客の利用状況を観察し続ける中でモノとしてのクルマを越える新たなニーズ=価値を見つけていくことはビジネスの肝であり、MaaSの醍醐味ともいえるだろう。

 金谷氏はスタートアップとしての立場から、モビリティーを生業にすることの魅力として「大企業が将来性に賭けて出資してくれること。それだけでなく大企業のリソースも使わせてもらえること」を挙げた。akippaはもともと携帯電話キャリアの営業会社としてスタートしたこともあり、小さな会社が大企業と台頭に組めるという経験の得難さをよく知っているのだ。

 また、大手から見ても、フットワークの軽いスタートアップと組むメリットはある。例えば損害保険会社で顧客が自動車保険を解約したら、それは自動車を手放したことを意味する可能性がある。akippaからしてみれば駐車場が空いたというシグナルになる。両社が組むことで単なる機会損失を別のオポチュニティーに転換させることができるかもしれない。

これからの「移動×サブスク」

 モビリティー領域における「所有から利用へ」の先行きをどう見ているのか。これがパネルディスカッションの最後のテーマだ。

 桑野氏が何度も強調するのは、単に料金体系を定額にすることをもってサブスクリプションとするような浅薄な理解では、商材が何であれうまくビジネスを立ち上げることはできないということた。サブスクリプションサービスでは、顧客は価値に対価を支払う。また、何が価値となるかは顧客のニーズや時間経過によって変化する。

 例えばあるクラウドサービスの企業では、低料金のベーシックプランで顧客を取り込み、利用期間に応じてより高機能な上位版や別のサービスを提案するなどして顧客に新しい価値を提供している。ここまでは分かりやすいが、サービスの利用減少が目立ってきたら、逆に一定期間の利用休止やダウングレードを提案することさえある。利用減少は解約の兆候だ。解約されないためには、顧客の小さな変化を即座に発見して素早くアクションを起こすことが大切だ。休止やダウングレードで一時的に単価は下がっても、とにかく継続してもらい、顧客との関係を維持し続けていれば、また利用頻度を上げるチャンスは巡ってくる。

 「変化を的確に捉えサービスを進化させ続ける必要がある。サブスクリプションジャーニーを最適化しタイムリーに提供できてこそ、顧客と長期的な関係を構築できLTVの最大化が図れる。サブスクリプションサービスは永遠のβ版。顧客と直接つながりニーズをずっと見ていくことで、サービスを進化させ価値を提供し続けることが重要」’(桑野氏)

 金谷氏は、これからのモビリティーと、そこにおける自社の展望を語った。akippaは2022年に20万カ所の駐車場にすることを当面の目標に掲げている。これと全国で19万カ所あるコインパーキングを合わせることで、将来的に路上駐車という社会課題を解決することができるかもしれないと期待を寄せている。

 一方で、少子高齢化というトレンドもあり、将来的に駐車場の市場が現状規模を維持できているかどうかは不確実だ。そこで金谷氏は、2040年にakippa20万カ所の駐車場を充電スポットに変える構想を抱いている。場所のシェアから電気のシェアへ。また、自動運転の待合場所にも駐車場は使えると金谷氏は考えている。駐車場という場所をおさえ、akippa会員であるドライバーの情報を保有しているというのは、今後のモビリティー領域では1つの強みとなるだろう。

 「大企業含め各社がMaaSのプラットフォームを狙っているが、当社がその舞台で勝負するのは賢明ではない。むしろ、そういう会社に頼られる存在でありたい」(金谷氏)

 高橋氏がカルモで目指すのは「全ての人が車を持てるためのサービス」の実現だ。しかし、事業を展開して1年半で高橋氏が痛感したのが、車を持ちたいのに審査が通らない人がものすごく多いということだ。

 推計データでは、ローンないしはリースを契約している人が年間で260万人いるという。一方で審査が通らない人も200万人いる。この数字からは、車を持つことを諦めたり程度のよくない廉価な中古車に乗ってしまう人が少なからずいることが考えられる。高橋氏はこのことを非常に大きな問題として捉え、改善に向けて動き始めている。

 具体的には、現在新車のみを扱っているカルモの中古車版を近くリリースする予定だ。加えて、現在のローンやリースに通らない人たちに向けた金融サービスなども考えている。 

 「どういうニーズを切り出せるのかを徹底して考える会社でありたい。例えばクルマを所有すると1ユーザーに1台の価値しか提供できないが、カーシェアリングなら価値提供の機会を増やすことができる。こういった組み合わせは無限にあると思っている。その新しい切り出し方を追求し、顧客に価値を提供し続けていきたい」(高橋氏)


 CASEやMaaSが海外で流行っているから日本でもやろうというだけでは、事業は発展しない。一人一人の消費者に魅力を感じて使ってもらえるサービスを作るには、何よりも顧客を知ることに重きを置き、その姿勢を続けることなのだろう。

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