KDDIまとめてオフィスが3000万円のムダ打ちから学んだB2Bマーケティングの正攻法顧客を知り、顧客に寄り添う

全国の中小企業向け支援サービスを展開するKDDIまとめてオフィスは、過去のマーケティング施策で3000万円を投下して大失敗した経験から、何を学んだのか。

» 2018年11月13日 08時00分 公開
[水落絵理香ITmedia マーケティング]

 本稿では「Fearless Marketer(恐れないマーケター)」をテーマに掲げたマルケトの年次イベント「The Marketing Nation Summit 2018」から、中小企業向けにオフィス支援サービスを展開するKDDIまとめてオフィスの窪田 靖氏(取締役副社長 経営管理本部長)とB2Bセールス・マーケティング支援を行う2BC代表取締役社長の御手洗 友昭氏による講演内容を紹介する。

マーケティング施策に3000万円投下して撃沈の過去

 KDDIまとめてオフィスは、モバイル・通信サービスやOA機器などオフィスのあらゆる需要に応えるサービスを提供している。

 当初は従業員数1000人以上の大手企業向けのサービスだったが、クラウド普及に伴い中小企業にもサービス提供が可能となり、2011年2月にKDDI本体のサービス事業を分社化する形で新会社KDDIまとめてオフィスを設立。同年4月にサービスを開始した。

 同社が中小企業にターゲットを絞って最初に直面したのが、営業のリソース不足の問題だ。

 「従業員100人以下の中小企業は約400万社。弊社の直販の営業部隊は500人しかいなかったので、全てに当たることはできない。そこで、マーケティングに取り組む必要性が出てきた」(窪田氏)

 当初は、保有リストに対し飛び込み営業を実施していたという。当然確度は低く、アポ率は2%、アポからの案件化率は10%という状況だった。マーケティングでリードを獲得して営業に渡せばさすがに2%よりは良い数字にできるだろうともくろんだのだ。

 しかし、責任者を任されたものの、当時の窪田氏にはマーケティングの実務経験がなかった。そのため、経験のある部下の協力を得つつ、セミナーを開催し、メルマガ広告を中心としたキャンペーンを打ち、エキスポ(大規模展示会)へも出展するなど、それらしい施策を一通り打ってみることにした。特にキャンペーンは大々的に展開し、見積もりを取ったユーザーにダイソンの掃除機をプレゼントするなど、高額なインセンティブを付与した。

 投下した予算は合計で3000万円。ところがふたを開けてみると、これが驚くほど効果がなかった。セミナー経由の受注数は0件。キャンペーンも0件。エキスポでやっと7件。散々な結果に終わったのだ。

KDDIまとめてオフィスの窪田 靖氏

顧客を知ると、勝ち筋が見えた

 何が問題だったのかを整理するため、窪田氏はマーケティングの基本となる顧客理解に立ち返り、デプスインタビュー(面談形式のインタビュー)を実施した。約2週間、朝から晩まで徹底的に顧客の声を聞き続けた。その結果、以下の5つの傾向を見いだした。

  • お客さまは適切なタイミングで情報が欲しい
  • 少額謝礼付きの簡単なアンケートは回答する
  • 自分で比較検討できる分かりやすい資料がほしい
  • KDDIは知っているけれど「KDDIまとめてオフィス」はよく知らない
  • お客さまの本業に貢献するテーマのセミナーやイベントに興味がある

 それらを踏まえて過去を顧みると「KDDIまとめてオフィスを知っている前提」で「インセンティブを得るハードルの高いキャンペーン」を実施するという、顧客の状況に全く合わない施策を行っていたことに気づいた。

 同社はそこから、ライトリード(一般的な名称の「コールドリード」は冷たすぎる印象があるので「ライトリード」に言い換えたという)を確保し、ホットリードへ育成する王道の施策に切り替える。

 少額プレゼント付きの簡易アンケートを実施したところ、一気に3万件のリードが集まった。また、エキスポではカフェ型展示を実施し、歩き疲れた来場者にコーヒーを無料提供し、そこをフックにiPadでアンケートを実施し、許諾を取った上でリードになってもらった。当時、カフェスペースを設置する出展企業はほとんどいなかったため、集客効果は絶大だった。結果、失敗した施策と比較してリード獲得数は5倍、獲得単価は3分の1になった。

 次に取り組まなければいけなかったのが、ライトリードをホットリードに転換するための施策だ。参考のために外資系企業の状況を調べると、プッシュ専門のコールセンターを組織しているところがほとんどだった。そこで、KDDIまとめてオフィスもコンタクトセンターを設置。ライトリードに電話し、ホットリードに誘導する役割を担った。

 コンタクトセンター設置直後、営業への送客数は順調に増加していたが、あるとき突然急落した。窪田氏は、急落の原因を探るため一件一件のコール状況を調べた。

 「アポが取れているコールは、コミュニケーターがお客さまの状況をよく理解している傾向にあった。であれば、お客さまについての情報がどれだけそろっているかをスコアにして、スコアの高いところから優先的にコールすればいいと考えた」(窪田氏)

MA導入後はデータドリブンアプローチを徹底

 こうしてスコア計測を開始したが、人力での管理に徐々に限界を感じるようになった。スコアを自動集計できるツールはないかと探し、行き着いたのがMarketoだ。当初は他のマーケティングオートメーション(MA)ツールを導入していたが、パーソナライズを突き詰めるにはMarketoが最適と判断したという。ただ、社内に高機能なMAを使いこなせる人間がいなかったので、MA導入支援を行う2BCに協力を仰ぐことにした。

 KDDIまとめてオフィスの場合、マーケティングテクノロジーの導入をシステムインテグレーター的に進めている点が課題だったと御手洗氏は振り返る。「本来のビジネスゴールを無視し、マーケティングテクノロジーの導入自体をゴールにした『MA導入プロジェクト』になっていた。今でもそのような状況に陥っている企業は多い」と御手洗氏は指摘する。

 2BCが参加したことで、Marketo運用は本格化した。パイプラインの統合管理に始まり、各組織が保有するデータを集約・共有し、顧客理解を促進した。さらに、重回帰分析によるアカウントターゲティング(優良顧客を要素分解し、類似する要素を持つ顧客を抽出)を実施するなど、データを最大限活用した施策に取り組んでいる。

2BCの御手洗 友昭氏

マーケティングとセールスは融合する

 窪田氏と御手洗氏は、米国アリゾナ州で開催されたB2B専門の年次イベント「B2B Marketing Exchange」に参加した際、今後のB2Bビジネスの展望を垣間見たという。

 「イベントに参加していたユーザーの8割が、マーケティングとセールスが分断されているという悩みを持っていた。一方、残り2割のユーザーは、セールスがマーケティングの後ろでリードを受け取っているだけの体制は時代遅れだと語っていた」(御手洗氏)

 マーケティングとセールスは、もはや分断された関係ではなくなってきている。そうした中では、リード獲得から商談に至るまで、常にタッグを組んで補完し合う関係性が理想だ。

 「B2B Marketing Exchangeでは、今後はABM(アカウントベースドマーケティング)からABS(アカウントベースドセリング)が主流になっていくといわれていた。われわれも今、それに取り組んでいる」(窪田氏)

 ABMは営業の成果を重視しつつも基本的にはマーケティングにフォーカスした概念であるのに対し、ABSはマーケティングとセールス双方の領域を網羅する。収益を生み出すには、マーケティングとセールスで協業し、一貫して顧客に寄り添ったコミュニケーションを行う必要がある。窪田氏は「人の喜ぶことをやって、嫌がることはやらない。当たり前のことだが、仕事をしていると意外と忘れがちになる。顧客を知り、顧客に寄り添う姿勢を大事にしたい」と、まとめた

 ビジネスに関する全てのテクノロジーは、顧客理解を深めるために存在する。顧客を知るという商売の大原則をないがしろにすると、どれだけ優れたテクノロジーでも成果は出せないのだ。

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