仲間同士でつながり合い、切磋琢磨することで成果が上がる「ピア効果」。SNSの普及を背景に、これをうまくマーケティングに取り入れるための考え方を紹介する。
いわゆる「学び合い」として、特に教育関係者の間では以前からよく知られている「ピア効果」は、経済学においてもその存在感を増している。
ピア効果とは、仲間(peer)と一緒に活動することで、単独で取り組んだ場合よりも個々の成果が上がることをいう。情報やアイデア、思考を仲間内で忌憚(きたん)なく共有し合うことで、互いに刺激され、全体としても個人としてもパフォーマンスが高まるというこの効果は、経験則的にも理解しやすいところだろう。
ピア効果は古今東西、さまざまな形で確認されている。歴史的に有名な事例としては、才能集団を表す言葉として今でもよく引き合いに出される『水滸伝』中の「梁山泊」のエピソードがある。これなどは中国の宋王朝時代にまでさかのぼる。日本でいえば、手塚治虫をはじめ多くの優れたマンガ家を輩出したトキワ荘などにもピア効果を見ることができそうだ。ちなみにトキワ荘は「マンガ梁山泊」とも呼ばれている。この他、80年代の漫才ブームや最近のアイドルグループのシステムを観察しても、仲間と切磋琢磨することでパフォーマンスがどんどん上がるということは実感しやすいのではないかと思う。
ピア効果は今日、デジタルコミュニケーションツールの急速な発展によって、特に重要な概念になってきている。
SNSの普及は「仲間」を一気に増やすことを容易にした。SNSで友人が旅行に行ったと知れば「いいね!」ボタンを押して反応し、一方で(それに負けじと)自身でも、今まさに食べる予定のおいしそうな料理の写真をアップロードするなどして友達からの「いいね!」を獲得する。たくさんの「いいね!」が付いた料理は実際以上においしさも増して感じられるかもしれない。
また、困ったことがあればタイムラインに書き込んでおけば、コメント欄やメッセージですぐにアドバイスをもらえるし、仲間が悩んでいれば即座に励ますことも可能だ。
消費行動においてもピア効果は見て取れる。従来であれば個人の満足のためだけに何かを購買していたところに、「仲間とともにそれを楽しむ」という違う目的が加わってくるのだ。何か買いたいものがあるとして、どれを選べばよいかという話題で購買前に仲間とのコミュニケーションが多々あったとすれば、そのプロセスを含めた消費を楽しんでいる感覚にもなるだろう。また、入手に苦労した、あるいは高いコストを払ったわりに、さほど満足のいかない製品やサービスに出くわしたとしても、仲間とその残念な気持を共有できるならば、それはそれで楽しかったりもする。いわば「話のタネ」を消費しているようなものだ。
ピア効果は、時に研究者からその中毒性をも指摘されるほどの満足感を消費者に与える。そこに特段の投資が必要となるかはケースバイケースだが、モノやサービスを供給する側がこれをうまくマーケティングに活用することは当然考えられる。
ピア効果をマーケティング施策の文脈で活用するならば、まずは、ピア効果という現象があることを常に念頭に置くことから始めよう。当たり前のように聞こえるかもしれないが、熟練したマーケターであっても案外ここに意識が向いていないものだ。それは非常にもったいない。
次に重要なのは、自身も「仲間的」であることだ。ピアとは、「対等な関係」を強く意識した言葉である。自社製品のユーザーと直接仲間になれるのであればそれに越したことはないだろう。
ブランドが運営する「Twitter」公式アカウントの中には、これまでのPRの常識からすると時にユル過ぎるようなコミュニケーションを図っているものもある。業種や置かれた立場(例えば金融機関など硬いイメージが信頼感と切り離せない場合や、不祥事が報じられた直後の企業など)によっては難しいところもあるが、NHKやシャープなどの公式アカウントのように、あえて型破りなスタイルが定着すれば、仲間と対等に会話する感覚でラポール、つまり心が通い合った状態が形成され、消費者はブランドを身近に感じてくれるのだ。
消費者と仲間になる気持ちを持つ一方で、ユーザー同士の仲間づきあいはできるだけ邪魔をしないことも心掛けたい。レストランに友達と食事に行ったとして、歓談のさなかに店主が頼まれもしないのにメニューの自慢をしに来ることを想像してみてほしい。随分と居心地が悪くなるはずだ。「商売」を優先させて無理やり会話に割り込めば、その瞬間からもはや仲間とは見てもらえないのだ。
ピア効果を取り入れるのに莫大な投資は必要ないが、フレンドリーさとおおらかさ、そしていざというときの見守り力が、まずは必要とされるところだろう。
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