日本ではサービス開発の際、「いいものを作ろう」という圧力の高さゆえ、一発必中を狙ってしまいがちでなかなか作業に取り組めない、と主張する筆者。スピーディにビジネスを進めることができる「『仮設』検証で考えるプロダクトマーケティング」を勧めています。
「構え、撃て、狙え」というビジネスの格言があります。米国の伝説的経営者であるロス・ペローの言葉です。ペローは1962年にEDS(Electronic Data Systems)というアウトソーシングの草分けを創業し、1984年に事業をGM(ジェネラルモータース)に売却、経営陣入りします。しかし、GMは官僚的で物事がなかなか決まらない、言わば「狙え、狙え、狙え 」な組織だったといいます。そこでペローがGMの組織の在り方を批判した際に生まれたのが「構え、撃て、狙え 」という言葉だったと有名コンサルタントのトム・ピーターズの本が伝えています。
非常に面白い逸話で実際のビジネスやマーケティングを考える上で使えそうな格言ですが、プロダクトマーケティングの文脈でこの格言を実行する上では、もう少し違う表現の方がいいのではないかと「構え、撃て、狙え」を実行してみて思うようになりました。
考えたのは『仮設』検証という言葉です。仮説検証ではありません。もちろん「仮説」の検証は重要です。例えば「エキナカ自販機の売上が、伸びている理由」のような優れた分析の事例を目の当たりにすると、「インサイト(洞察力)」を鍛えることやデータを読むことの重要さが良く分かります。
ところが、日本企業の場合、仮説検証の際に「そもそもいい仮説を持っているのか?」というプレッシャーで行動が鈍るという弊害が起きているようです。また、日本企業では「プランニングを厳密に、企画を作り込む」という風潮も垣間見えます。もちろんまともに動かない、使えないものを世に出すのはよくありません。しかし、日本の場合「いいものを作ろう」という圧力の高さゆえ、仮説検証とは言いつつも「一発必中」を狙ってしまっているのではないでしょうか。つまり「構え」の部分に力が入りすぎているのです。
そこで『仮設』検証です。『仮設』と言うとあまりいい響きがしませんが、あらかじめサービスの使用終了期限を決めておけば成否の検証がより正確にできます。また、将来的に作りなおすことを念頭に置くので、サービスの製作時間を短くできるというメリットもあります。何より、作り直すか捨てるか、後で決めるという前提で開発すれば、改良版を作ることや、そもそも方向が間違っていた、と捨てることもできます。
普通ならば一度始めると止めるのが難しいサービスであっても『仮設』なら「期間限定」と銘打って始められます。現在、PDCA(プラン、実行、チェック、処置/改善)というフレームワークが有名ですが、実際にはプランばかりでチェックと処置/改善の余力が残らないプロジェクトが多いと感じています。
プロセスや検証を複雑にしない『仮設』検証という単純なモデルの方がうまくいくケースもたくさんありそうですが、いかがでしょうか。
※この記事はITmedia オルタナティブブログ「坂本英樹の繋いで稼ぐBtoBマーケティング」の原稿を一部修正したものです。
坂本英樹(さかもとひでき) 基盤系の外資ソフトウェア会社でネットマーケティングを担当。リード獲得の実務と裏方に日々奮闘中。案件を営業に「繋ぐ」、売り上げに結び付けて「稼ぐ」という意識(日本のマーケティングではまだまだ足りない)や活動を普及させ、さらにはマーケティングで「測れて報われる」ことを目指している。
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