ソーシャルメディアを活用する企業がガイドラインを作成する際、どういう点に注意すればよいのか。企業として準備しておくべきガイドラインの作成方法や必須項目などのポイントをまとめた。
これまで、ソーシャルメディアを効果的かつ先進的に活用している企業の事例をいくつか紹介してきた。
最終回は、そもそもソーシャルメディアガイドライン(ポリシー)は、何のために作る必要があるのか。策定目的とは何なのか。作るとすれば、どういう点に注意して作ることが大切か。ソーシャルメディアを活用するに当たって企業として準備しておくべき、ソーシャルメディアのガイドラインの作成方法や必須項目、効果的に管理・運用していくための広報や教育のポイントを解説する。
初めに、組織内でソーシャルメディアの担当となった者はどういう形でガイドラインの作成にかかわることになるのか、明らかにしておきたい。
本来、ソーシャルメディアと向き合う部署は、多くの場合マーケティング部や広報、PR部というセクションだろう。現在、さまざまな企業がソーシャルメディアを利用し、情報提供やサービス、製品化に生かす方策を探っている。
専門部署を置くのではなく、利用する部署が中心となってプロジェクトを組織し、ガイドライン策定委員会のような形で進めているところが多い。利用する当該部署が作る方が、その後の運用もスムーズにいくためだ。ソーシャルメディアに対するスタンスから「行動規範」や「コミットメント」を公表し、会社の立ち位置を明確にして、当該部署がそれに沿ってガイドラインを作成・運用している。
ジャンル | 主な例 |
---|---|
口コミサイト | 食べログ、フォートラベル、価格.com、Amazon.co.jp、楽天トラベルなど |
Q&Aポータル | Yahoo!知恵袋、OKWave、教えて!goo、人力検索はてななど |
動画共有サイト | YouTube、ニコニコ動画、Ustreamなど |
ブログ | アメーバブログ、FC2ブログなど |
SNS(ソーシャルネットワーキングサービス) | Facebook、mixi、Twitterなど |
BBS(掲示板) | 2ちゃんねるなど |
では、総務部の役割はどういう位置付けになるのか。第一に、就業規則や内規、一般法令を熟知する立場として、策定段階でアドバイスすることが考えられる。利用部署が中心となる委員会のオブザーバ的立場である。第二に、ガイドライン運用開始後において、適正に運用されているかどうかチェックすることも、大事な仕事になるだろう。大企業の場合、何らかの形でソーシャルメディアを活用しているはずだから、会社全体を見渡す位置にある総務部が、ガイドラインを「観る」意味は大きい。
次に、ソーシャルメディアガイドライン(ポリシー)は、そもそも何のために作る必要があるのかを考えたい。ソーシャルメディアを利用しない企業にしてみれば、「ガイドラインなど不要なのではないか」という疑問が出るのも当然だ。しかし、結論から言えば「ガイドラインは必要」である。ソーシャルメディアを使った発信は、企業だけではなく個人でも可能だからだ。
最初に企業が直面する問題は、こうしたソーシャルメディアに対する「スタンスを決める」ことである。会社と社会とのかかわりをどう捉え、会社としてどの程度本気で取り組むのか。突き詰めていくと「規制」なのか「奨励」なのかというスタンスの問題である。
取材した某一部上場企業の場合(この会社は策定したガイドラインをオンライン上に公開している)、こうした議論を社内で活発に行い、結果、自ずとソーシャルメディアにはかかわっていく(厳密には既にかかわっている)し、「規制」なのか「奨励」なのかというスタンスも二者択一の問題ではない、という結論に至っている。
ソーシャルメディアを会社の業務で使うこと(公式アカウントで運営する場合)と、個人で使うことの区分けができるかと問えば、業務上の行為は会社の責任だが、個人の行為は個人の責任といい切れないからだ。この議論に、ソーシャルメディアのガイドライン策定の意味が見えてくる。
従来インターネットは匿名が主流だった。それが、例えばFacebookなどの場合は実名登録が原則だ。顔写真や経歴、会社名や所属部署など、細かい情報を掲載するようになっている。つまり、個人として発信した情報であっても第三者にはそう受け取られず、発言内容が炎上すれば会社にもその影響が及ぶことになる。
また、匿名だから大丈夫というわけでもない。近年相次いで起きているTwitterによる有名人の暴露話や差別発言による炎上などは、全て匿名によるツイートであるが、炎上すれば個人が特定され、本人が勤める企業が割り出される。企業は非難にさらされて謝罪する事態となり、企業イメージが毀損(きそん)する。
よって企業側には、ソーシャルメディアを業務として扱う専門部署向けだけでなく、全社員、協力会社社員に対してガイドラインを示す必要が生じる。何か問題が起きたときにどのように対応するか、コミュニケーションフロー(報告・連絡・相談)をどうするか、総務担当者はその整備と体系化をはかることが、重要な仕事となる。
既にオンライン上にガイドラインを公開している企業もあるので、文面だけなぞるならそれを参考にすれば簡単に作成できる。しかし、問題はそこに魂を入れることができるかどうかである。具体的には、以下の視点で作成されなければならない。
「対外的に公開されているガイドライン」と、企業内部に向けた「表に出ないガイドライン(=詳細な手順書)」に分けられるが、これは、情報セキュリティポリシーや個人情報保護ポリシーと、その管理、運用のための手順書の関係に似ている。既にISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)や個人情報保護マネジメントシステム(JISQ15001)の構築をしている企業であれば、理解が早いだろう。
異なるのは、ソーシャルメディア特有のリスク、つまり誰もが簡単に情報を発信できる点にある。故にガイドラインを策定する際は、ソーシャルメディアの特質について過去の事例(炎上事件など)を通して本質を深く知り、自らがソーシャルメディアを利用するなど経験を通して学んでいなければならない。容易に情報発信できるソーシャルメディアだからこそ、ガイドラインの記述は誰もが理解できる、分かりやすい記述にする必要がある。その上で、過去の事例を通して効果的な教育や周知が可能となる。
併せて、ルールである以上罰則についても想定し規定しておく必要がある。ガイドラインに必要な要素をあらためて整理しよう。
(1)ガイドライン策定の目的
(2)ガイドラインの適用範囲の明確化 ※ソーシャルメディアを公式アカウントで利用する場合(業務として)、個人アカウントで利用する場合(プライベート)という具合に、適用範囲を明確化すること
(3)内部リレーションの体系化(問題発生を想定)
(4)周知するための啓発・教育の徹底
(5)罰則規定の作成 ※就業規則や内規との整合性を確保すること。総務部の大事な仕事になる
上記(1)および(2)は、オンライン上で公表されているものだが、(3)(4)(5)は、内部でルールとして規定し運用管理するものになる。
次回はガイドラインに盛り込む必須項目について触れる。
田淵義朗
1956年神戸生まれ。中央大学法学部法律学科卒。友人の弁護士とNIS(ネット情報セキュリティ研究会、現ソーシャルメディアリスク研究所)を設立。現在は危機管理・情報セキュリティコンサルタント。社団法人情報セキュリティ相談センター理事長も務める。著書に『スマートフォン術 情報漏えいから身を守れ』(朝日新書)
Faecebook【会社】:https://www.facebook.com/Mediarisk
Facebook【個人】:https://www.facebook.com/ytabuchi
『月刊総務』2012年3月号 「進化するSNSを上手に活用するための企業におけるソーシャルメディアガイドライン」より