ボルボが再び日本市場で売れ始めた理由とは何か?

1990年代には年間2万台以上を販売していたものの、2009年には約6000台まで落ち込んだボルボ。2011年、前年比51%増という躍進で、新規登録台数がドイツ4メーカーに次ぐまでに回復した理由を日本法人社長に聞いた。

» 2012年03月16日 08時00分 公開
[吉村哲樹,Business Media 誠]

 スウェーデンを本拠とするボルボ・カーズが、日本における販売台数を急速に伸ばしている。1990年代後半には、日本国内で年間2万台以上を販売したボルボだったが、2000年以降は徐々に販売台数を減らし、2009年には6213台にまで大きく落ち込んだ。

 しかしこれ以降、わずか2年の間にV字回復を遂げ、2011年には新規登録台数で前年比51%増となる1万1787台を記録した。意外に思われる読者も多いかもしれないが、この数字は外国メーカーの中でフォルクスワーゲン、BMW、メルセデス・ベンツ、アウディといった、いわゆるドイツ系4メーカーに次ぐ数字なのである。

2011年の外国メーカー車新規登録台数(出典:日本自動車輸入組合)
メーカー名 2011年 2010年 前年比
フォルクスワーゲン 5万631台 4万6704台 108.4%
BMW 3万4195台 3万2426台 105.5%
メルセデス・ベンツ 3万3207台 3万920台 107.4%
アウディ 2万1166台 1万6854台 125.6%
BMW MINI 1万4350台 1万1338台 126.6%
ボルボ 1万1787台 7767台 151.8%
プジョー 6137台 6021台 101.9%
フィアット 5960台 5562台 107.2%
ポルシェ 3658台 3335台 109.7%
ジープ 3154台 1877台 168.0%
シトロエン 3092台 2402台 128.7%
ルノー 3066台 2536台 120.9%
フォード 2975台 2507台 118.7%
アルファ ロメオ 1863台 1816台 102.6%
スマート 1214台 1101台 110.3%

 なぜ今、ボルボ車が日本の消費者にこれだけ受け入れられているのか。そして、今後ボルボのクルマ作りはどのような方向に向いていくのか。2011年3月よりボルボ・カーズ・ジャパンの社長を務め、日本市場におけるボルボのビジネスを牽引するアラン・デッセルスさんに話を聞いた。

スタイリングやドライバビリティを大幅に洗練

──日本における急速な販売台数の増加は、何が要因だったのでしょうか

VOLVO アラン・デッセルス社長

デッセルス 大きく分けて3つの要因があると考えています。1つ目は、製品自体の魅力です。ボルボ車の大きな強みである「安全性」はもちろんのこと、デザインや価格設定の面でも大きな魅力があるということを、日本の消費者に認識していただけたのだと思います。

 2つ目の要因は、強力なディーラーネットワークです。販売店は、ボルボの製品やブランドに対して強くコミットし、情熱を持ってビジネスに取り組んでいます。

 そして3つ目が、ボルボ・カーズ・ジャパンの社員の強力なコミットメントです。おかげで、日本市場において非常に明確なマーケティングメッセージを打ち出すことができています。

──製品の魅力という点でいえば、2011年に発売された「S60」と「V60」の販売が好調です。これらの車種が日本市場で広く受け入れられた理由は、どこにあるとお考えでしょうか

デッセルス S60とV60の製品セグメントは、他社でいうBMW 3シリーズやアウディ A4、メルセデス・ベンツ Cクラスなど、もともと日本で市場規模が非常に大きなものです。従って、S60とV60が日本のユーザーに広く受け入れられたことは、別段驚くべきことではありません。もちろん、ボルボは上位セグメントの車種も数多くそろえていますから、それらの市場を開拓する余地もまだ多く残されていると考えています。

VOLVO S60(出典:ボルボ・カーズ・ジャパン、画像をクリックすると拡大します)

──確かに、S60やV60には外国車のライバルが数多く存在すると思いますが、どの辺りを差別化ポイントとして打ち出されているのでしょうか

デッセルス ボルボは昔から、安全性の点では常にライバルメーカーの先を行っていました。しかしその半面、スタイリングやドライバビリティ(運転のしやすさ)、性能という面で、ライバル車と比べて控えめだったことは否めません。

 しかし、S60やV60をはじめとする今日のラインアップでは、これらの面でもライバル車の同等以上のレベルに達しており、また価格競争力においても優位に立っていると自負しています。

世界最先端を行くセーフティ機能

──安全性では昔から定評のあるボルボ車ですが、近年ではさらに安全性を高めるための新テクノロジーを数多く投入されていますね

デッセルス はい。まず大半の車種に、「シティ・セーフティ」という自動ブレーキシステムを標準で装備しています。これは、赤外線レーザーで約6メートル前方を常時監視し、追突の危険性を察知すると自動的にブレーキをかけるというシステムです。

 またオプション装備として、「ヒューマン・セーフティ」を用意しています。こちらはさらに高度な機能で、レーダーとカメラの組み合わせで車両や歩行者を自動的に検知・追尾し、衝突の危険性が高まった際に自動的にブレーキがかかります。

──新車の購入時に、このオプション装備を選ぶユーザーは多いのでしょうか

デッセルス 先ほどのヒューマン・セーフティに、アダプティブ・クルーズ・コントロールや車間警告機能、レーン・デパーチャー・ウォーニング(車線逸脱警告)などの安全機能一式を組み合わせた「セーフティ・パッケージ」をオプション装備として提供していますが、これは現在販売している新車の8割以上で選ばれています。もちろん、これまでボルボの大きな強みであった衝突安全性についても、さらなる強化が図られています。

──ボルボでは、安全性に関する独自の目標を掲げているとお聞きしています

VOLVO ボルボでは、野生動物との衝突を回避する新システムも研究している(出典:ボルボ・カーズ・ジャパン、画像をクリックすると拡大します)

デッセルス ボルボでは、これまで説明してきたような安全性に関する取り組みの具体的な目標として、「ビジョン 2020」という中期目標を掲げています。これは、2020年までにボルボの新車による交通事故で死亡したり重傷を負う人をゼロにするというものです。

 かなり野心的な目標ですが、達成に向けて今後もさまざまな安全機能の研究開発に取り組んでいきます。ただし、いくらテクノロジーが進化しても、ドライバーのコントロールがまったく不要になるわけではありません。依然として、ドライバー自身の安全に対する意識や運転技術は重要です。

「エコカーとしてのディーゼル」の大きな可能性

──昨今、日本の自動車市場はいわゆる「エコカーブーム」で、燃費に対するユーザーの意識が急速に高まっています。ボルボはこの点において、どのような取り組みを行っているのでしょうか

デッセルス 欧州市場ではV60をベースにしたディーゼルPHV(プラグイン ハイブリッド)モデルが発表済みで、2012年中に販売を開始する予定です。また、XC60ベースのガソリンエンジン版PHVも、2012年1月のデトロイトモーターショーで発表しました。

 また、C30のEV(電気自動車)版「C30エレクトリック」の生産も始まっており、2012年中には250台が欧州で実証実験されます。こうしたPHV、EVへの取り組みに加えて、通常のディーゼルエンジン、ガソリンエンジンに関しても、燃費・環境性能と高出力を両立させたエンジンを開発していく予定です。今後数年間でボルボは、欧州の自動車市場において燃費・環境性能分野のリーダーとなることでしょう。

VOLVO C30エレクトリック(出典:ボルボ・カーズ・ジャパン、画像をクリックすると拡大します)

──こうした環境配慮型のモデルを日本市場へ投入するスケジュールは、具体的に決まっているのでしょうか

デッセルス PHVやEVについては未定ですが、方針が決まりしだい発表できればと思っています。むしろわれわれは、日本市場におけるディーゼルエンジンの可能性に目を向けています。

 日本においてディーゼルエンジンは、トラックの排ガスの「汚い」イメージに付きまとわれていますが、最新のディーゼルエンジンはむしろ環境に非常にやさしく、欧州では主流になっています。

 ただ、日本のディーゼル排ガス規制は世界一厳しいため、欧州で販売しているディーゼルモデルを日本の法規制に適合させるには、少なからぬコストが掛かってしまうのが実情です。しかし数年後には、欧州の排ガス規制も日本とほぼ同等のレベルに引き上げられる予定なので、日本市場への導入ハードルもおのずと低くなるでしょう。

──なるほど。ちなみに、マーケティング面では具体的にどのような戦略を持たれているのでしょうか

デッセルス われわれは現在、“Designed around You”、つまり「すべてはお客さまのために」というコンセプトを掲げて製品開発やサービス展開を行っています。製品コンセプトである「スカンジナビアン・ラグジュアリー」も、すべてはお客さまにとっての使いやすさ、運転のしやすさ、所有する喜びのためにあります。

 これは、ディーラーにおける接客でも同様です。決して高圧的なセールスをかけることなく、お客さまが快適に過ごしていただけるための環境作りを重視しています。こうしたコンセプトは、周囲との協調性を重んじるスウェーデンの文化が反映されたものですが、似た文化を持つ日本では特に好意的に受け入れてもらえるのではと考えています。

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