HubSpot CMOに聞いたインバウンドマーケティングの新フレームワーク「フライホイール」のこと成長の回転を高速化する(1/2 ページ)

HubSpotが提唱するインバウンドマーケティングを実践するための新フレームワークと製品体系の現在についてCMOに聞いた。

» 2018年10月17日 15時00分 公開
[冨永裕子ITmedia マーケティング]

 コンテンツやメール、SNSなどさまざまなデジタルチャネルを駆使して未来の顧客を自社のビジネスへ引き込むのが「インバウンドマーケティング」という手法だ。この概念を提唱したことで知られるHubSpotが、今大きく変貌しつつある。

 2018年9月4日から7日にかけて同社が開催した年次カンファレンス「INBOUND 2018」では、ここ1年で拡張した新たな製品体系と、古典的なファネルに代わる新しい成長概念「フライホイール(弾み車)」が紹介された(関連記事:「INBOUND 2018から考える、あらゆる企業がマーケティングで勝負する未来」)。

 フライホイールとは、自動車のエンジンなどに使われる機械部品のことだ。マーケティングフレームワークとしてのフライホイールは、顧客を中心にマーケティング、営業、カスタマーサービスが周縁に描かれる。この新しいフレームワークでインバウンドマーケティングはどう変わるのか。そして、それによってHubSpot自身はどのようなビジネスゴールを目指すのか。同社グローバルマーケティング最高責任者を務めるキップ・ボドナー氏に話を聞いた。

フライホイールを回すキップ・ボドナー氏

フライホイールでは推奨者が鍵となる

――新たなフレームワークであるフライホイールについてお聞きします。一見カスタマージャーニーを循環型のモデルに捉え直しただけであるようにも見えるのですが、結局のところ何が違うのでしょう。

ボドナー氏 外側と内側に2つの輪が存在することがポイントです。HubSpotではフライホイールの回転を速くすることをビジネス成長にたとえ、2つのアプローチでその実現が可能とみています。

 アプローチの1つは外側の輪に力をかけて高速に回転させること。以前は主に営業に力を入れることで輪を回し、成長することができました。インターネットが登場してからはマーケティングにも力をかけることが求められるようになり、さらに今では販売後のサポートも重視しなければならなくなっています。なぜなら、顧客の喜びこそが企業成長の原動力だからです。

 もう1つのアプローチは中心部分の摩擦を小さくすること。具体的にはビジネスオペレーションのやり方を変えることです。かつてのビジネスでは営業時間という制約がありましたが、インターネットでは年中無休でサービスが提供できます。また、セルフサービスや無料のお試しサービスなど、カスタマージャーニーにおけるストレスを減らす施策を提案することが容易になっています。

ファネルからフライホイールへ《クリックで拡大》

――なぜ従来のファネルでは不十分なのでしょうか。

ボドナー氏 伝統的なファネルの問題は、買い手が企業から発信する情報の信頼性が高いことを前提にしている点にあります。HubSpotの調査によれば、実際の購買では口コミや既存ユーザーからの紹介の影響力が高まっており、企業のマーケティングや営業担当者からの情報発信はあまり機能していません。買い手が求める情報と売り手が提供する情報との間にはギャップが存在する。これが大きな課題です。

 課題解決の鍵となるのが、フライホイールに則したインバウンド手法です。顧客に価値を提供して興味を引き(Attract)、信頼関係を築き(Engage)、満足させて(Delight)推奨者(プロモーター)に転換する。そして、推奨者に新たな顧客の興味を引いてもらい、ビジネスを成長させることができるのです。フライホイールを回転させ続けるため、企業は常に買い手にとって有益な情報を提供し続けなければいけません。つまり、インバウンド手法が引き続き重要になります。

インバウンド手法でフライホイールを回す《クリックで拡大》

――いわゆるインフルエンサーマーケティングが注目されているように、B2Cの領域で口コミが効果的なことはよく分かります。一方で、B2Bにおける推奨者とはどういう人を指すのでしょうか。

ボドナー氏 プロモーターへの転換が成長をけん引するのは、B2CでもB2Bでも共通です。例えば米国ではレビューサイトの影響力が増大しています。代表例が、ソフトウェアやITサービスに関するレビューサイトを運営する「G2 Crowd」です。このサイトではユーザーが自発的にレビューを投稿しており、ベンダーにとっても100万人規模のユーザーに自社の製品・サービスを理解してもらう重要な場になってきています。

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