「顧客中心」の組織作り、誰もやらないならマーケターがやるしかない「B2Bhack.com」主宰 飯室淳史氏が講演(1/3 ページ)

外資系医療機器メーカーのデジタルマーケティング責任者を長く務めた飯室淳史氏が「デジタル時代を勝ち抜くマーケティングと組織」を語った。

» 2016年12月15日 07時00分 公開
[やまもとはるみITmedia マーケティング]

 2016年11月24日、サイトコアは東京・秋葉原のUDXギャラリーにおいて、プライベートイベント「Sitecore Digital Marketing Summit 2016」を開催した。「『個客』エクスペリエンス演出」をテーマに掲げた同イベントの基調講演には、元GEヘルスケア チーフ デジタルマーケティングエバンジェリスト・グローバルリーダーの飯室淳史氏が登壇。「デジタル時代を勝ち抜くマーケティングと組織」と題し、B2B分野のマーケターが今取り組むべきことについて、自らの体験を交えながら語った。本稿では、その内容をダイジェストで紹介する。


ツールよりも戦略、戦略よりも文化

 デジタルシフトが叫ばれる中、そもそもなぜマーケディング部門はデジタルを駆使しないといけないのか。飯室氏は「デジタル化は全て顧客のため」と断言する。

 顧客はデジタルツールを駆使して企業にアクセスし、デジタルでのレスポンスと価値提供を求めている。逆にいえば、デジタルスペースに身を置いていない企業は、その姿を顧客から見られることはなく、存在しないのと同じことになってしまう。

 では、そこでマーケティング部門がするべきこととは何か。飯室氏は「最高の顧客体験を全ての接点で提供することで、顧客生涯価値(LTV)を最大化すること」と言い切る。そして、このゴールに到達するために企業に求められるのが「人材、組織、企業文化のレベルでの変革」だ。

飯室淳史氏《クリックで拡大》

 マーケティングのデジタル化というと、CRMやSFA、マーケティングオートメーションといったテクノロジーの導入をまず思い浮かべることが多いが、そこに本質はないというのが飯室氏の考えだ。ツールよりも戦略。そして、その戦略を立てるためにまず必要なのが人材や組織であり、企業文化である。にもかかわらず、多くの企業は優先順位が逆になってしまっているという。

失敗から学ぶ組織を作る

 「失敗を恐れる組織では、メンバーは悪い話をしなくなる。オープンな姿勢で失敗を語り、そこから学べるようになることが重要」。飯室氏は自らのマネジメント経験を振り返り、そう実感している。そして、そうした組織作りに必要な条件として、「アジャイル開発の手法でスピード感を持って課題に立ち向かうこと」と「メンバーの特性を生かし、やる気を引き出すこと」を挙げる。

 アジャイル開発とは、顧客が求める最小限の機能を実現した試作品(MVP:ミニマムバイアブルプロダクト)を短期間で開発し、顧客のフィードバックに基づき改良することで、製品の開発期間を短縮するという考え方だ。「テストで100点を取るために2、3週間徹底的に勉強するよりも、テストを受けて終わったらすぐ採点して間違いを探し、もう1度同じテストを受けた方が早い。短い期間でチャレンジを繰り返すほど失敗から学べる」というわけだ。これを単に製品開発だけでなく、あらゆる業務プロセスに応用していく。当然、マーケティングにおいてもそうだ。

 もう1つ重要なのがチームメンバーの強みを生かすこと。例えばGE(GEヘルスケアを含む)では個人の能力を「外部志向性」「明確な思考」「イマジネーションと勇気」「包容力」「専門性」の5つに分けているが、当然のことながら個人によって強みと弱みは異なる。人事部門は個々のメンバーに自分の弱みを克服することを期待するかもしれないが、飯室氏の考えは違う。「包容力のない人が人の気持ちを理解しようと努力してもたかが知れている。ならばその部分は、包容力のある人に任せて相互に補完し合えばよい」。つまり、個々の強みを生かすことでチームの成果を最大化し得るというのだ。

 そこで、GEヘルスケアのグローバルデジタルマーケティング部門では、プロジェクトごとにリーダーを置き、ピラミッド型からフラットなネットワーク型の組織に変えた。「リーダーは役割でありポジション。リーダーだから偉いということではない。だから、予算確保と他部門との交渉、つまりお金を取ってくるかけんかをするか、それと人事評価のときだけは私がリーダーだが、SEOはこの人、ソーシャルメディアはこの人というように、それぞれのメンバーに自分の得意分野でリーダーとなってもらった。社内の承認の仕組みで遅延が出ないように権限も委譲した」という。さらに、グローバル企業である強みを生かし、米国、欧州、APACでそれぞれ役割を分担することで、1つのプロジェクトを3交代で24時間シームレスに回せるようにした。こうしてプロジェクトのスピードは格段に上がり、24カ月のプロジェクトを8カ月で終わらせることができるようになったという。

 企業の文化を変えるための組織作りといった役割をマーケティング部門が担うことに違和感を覚える人もいるかもしれない。しかし、「結果を出すために必要なら何でもやる。文化が変わらないと会社全体が動かないなら、それもマーケティングの仕事だと認識するしかない」と飯室氏は語る。

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