「自社広告の真横に、不適切なコンテンツが……」 デジタル広告のジレンマを超える仕組みは広まるか(1/2 ページ)

自社広告が、自社のイメージにそぐわないコンテンツ面に掲出されている──プログラマティック広告を出稿し、このような経験をしたブランドは少なからずあるのではないか。このジレンマを超える仕組みは広まるのか?

» 2025年06月09日 07時00分 公開
[織茂洋介ITmedia]

 デジタル広告の信頼性が揺らぐ中、これまでとは違う新たな施策が求められている。

 プログラマティック広告(運用型広告)の大きな魅力は、広告枠ありきの純広告(予約型広告)と異なり、人の行動や属性を軸にターゲティングできることだ。しかし、リスクもある。出稿した広告がどこに表示されたか分からず、自社ブランドイメージに合わないコンテンツと並んで掲載されてしまう可能性もあるという点だ。

 こうなると、せっかくの広告投資が無駄になるばかりか、自社に不利益をもたらしかねない。

アルノー・クレープ氏(画像提供:Equativ Japan)

 このような課題の解決策として注目されているのが、PMP(プライベートマーケットプレイス)だ。PMPは限られた広告主と媒体社だけが参加するクローズドな広告市場だ。広告主はここで広告枠を購入することで、優良な媒体の高品質な広告在庫(インベントリー)を確保し、より高いコントロール性、透明性を維持しつつ、理想的なオーディエンスにリーチできる。運用型の柔軟性に、予約型の持つ安心感も兼ね備えた仕組みと言えるだろう。

 独立系SSP(サプライサイドプラットフォーム)大手の米Equativは、このPMPを簡単に構築できる仕組みを提供しており、現在はAPAC(アジア太平洋)地域で事業を拡大中だ。来日したCEOのアルノー・クレープ氏に、日本における事業展開について話を聞いた。

デジタル広告における「キュレーション」とは?

――Equativが日本で提供するソリューションについて紹介してください。

クレープ: われわれはもともと、ある媒体社のアドサーバ事業がスピンオフしてできた会社です。その背景を生かして今はSSPを主軸事業としています。2024年に同じSSPの米Sharethroughを買収し、この業界では売上高で世界第3位、独立系では世界最大規模の会社に成長しています。その規模と経験を生かして、現在注力しているのが「キュレーション」と呼ばれる領域です。

――日本では「キュレーション」というと「スマートニュース」や「グノシー」のようなキュレーションメディアを想起する人が多いかもしれません。デジタル広告の文脈で言うキュレーションとはどのようなものか、あらためて教えてください。

クレープ: 広告主や広告代理店は、当社のキュレーションプラットフォーム「Maestro by Equativ」を使って広告を掲載したい良質な媒体を自ら選んでPMPを作成し、各DSP(デマンドサイドプラットフォーム)を通じてそこから広告を配信できます。

 現時点では「Google ディスプレイ&ビデオ 360(DV360)」や「Amazon DSP」「The Trade Desk」をはじめとして100以上のDSPと既に接続しています。今後はプラットフォーム・ワンなど日本独自の事業者とも連携を進めていく予定です。

――良質な広告枠を確保したいなら、媒体社から予約型で直接買い付けることもできるのではないでしょうか。キュレーションの仕組みを使うメリットについて、もう少し詳しく教えてください。

クレープ: さまざまな媒体の広告枠を束ねることで、予約型で都度広告枠を購入するよりも柔軟にキャンペーンをスケーリング(増減調整)できるようになります。

 従来の予約型広告はIO(インサーションオーダー:発注表)を通じてしか買い付けができず、自由度が高いとは言えません。媒体ごとにIOベースで発注していては、管理も大変です。実際の広告運用では例えば「ターゲットを今回だけ変えたい」などの細かな調整が頻繁に生じるからです。

 買い付けから広告配信までを行う広告代理店のマネージトサービスもありますが、中間に入る人が増えると今度はコスト高になってしまいます。また、キャンペーンが媒体別に分断されると、フリクエンシー(広告接触回数)のコントロールが難しくなります。同じ広告が同じ人に当たり過ぎてしまうのは投資の無駄であり、ユーザー体験の観点からも好ましくありません。

 キュレーションを行うことで、運営コストを抑えつつキャンペーンを効率よく進め、これらの課題解消につながると考えています。また、どの媒体にどのぐらい投資し、仲介するエージェンシーにどれぐらいの手数料を払っているのかをしっかりと把握できるので、キャンペーンの透明性も高まります。

――具体的にはどういう広告主にニーズがあるのでしょう。

クレープ: 特にプレミアムブランドは自分たちのブランドの価値を守る上で、例えばヘイトスピーチまがいのコンテンツの横に自社の広告が出ることがないようにしっかり媒体の品質を見極めなければいけません。

――プレミアムブランドや高額商材を掲載するために、高品位な媒体を用意するというイメージでしょうか。

クレープ: プレミアムブランドはわれわれが提供するものに最も分かりやすくフィットしますが、それだけではなく、他にも旅行会社や一般消費財など、グローバルではさまざまな広告主にご利用いただいています。

 代表的なところではエクスペディアやマクドナルド、Amazon、Appleなどにも活用いただいています。業種を問わず、オープンインターネットにおいてもしっかりとターゲティングをしたいニーズを満たすソリューションです。

ビックテックに依存する広告出稿 日本の特徴は

――日本市場のポテンシャルをどう見ていますか。日本では広告主がGoogleやMetaなどのビッグテックのプラットフォーム(いわゆるウォールドガーデン)に依存する傾向が依然として強いように思います。オープンWebでキュレーションは普及するでしょうか。

クレープ: Equativはフランスのパリと米ニューヨークを中心に、これまで世界19カ国で事業を展開してきました。APACではドバイとシンガポールにも拠点がありますが、日本が最大となります。

 日本のデジタル広告費はグローバルで見てもトップ3か4くらいの規模と位置付けていますが、かなり固有性の高い市場と見ています。何が違うかというと、ブランドと媒体の関係性が他国と比べて非常に強い。だからこそ、キュレーションという仕組みが役に立つ可能性を秘めていると考えています。

 なお、広告主がウォールドガーデンに依存するのは日本に限った傾向ではありません。消費者は6割の時間をオープンインターネットで費やしているにもかかわらず、マーケターが支出する広告費の8割近くはウォールドガーデンに投下されています。

 Equativは「スケール」と「シンプルさ」をキーワードに掲げています。透明性が高く柔軟で使いやすい広告出稿の仕組みを提供することで、広告主が手持ちの予算をオープンインターネットにより多く振り分けられるようになると考えています。

図版上は Alphabet年次報告書(2021年)、Meta年次報告書(2021年)、eMarketer「Digital Ad Spending, by Country」(2022年10月)、下はTheTrade Desk・Kantar「オープンインターネット 調査レポート」2022年9月の調査結果を基にEquativ Japanが作成
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