「成果報酬型マーケティング」を実現する上でインターネット広告業界が直面する課題とは何か。それをどう乗り越えるか。エキスパートが解説する。
広告のムダ打ちを防ぐ上では、商品の購入やサービスの申し込み、問い合わせや会員登録など、広告主が設定した成果地点でコンバージョンが発生したときに広告費が発生するのが理想。そこで、リスクを最小限に抑えながら高いROI(投資対効果)を実現する手法が「成果報酬型マーケティング」です。私たちMacbee Planetは「データ×テクノロジー×コンサルティング」を駆使した成果報酬型マーケティングにより、クライアント企業のLTV(顧客生涯価値)の最大化とROIの最適化を支援しています。
ある調査の結果では、回答企業の半数以上が、2023年と比較してCPA(顧客獲得単価)が上がっていると感じていることが明らかになりました(関連記事:「2024年B2B企業の広告施策の実態 半数以上が2023年よりも『CPAの上昇』を実感」)。私たちのクライアントからも「運用型広告のクリック単価が上がって、獲得効率が悪化している」とお悩みの声が多く寄せられており、広告費用の最適化に苦慮しているマーケターは少なくありません。
本稿では、現状のインターネット広告市場の課題を整理するとともに、成果報酬型マーケティングの今後について考察したいと思います。
まずは、インターネット広告市場が直面する課題について、大きく3つの観点から見ていきましょう。
成果報酬型広告では、あらかじめ代理店と合意した成果が発生しない限り広告費がかからないため、少ない予算で始められます。しかし、運用型広告と成果報酬型広告を併用する場合、事前にうまく戦略を立てておかなければ、次第に両者が同じターゲットやコンバージョンを奪い合う状態に陥り、広告効果の低下やROIの悪化を招く危険があります。
特に影響を受けやすいのは、消費者金融やオンラインクリニックなど、多くの広告費を投下してユーザーを獲得している業界です。ユーザーは広告をクリックしてから、すぐにコンバージョンに至るとは限りません。いったん離脱した後に、別の広告を経由することで、重複して広告費が発生してしまったり、どの広告がユーザーの意思決定に影響を与えたのかが不明瞭になったりして、適切な広告評価が難しくなってしまうことがあるのです。
ユーザーのプライバシー保護を目的として、欧州のGDPR(一般データ保護規則)や米カリフォルニア州のCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)など、ブラウザに保存するCookieの使用を制限する動きが強まっています。また、日本でも改正個人情報保護法が施行され、Cookieの取り扱いに関して、より厳格な対応が求められるようになってきています。
GoogleやApple、Microsoftといったブラウザベンダー側でも、サードパーティーCookieの廃止に向けた動きを活発化させており、従来の手法のままではリターゲティング広告やコンバージョン測定の精度が低下してしまうという影響がすでに現れています。
近年の人口減少や広告チャネルの多様化などのさまざまな要因により、多くの事業会社では広告運用に必要な高いスキルを持った人材の確保・育成に課題を抱えていると聞きます。昨今では、AIの活用によって広告運用の効率化を図る流れもありますが、そもそも適切な運用スキルが身についていない人がAIを活用しても、本当にそれが正しいのか否かを見極めることができません。
そもそもAIが登場する以前から日本では「広告運用は広告代理店に任せるもの」と考える人が多く、代理店などのパートナーへの「丸投げ」が常態化してきた歴史もあります。もちろん、代理店を活用すること自体が悪いわけではありません。しかし、過去の実績や運用体制といった表層的なものだけで委託先を選定するのは危険です。
パートナー選定においても「目先の“刈り取り”だけでなく、包括的なマーケティング戦略の一環として、広告運用のKPIにコミットしてくれる」「広告の効果測定をはじめとするデータ分析において、高いスキルを持ったスペシャリスト人材がそろっている」といった本質的なポイントを重視することが大切です。
このような課題がある中で、私たちがどのような対応をしているのか、紹介していきます。
1つ目の課題である「運用型と成果報酬型の最適配分の難易度の高さ」に対しては、独自のMMM(マーケティングミックスモデリング)に取り組んでいます。MMMは、過去に実施したさまざまなマーケティング施策が売り上げや利益、ブランド認知度などに対してどのような影響を与えたのかを可視化することで、将来のマーケティング予算配分の最適化を図る手法のことです。
Macbee Planetは長年のノウハウを基に、獲得から逆算して「どの施策が、どう獲得に寄与してきたのか」を明らかにすることで、あらゆる広告チャネルにおいてマーケティング予算の最適配分を行えるモデルの開発に注力しています。
2つ目の「Cookie規制の影響」に対しては、Cookie規制によるトラッキングデータの精度低下を補うソリューションとして「ID Resolution」を開発しました。これは、ユーザーエージェントやIPアドレス、通信キャリア情報やブラウザAPIなどのデータを掛け合わせることで、異なるデバイスからのアクセスでも同一ユーザーとして認識できるようにするもので、Macbee Planetの独自技術です。
こうしたCookieに依存しないユーザーの推定技術の開発は今後、他社でも進んでいくでしょう。一方、GoogleやAppleなどのブラウザベンダー側でも代替技術の開発やガイドラインの策定に取り組んでいます。これからも「Chrome」と「Safari」の二強体制は変わらないと考えられます。そこで、最新情報を追ってGoogleやAppleのポリシーに準拠しつつ独自技術の開発にも挑んでいくことで、広告運用の究極の目的であるLTVの最大化に寄与できると考えているのです。
事業会社が広告の出稿によって何を目指すかといえば、「ユーザーが自社の提供している商品やサービスを必要としたときに、第一想起されるブランドになること」です。なぜなら、業界内でブランドの認知率が拡大すれば、多大な広告費をかけずとも自然と顧客が集まり、リピーターも増え、結果としてLTVの拡大につながるからです。これは、市場浸透率が高いブランドほど多くの顧客を持ち、購入頻度も高くなる傾向にあるという「ダブルジョパディの法則」として、学術的にも証明されています。
従って、「アウェアネス(認知)」「アクイジション(獲得)」「リテンション(維持)」の各フェーズで分断した施策を打つのは、得策とは言えません。獲得を起点として、認知や顧客維持までをも含めた包括的なマーケティング施策を実行することで、いかに業界内のシェアを拡大できるかが、勝負の分かれ目となります。
最後に、成果報酬型マーケティングは、インターネット広告に課題を抱える事業会社にとって、有力な選択肢のひとつとなります。しかし、その効果を最大限に享受するためには、広告の効果測定に精通した信頼できるパートナーが不可欠です。
高原英実
たかはら・ひでみ Macbee Planet執行役員。MAVEL取締役。1989年、福岡県生まれ。2014年3月、早稲田大学大学院情報生産システム研究科を修了後、不動産物件ポータルサイトのシステム開発業務に2年間携わる。2016年、Macbee Planetに入社し「ハニカム」や「Robee」を開発。当社のコンサルティング部門の責任者としてテクノロジーを活用したマーケティングサービスの高度化に務め、テクノロジー開発の観点から事業成長に貢献。2023年にMAVEL代表取締役社長に就任。全員が活躍する組織を目指し、事業成長をけん引している。2025年同社取締役就任。著書に「最強のWebマーケティング」(幻冬舎) https://www.amazon.co.jp/dp/4344932420
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