会員数820万 ブックオフがモバイルアプリ開発で大事にしていることUI/UX改善の裏側

モバイルアプリを活用して市場で成功するためには良質なUI/UXが不可欠だ。ブックオフのUI/UX改善取り組みの裏側を紹介する。

» 2025年01月29日 16時00分 公開
[織茂洋介ITmedia マーケティング]

 小売業などリアルの顧客接点を持つビジネスが、顧客とつながり続けるための手段としてモバイルアプリを提供するケースが増えている。しかし、モバイルアプリはただインストールしてもらうだけでは意味がない。新規ユーザーの獲得はもちろん大事だが、それ以上に継続的に利用し続けてもらうための取り組みも重要だ。

 継続率に大きな影響を与える鍵となるのがUI/UXだ。本稿では、店舗アプリ会員数820万を誇るブックオフのアプリ改善プロジェクトについて、取り組みを主導したブックオフコーポレーションの益田泰介氏(ネットサービス部 ネット戦略企画グループ)と長谷川基氏(デジタルサービス戦略室 会員サービス企画グループ CRMチーム長)、取り組みを支援したアイリッジの清田ゆかり氏(営業本部 グロースマーケティング部)の話を基に紹介する。

「ひとつのBOOKOFF」実現のための体制づくり

 本やCD、ゲームなどのソフトウェアに始まりリユース事業を拡大してきたブックオフが初めてモバイルアプリを提供したのは2018年のことだ。「ひとつのBOOKOFF」構想の下、「オンラインと店舗」「買取と販売」などブックオフグループのあらゆるサービスをつなげ、顧客がシームレスに利用できるプラットフォームとなるよう、開発は進められた。

 ブックオフ公式アプリは、従来の紙のポイントカードをデジタル化するところから出発し、プッシュ通知によるタイムリーなクーポン配信や、お気に入りの店舗からの特別な特典など、デジタルならではの利便性を追求してきた。ECサイト「ブックオフオンライン」の商品をアプリから注文して近くの店舗で受け取れるようにするなどOMOにも注力し、2025年1月末時点で会員数820万人超の人気アプリへと成長している。

 アプリを推進するプロジェクトには社内の各部署横断でおよそ20人が常時参加している。体制づくりのポイントについて長谷川氏は「可視化と課題の相互理解に尽きる」と語る。

 プロジェクトは会員獲得とUI/UX改善、コミュニケーション、チャンネル横断の4つに大別される。その4つのKPIを一つのシートにまとめて20人のメンバーが毎週顔を合わせて状況を確認し、次のアクションを提示してお互いが議論してきた。きわめてアナログなやり方だが、同じ目線、共通言語を持つことを何よりも重視した。

 「どこに課題があるのか、今誰が何をやっていて、何に困ってるのかを理解し合うことで、例えば会員数をあと何人伸ばしたいっていうとき、それぞれのパートでやれることは何かというように、包み隠さず話せる。これがすごく大事だと思っています」(長谷川氏)

 自部署以外のKPIにも目が向くようになったことで、「アプリが会社としての武器である」という意識を醸成できたのも大きな成果だ。

店舗スタッフの参加がUX改善を促進

 初期は本部のマーケティング関係のメンバーが中心だったが、現在では店舗に立つ現場のスタッフも参加するようになった。2023年に取り組んだクーポン配布のUI/UX改善の取り組みにおいては、現場スタッフにユーザーテストに入ってもらったことで、より精度の高いUX改善につながった。

 「実際にお客さまがアプリを使うときのことを見ている店舗のメンバーの反応をもっと取り込んでいきたいと考えました。また、現場スタッフにも誇りを持ってお客さまに勧めてもらえるものにしたいというのもありました」(益田氏)

 アプリを用いてLTVを高めていこうにも、そもそもアプリを使ってくれる人が増えないことには何の施策も進められない。そこで、最初にハードルになるのは会員の獲得だ。ここでも店舗スタッフが果たす役割は大きい。

 「弊社にとって最も大きいタッチポイントは店舗。『アプリをお持ちですか』という声かけを推進する上では、店舗スタッフが本当に薦めたいと思ってくれていることが大事。プロトタイプのユーザーテストに参加してもらい、一緒に画面を見ながら意見交換をしながら作っていくのは重要なアクションだったと思っています」(長谷川氏)

 プロジェクトのメンバー内では、店舗スタッフ出身者によるチームが立ち上がった。このチームは店舗スタッフにアプリの価値を伝える専門的な役割を担っているという。

やって良かったプロセス

 UI/UX改善に当たり、やってよかったプロセスについて、益田氏は、定性調査(グループインタビュー)を挙げた。もともとCRMのデータや各種の調査で実際のユーザー動向を把握してきてはいたが、数字の羅列からは実際の反応が見えにくいところがある。社外の非会員を対象に少人数へのインタビューを実施することで、仮説の検証と新たな課題発見ができた。

 「10人くらいのインタビューなのに、同じ画面を見ても、ある方は『こっちの情報がここにあった方がいい』と言い、別の方は『なぜこの機能がないのか』と言うことがありました。それぞれのお客さまが違うところに視点を置いてらっしゃるときに、何が最適なのかという課題が発見できたのは、価値があったと思っています」(益田氏)

 長谷川氏は、プロジェクトの初期に定量データから課題を客観的に可視化し、共有できたことと、その課題に対する改善策をアイリッジがカスタマージャーニーで分かりやすくしてくれたことを評価した。

 「大きなカスタマージャーニーは何となく分かっていても、例えばお店でクーポンを使うときのような、一つ一つの動作に対して細かいジャーニーを描くのは手が回っていなかったので、そこをご支援いただいたのはありがたかったです」(長谷川氏)

 具体的にはレジに並んでいるときから会計中、会計後にフォーカスしてアプリの操作テストから課題を洗い出し、どう改善すれば理想のユーザー体験につながるかを導き出した。また、ユーザーインタビューで課題を言語化し、カスタマージャーニーが単なる妄想に終わらないようにした。

ブックオフ公式アプリ「BOOKOFFアプリ」におけるUI/UX改善例と実際の新クーポン画面(画像提供:ブックオフコーポレーション)

これからUI/UXに改善に取り組む人へ

 UI/UX改善に取り組む上で留意すべきこととして、益田氏はユーザーインサイトの重要性を強調した。

 何らかの事業課題があるからこそUI/UX改善に取り組むのはどのアプリについても同じだろう。しかし、課題にとらわれるあまりに、アプリを使う人の体験がなおざりにされてしまっては本末転倒だ。

 「お客さまにどういうニーズがあるのか、アプリを触っていただいてるときにどういう感情を抱いているのかを、なるべく付き合わせて施策を考えることを心がけています。今回の取り組みでもユーザーインサイトの重要性を再認識しました。また、インサイトを知った上でそれがKPIにつながっていることが重要と考えています」(益田氏)

 CRMを担当する長谷川氏は、顧客体験や顧客コミュニケーションの向上に取り組む上では今回のように並行してUI/UXの見直しを行うことが有効であると指摘した。

 「プロダクトそのものが良いものになっていくことは、結果的に顧客体験価値の向上の近道になることを今回の取り組みを通じて、あらためて感じました」(長谷川氏)

 今後の展望として益田氏は、顧客ごとの反応や期待に合わせたパーソナライズや、利用シーンに応じた情報提供の最適化に取り組みたいと述べた。また「課題抽出や調査の段階から現場のスタッフと連携を深めていきたい」と抱負を述べた。長谷川氏は、アプリを使いやすく気持ちよいものにするために、定量データと定性データを活用しながら、お客様目線でのプロダクト改善を進めていきたいと語った。

 アイリッジの清田氏は取り組み全体を振り返り、「ユーザーの立ち位置や利用目的、タイミングによってインサイトは変わってきます。そこをしっかり見つけていくことで、今まで見えてこなかった改善のヒントが必ず見えてくると思います」と、まとめた。

※本稿はアイリッジが2023年12月5日に開催したウェビナーの内容に、最新の状況を踏まえて加筆修正したものです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

関連メディア