トランプ大統領にすり寄ってMetaが期待する「ごほうび」とは?Social Media Today

Metaが米国内でファクトチェックを廃止し、コミュニティノート方式へ移行する。その背景に見え隠れするのが、トランプ次期大統領との関係改善の意思だ。今回のポリシー変更はMetaをどう変えるのか。

» 2025年01月15日 08時00分 公開
[Andrew HutchinsonSocial Media Today]
Social Media Today

 Metaは2025年1月、米国内のFacebookとInstagramで第三者によるファクトチェックを廃止し、コミュニティノート方式に移行すると発表した。

 ドナルド・トランプ次期大統領への配慮とされるこの変更により、Metaのプラットフォームにおいて政治的な分断をあおる投稿やヘイトスピーチが増えることが懸念されている。

 それでも変更を進めるのは、もちろんMetaなりの理由があるからだ。

本稿は「『ファクトチェック廃止』の波紋 Metaにこれから起きること」の続きです。

トランプ氏を味方にできればMetaにはどんないいことがある?

 Meta(およびザッカーバーグ氏)は、トランプ大統領と協力することで多くの利益を得られる可能性がある。以下に、米国政府の動向次第でMetaのビジネスに影響を及ぼすケースをいくつか紹介する。

外国製品への関税

 トランプ氏は米国への輸入品、特に中国からの輸入品に対し関税を60%引き上げることを公約している。MetaはVRおよびARヘッドセットの製造において中国製の部品に依存しており、最近ではARグラスの生産の一部を中国に移した。そのため、中国製品への関税が課されれば、Metaは数十億ドルの損失を被る可能性があり、同時にデバイスの価格競争力も低下してしまう。

EU規制

 Metaは、オンライン事業体に関する厳格化が進むEU消費者保護規定のさまざまな違反を理由に、過去2年間だけで欧州規制当局から25億ドル以上の罰金を科せられている。米国政府を味方に付けることで、米国の報復的な貿易制裁を恐れるEU委員会に揺さぶりをかけられる可能性がある。

AI規制

 MetaはさまざまなAIプロジェクトを確実に推進するために、AIの発展に関して米国の規制当局が自社の事業に干渉しないことを望んでいる。AIの影響やリスクについての懸念が広がり、厳しい規制の必要性が叫ばれているが、これはMetaにとっては望ましくない状況だ。そのため、ワシントンとのつながりを利用してこれに反対する必要がある。また、トランプ氏の新しい親友であるイーロン・マスク氏が独自のAIプロジェクト(xAI)を推進しているため、そちらを優先してMetaには不利に働く新たな規制が導入されるリスクがある。トランプ政権との良好な関係を築くことで、そのリスクを緩和できるかもしれない。

TikTokの米国からの締め出し

 米国でTikTokが禁止されることで、最も利益を得るのは誰か。TikTokが利用できなくなれば、多くの人がInstagramやFacebookに流れることになる。従って、トランプ政権がTikTokの米国民での利用継続を推進しないと決定すれば、Metaは明らかに有利になる。

FTCによる監視

 Metaは米FTC(連邦取引委員会)の厳しい監視を受けている。同委員会は現在もMetaに対して、InstagramやWhatsAppの売却を要求するなど、市場支配力を減らすよう迫っている。FTCとの戦いに費やす時間が減れば、技術開発に投資する時間と資金が増えると同時に、Metaの収益に影響を及ぼすリスクも軽減できるだろう。

 ザッカーバーグ氏とMetaがトランプ氏との協力を選ぶことで得られるものは多く、イデオロギー的な理由でトランプ氏に反発し続けても、何も得るものはない。

 ザッカーバーグ氏は、今回の方針転換が「人々の政治的気分に基づいている」と述べているが(外部リンク/英語)、ここで言う「人々」とは、実際にはMetaの利益を最大化するために味方に付ける必要がある権力者たちを指しているにすぎない。

この変化の結果、実際に何が起こるのか?

 今回の変更の影響は、以前ほど大きなものにはならない可能性がある。なぜなら、どのみち誰もFacebookやInstagramに投稿しなくなっているからだ。

 だからといってザッカーバーグ氏とMetaの責任が弱まるものではない。30億人が利用するプラットフォームである以上、人々の意見や政治的な議論に影響を与える役割を果たすことは間違いない。しかし、MetaのAIによるレコメンデーションシステムへのシフトが進む中、人々がMetaのアプリを政治的コンテンツや個人的意見の共有の場として利用する頻度は減ってきている。

 Instagramの最高責任者であるアダム・モッセーリ氏は2022年に「友達同氏の投稿はフィードではなく、ストーリーズやダイレクトメッセージ(DM)で行われることが増えている」と指摘した(外部リンク/英語)。

 Facebookも同様の状況にある。推薦されるリールの急増により、プラットフォームは「ソーシャル」の根本から離れ、エンターテインメントに重点を置く方向に移行している。この変化は、エンゲージメントを高め、ユーザーをアプリに長時間とどまらせ(より多くの広告を閲覧させる)ためには効果的だ。しかし実際には、Metaが正当な政治勢力として初めて認識された2016年当時よりも、Metaの影響力ははるかに小さくなっている。

 今回の変更により、政治的コンテンツが増えるかもしれないが、ユーザーはそれを見たい場合にのみ閲覧可能であり(もちろんオプトアウトも可能)、その影響はXほどのものにはならない可能性が高い。これは楽観的な見方かもしれないが、実際にFacebookへの投稿は以前ほど多くなく、一方でプライベートグループでは以前から監視が免除される傾向があるため、目に見えて報告されることが少ない。

 現在では、エンゲージメントの多くがメッセージンググループ内で行われており、政治情報の共有に最も適した手段となっている。Facebookのプライベートグループと同様に、これらは検知されにくいため、この点でのMetaの影響力は意外と大きくない可能性がある。

 影響はあるだろうし、一部のグループはその影響を最も強く感じるだろう。特に誤情報の拡散は大きな懸念材料だ。しかし、進化し続けるMetaのアルゴリズムは過去と同じレベルでは誤情報の拡散を許容しないだろう。

 なお、自らのソーシャルメディアである「Truth Social」との契約上のつながりもあり、トランプ氏がFacebookに復帰する可能性は低い。同時に、トランプ氏の側近であるイーロン・マスク氏がXで活動を展開しているため、プロパガンダの主戦場はおそらくXとTruth Socialになると予想される。

 こうした背景から、Metaが今回の変更に踏み切ったのは、ニュース配信の中心的役割を担っていた頃のような影響力を失っているからかもしれない。従って、変更の影響も過去ほど大きくならない可能性がある。

 様子を見守る必要があるが、おそらくMetaは実際にこのようなアプローチの変更を最小限に抑えるための基盤を整え、ザッカーバーグ氏がトランプ氏とその支持者にアピールできるようにしつつ、実際の影響を抑制できるようにしたのかもしれない。

 それは必ずしも意図的なものではなかったのだろう。なぜなら、繰り返しになるが、ザッカーバーグ氏の決断は社会に害を与えることではなく、ビジネスに勝つことに基づいているからだ。いずれにしても、これによってFacebookが、現在のXのような誤情報の拡声器になることはないだろう。

 一つだけ留意すべき点があるとすれば、Facebookが依然として多くの中年層(30〜49歳)に利用されていることだ(外部リンク/英語)。この世代はかなりの量のニュースをFacebokで得ている。

 この層は米国での投票率が高いことが知られている。この点ではFacebookの影響力は依然として注目に値する。

 全体として、今回の変更は社会的議論に対してマイナスの影響を与える可能性が高い。これらの変更は大義のためというよりは、次期大統領の意向に迎合しているように見える。誤情報の拡散やその結果生じる危害の影響がどうなるかはまだ分からない。だが、それらの影響は後から振り返って初めて分かるものでもある。

 しかし、提示された証拠から見て、結局のところザッカーバーグ氏とMetaは、どんな潜在的な影響よりも、自分たちのビジネスに支持を勝ち取ることに熱心だと考えられる。そして、次に大統領が選ばれる際にザッカーバーグ氏がまた方針を転換すれば、この議論が再び繰り返されることになるだろう。

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