ボストンコンサルティンググループ(BCG)の戦略シンクタンクであるBCGヘンダーソン研究所とBCG地政学センターは、生成AIを巡る地政学の現状を考察したレポートを発表し、米中への過度の依存がもたらすリスクを指摘した。
ボストンコンサルティンググループ(BCG)の戦略シンクタンクであるBCGヘンダーソン研究所とBCG地政学センターは、生成AIを巡る地政学の現状を考察したレポート「How CEOs Can Navigate the New Geopolitics of GenAI」を発表した。
レポートは、数十年にわたりAI領域をけん引してきた米国について、1950年以降に開発された世界の主要なAIモデルの約70%、最高性能の大規模言語モデル(LLM)の57%が米国拠点の企業や学術機関によって開発され、他国に対して先発優位性を築いてきたと指摘する。
世界トップレベルのAI研究者2000人のうち約60%が米国を拠点としており、2022年から2024年にかけて世界のAI専門家の約4分の1が米国に移住した。米国のAI人材は約50万人に達し、世界最多となっているという。また、米国拠点の生成AIスタートアップは、民間投資の規模として突出しており、2019年以降の総額は650億ドルに上る。
一方、米国へ追いつく兆しがみえる中国では、中国企業のアリババと零一万物(01.AI)が、世界最高性能のオープンソースLLMのうちの4分の1以上を提供している。既存のテクノロジー大手であるバイドゥやテンセントも高性能なモデルを発表し、「AIタイガー」と呼ばれる新世代の生成AIスタートアップも急成長している。
現在、米国と中国は生成AIの「二大超大国」とされ、生成AIバリューチェーンの大部分を自国でコントロールできるポジションにいる。レポートは、生成AIの提供元が米中のわずか2カ国に集中していると、地政学的混乱が生じた際に生成AIの利用が阻害されるリスクがあると指摘する。
これについて、BHIのグローバルリーダーで同レポートの共著者であるニコラス・ラング氏は「規制やデータ要件、利用環境といったものはすべて、政府方針の変化と密接にかかわっているからだ」と述べている。新型コロナウイルス感染症が引き起こしたパンデミックから得た教訓から、さまざまな業界において、生成AIの提供元を多様化することに関心を寄せている。企業のリーダーは、変化の兆候を逃さずに自社のオペレーティングモデルを適応させる「地政学的な対応力」を鍛えることが重要だとしている。
日本は、安定したテクノロジーエコシステム、R&D(研究開発)への投資額の大きさやハードウェア分野における専門性を土台に、生成AIのサプライヤーとして「中堅国」のポジションを築く可能性があると考えられている。AIチップの設計、AI用の高性能メモリの製造の能力を有し、またチップ製造における重要な素材や製造装置の輸出国としても優位性がある。
また、日本では大学と民間企業の連携でオープンソースの大規模言語モデル「Fugaku-LLM」が公開された。スーパーコンピューター「富岳」で学習されており、日本語モデルとして高い性能を示している。しかし、生成AI領域で他国と競うために必要な投資を得るためには、国内・地域レベルで十分な市場を確保することが求められるとレポートは指摘している。
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