世界のCMOは今、何を考えているのか?――電通グループ「CMO調査レポート2024」を読む主要14市場における企業のCMO950人が回答

電通グループが世界の主要14市場における企業のCMO950人を対象に実施した調査結果から見えてきたのは……?

» 2024年09月22日 09時00分 公開
[ITmedia マーケティング]

 電通グループ(グローバルブランド名:dentsu)は、5回目となるグローバル年次調査レポート「CMO調査レポート2024」を発表した。調査では世界の主要14市場(※)における企業のCMO(最高マーケティング責任者)950人を対象に計45の質問を行い、回答を分析している。本稿では、調査結果から気になるポイントを抜粋して紹介する。

※14市場の内訳:オーストラリア、ブラジル、中国、カナダ、ドイツ、イタリア、インド、日本、メキシコ、サウジアラビア、スペイン、アラブ首長国連邦、米国、英国。

CMOが考える、ビジネス上の課題を解決する究極の力とは…?

 変化の激しい世界では成長が難しく、CMOはコミュニケーションだけでなくビジネスのあらゆる面でクリエイティビティーを必要としている。CMOの81%が「マーケティングにおいてクリエイティビティーがこれまで以上に重要である」と感じており、「クリエイティビティーはビジネスの成長を促し、ビジネス上の課題を解決する究極の力であると考えられている」については89%が賛同し、そのうち57%が強く賛同している。

 意外な場所でもクリエイティビティーが求められている。CMOの83%は「CX(顧客体験)変革を推進する上でクリエイティビティーが不可欠」であることを認め、80%は「持続可能性の課題を解決するためのクリエイティブアプローチがビジネスにとって不可欠である」と考えている。また、83%は「クリエイティビティーがビジネスの成長を引き出す可能性がこれまで以上に高まっている」と考えている。特に、食品・飲料(88%)、パーソナルケアおよびハウスホールドケア(97%)、製薬(85%)のマーケターはより一層そう考える傾向がある。

ブランドは単なる広告ではなく「カルチャー」の一部に

 CMOの88%が「ブランドが生活者のカルチャーの一部になることがこれまで以上に重要」と考え、78%は「エンターテインメントプロパティ(資産)を生み出すことがマーケティング戦略にとって重要」と認めている。

 その結果、ブランドは新しい形でエンターテインメントとカルチャーに投資するようになった。31%がNetflixなどのエンターテインメントプラットフォームとIP(知的財産権)に、29%がテレビ番組に、18%が音楽制作に投資している。

 しかし一方で74%は「自社ブランドとカルチャーをどのように結びつければいいのかが分からない」と答えている。

 カルチャーインパクトを生み出すための手法として広く採用されているのがインフルエンサーパートナーシップとユーザー生成コンテンツだ。エンターテインメントプラットフォームもまた、興味や投資対象として浮上してきている。ポッドキャスティングも、ブランドエンゲージメントや信頼性、信憑性を構築する人気の方法だ。Spotifyのデータ(外部リンク)によると、ポッドキャストのリスナーの54%が「他で目にする広告よりも効果的だ」と感じており、52%が広告を信頼している。

インフルエンサーマーケティングは不可欠? 懸念事項は?

 CMOは、今日のブランドが生活者のネットワーク、パートナー、クリエイターのエコシステムを通じて構築されていることを認識している。CMOの77%は「将来、ブランドマーケティングはブランド、クリエイター、プラットフォーム間のパートナーシップの比重が大きくなる」ことを認めており、71%は「セレブリティとの協力はブランドがカルチャーと関わりを持つ強力な方法である」と認めている。そして75%は「インフルエンサーマーケティングが現代のメディア状況において不可欠な部分である」と認め、80%は「アーンドアテンション(自発的に得られる興味関心)がマーケティングを構成するさまざまな要素の中でもますます重要な部分になりつつある」と認めている。

 パートナーシップを組むことは自らのコントロールを手放すことを意味するが、その方法を全てのブランドが快く思っているわけではなく、CMOの60%はその点を課題や懸念事項として挙げている。

製品の優位性が差別化要因にならない世界で重要なこと

 製品の優位性が差別化要因にならない世界では、あらゆる顧客体験をブランド体験にする必要がある。

 CMOの79%は「今日のブランドは体験を通じて構築されるものだ」と認識しており、75%は「コミュニケーションからコマースまで、あらゆるコンタクトポイントがブランドストーリーを伝えることができ、また伝えなければならない」としている。「ライブストリーミングのようなテクノロジーがコンテンツとコマースの境界線を曖昧にしている」と63%が認め、80%が「デジタル体験が実店舗でもますます重要になる」としている。

 しかし、62%が「ブランドはカスタマーエクスペリエンスの機能的な利便性は向上させたものの、クリエイティブな表現は向上できていない」と回答している。

ハイパーパーソナライゼーションの難易度

 CMOは、今の顧客の声だけでなく、未来のトレンドや消費者願望を予測し、行動するというプレッシャーとも向き合っている。79%が「データや知見を駆使して未来の製品や提供価値を予測することが求められている」に賛同している。

 dentsuが2024年5月に発表した「Dentsu Consumer Vision 2035」によれば、消費者の側も77%が「ブランドが消費者の求めるものを予測・予見し、関連性のある有益な商品やサービスを積極的に提供することを歓迎する」と回答し、同様の期待を抱いている。

 しかし、データによる顧客理解とマーケティングの最適化は簡単ではない。CMOの78%は「パーソナライズされたマーケティングを大規模に提供することは難しい」と感じており、77%は「小売業者からテクノロジープラットフォームまで、サードパーティーがより大きな権力を握っているように見える世界で、顧客との関係を主導すること」に課題を抱えている。

「AIがマーケターの仕事を奪う」派の現在のすう勢

 「独自性の高いブランドアイデアの創造には人間ならではの技巧が決定的に重要である」と考える人は79%と、依然として多数派を占める。しかし、AIが人間の想像力に真に太刀打ちできないと確信している人の数は著しく減少した。前年調査で「生成AIが人間の想像力に取って代わることはないだろう」とした回答者は75%だったが、2024年は10ポイント減の65%になった。また、2023年の調査ではCMOの3分の2以上(67%)が「生成AIは人々を感動させる広告を作ることができない」と考えていたが、同じ回答をした人の割合は2024年には前年比で18ポイント減少し、半分以下(49%)にまで下がった。

 CMOはAIを人間の創造性を脅かす存在としてではなく、協力者や共同クリエイターとして評価するようになっている。77%が「自分たちのブランドのトーンやスタイルを学習させたAIに興味がある」と回答している。「AIに仕事を奪われるかもしれない」と感じるCMOの割合は、2023年の57%から2024年は46%と、10ポイント以上減少した。

競争相手としてのAIから共同制作者としてのAIへ(出典:dentsu「CMO調査レポート2024」)

イノベーションへの投資意向が過去最高 なぜ?

 成長に対する考え方は企業・ブランドが置かれた環境によって大きく異なるものの、全体としてはCMOの85%が「競争の激化と市場の飽和」が自社ビジネスにとっての課題と考え、83%が「景気減速下での成長」を重要な課題として挙げている。

 その結果か「イノベーションへの投資」が重要な優先事項となっている。79%が「予算の10%以上をイノベーションに投資する」としており、「21〜30%をイノベーションに投資する」とした人は、過去最も高い割合(28%)になった。

 イノベーションの支援を期待するテクノロジーについては、CMOの41%が「体験のパーソナライゼーションやコンテンツのカスタマイズのためにAI・機械学習の導入」を計画しており、49%はバーチャル試着のような「没入型体験の探求」を、46%は「ゲーミフィケーション技術の導入」を、40%は透明性とトレーサビリティーを確保するために「ブロックチェーン技術の導入」をそれぞれ計画している。

CMOは自信を取り戻している?

 先行きが不透明な中、成長の原動力としてのマーケティングの役割はますます重要になっている。CMOの79%が「マーケティングがビジネス変革の重要な推進力である」と感じており、クリエイティビティーを生かして組織全体でビジネス成果を推進している。

 CMOは、マーケティング活動がビジネスだけでなく、より広い社会に影響を与えることを望むようになっている。78%が「自分のマーケティング活動が人びとやビジネス、また社会に影響を与えることを望む」と考え、77%が「ブランドには社会をより良い方向に変える責任がある」としている。

 「自分たちのマーケティング活動が地球や社会に与える影響」を懸念するCMOは62%。「消費者はサステナブルなブランドにはより高いお金を払う価値があると考えている」とするCMOは76%を占めた。


 今回の調査の公開に当たり、電通グループ グローバル・チーフ・クリエーティブ・オフィサーの佐々木康晴は、次のように述べている。

 「成長が難しい時代にあって、CMOの皆さまは、持続可能な成長の新たな源として、これまで以上にイノベーションに目を向けています。私たちも、10年以上にわたるDentsu Lab Tokyoの活動などを通じ、クリエイティビティーが生み出すイノベーションはとても重要で価値のあるものだと捉えています。私たちは、クライアントの喫緊の課題解決をサポートするためにDentsu Labを世界中に拡大していこうとしているところであり、CMOの皆さまがイノベーションへの投資を重視していると知って、とてもワクワクしています。私たちは、クライアントの皆さまが『AIと人間性の共存』について考え始めている様子にも触発されています。AIは飛躍的に進歩していますが、そのAI時代においても、音声や触覚などの人の『感覚』や、深い共感や驚きなどの『感情』を刺激して、テクノロジーと人間性を結びつけるブランド体験を作り出すことに、とても大きな可能性があると考えています」

 また、調査をリードしDentsu Creativeのグローバル・ブランド・プレジデント アビー・クラッセン氏は以下のようにコメントしている。

 「クライアントにヒアリングをし、私たちの調査で確認できたことは、クライアントがこれまで以上にクリエイティビティーに価値を見出し、必要としているということです。しかし、それは新しい種類のクリエイティビティーです。ビジネス主導のクリエイティビティーであり、コミュニケーションからコマース、サステナビリティに至るまで、組織のあらゆる局面に影響を与えるクリエイティビティーです。それと同時に、AIに対するクライアントの向き合い方が変化していることも分かりました。AIは人間の創造性を脅かすものではなく、クリエイティビティーに人知を超えた力 ― パーソナライゼーション、リアルタイムの対応力、そしてレレバンシー(関連性)の速度と可能性を指数関数的に高める力 ― を与える手段なのです」

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