Nikeが2024年パリ五輪に合わせて「勝ちたくて、何が悪い。」と題したキャンペーンを展開している。売り上げ低迷にあえぐ同社は、反転攻勢のためにどのようなアプローチを採ろうとしているのか。
2024年パリオリンピックに合わせて、Nikeが“Winning Isn’t for Everyone”(勝ちたくて、何が悪い。)と題したキャンペーンを発表した。このキャンペーンは、トップアスリートになるために必要な、無慈悲さをたたえる内容だ。
俳優のウィレム・デフォーがナレーションを担当する広告では、権威への執着、満足できない性格、共感力の欠如など、スポーツ界の偉人たちを突き動かす性質について言及している。レブロン・ジェームズやセリーナ・ウィリアムズといった伝説のアスリートを起用した広告では、「私は悪い人間?」というフレーズが繰り返し使われている。
Nikeは、オリンピックを復活のチャンスと位置付けている。売り上げ低迷にあえぐ同社は、大胆で話題を呼ぶブランドマーケティングを取り戻そうと奮闘している。
オリンピックのスポンサーの中には、7月26日に開幕したオリンピックのマーケティングに、心地よいスポーツマンシップや仲間意識を取り入れている企業もある。これに対しNikeは、一般的には否定的と見なされるが、一流のアスリートにとってはモチベーションになることが多い資質を掘り下げるキャンペーンを展開している点で、より破壊的なアプローチを採っている。
悪役を頻繁に演じる俳優のデフォーは、勝利への欲求が人を悪者にするかどうかを問うエネルギッシュなナレーションを担当。彼のナレーションは、レブロン・ジェームズ、セリーナ・ウィリアムズ、ヤニス・アデトクンボ、チンウェン・ジェン、アジャ・ウィルソン、ヴィニ・ジュニア、ヤコブ・インゲブリクトセン、シャキャリ・リチャードソンなど、絶頂期のスポーツ界のスターたちの映像を引き立てている。
デフォーは「私は非理性的で、後悔の念は全くなく、思いやりのかけらもない」と高笑いする。「私は妄想的で、狂気じみている。私が悪い人間だと思うか? 言ってみろ」
ソーシャルメディアのコンテンツや屋外広告もキャンペーンの一環だ。世界中の都市に出現する看板には、アスリートのアンバサダーと「勝ちたくないなら、すでに負けている」や「私の夢は彼らの夢を終わらせること」といったコピーが並んでいる。
Nikeの発表によると、一流アスリートの考え方を体現することを意図したこの大胆なコンセプトは、同社のアスリートパートナー数百人からインスピレーションを得たものだという。このキャンペーンは、広告代理店のWieden + Kennedy Portlandが主導した。
“Winning Isn’t for Everyone”は、2024年初めにCMOに就任したニコール・ハバード・グラハム氏が手掛けた最大のマーケティング活動だ。グラハム氏は、過去6年間にわたってマーケティング責任者を務めていたディルクヤン“DJ”ファン・ハメレン氏の後任だ。
「これは単なるキャンペーンではない。アスリートたちと、彼らの勝利へのマインドセットをたたえるものだ」とグラハム氏は述べている。「これは偉業を成し遂げるために何が必要かという物語だ。偉業を追求するためにアスリートたちがささげる犠牲、決意、やり抜く力、まだ形作られていないレガシー(遺産)、そして実現する夢──。勝ちたいと思うことは何も悪いことではないということを、世界に思い出させてくれる」
Nikeはオリンピックを、アスリートやスポーツの重要な瞬間を重視した“より鋭く、より大胆な”マーケティングを再発見するきっかけに位置付けている。同社は近年、D2C(Direct to Consumer)戦略に重点を置き過ぎたことを認めており、かつては独走していたランニングなどの分野で、新興ブランドの台頭に悩まされている。
Nikeは、直近の四半期(2024年3〜5月期)の売上高が前年同期比2%減の126億ドルとなり、25年5月期通期の見通しを大幅に引き下げている。
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