誰も見ていないテレビ番組にお金を払って露出する意味はあるのか?B2Bマーケターのための「広報」入門【第9回】

無名のわが社でもお金を出せばテレビに出してもらえる? 今回は、広報担当者を惑わせる“ある種の番組”のからくりについて、考えてみたいと思います。

» 2024年07月12日 07時00分 公開
[加藤恭子ビーコミ]

 「W●Sに出たいんですよね」「あ●イチで取り上げられたい!」「情熱●陸が目標です」「ガッチリ●ンデーに出たいんですよ」

 B2Bのお客さまが多い当社でもときどき、そのようなお問い合わせを受けることがあります。ただ、現実がまるで分かっていないというわけではないようで、多くの方はその後に「まあ、そこまで有名な番組じゃなくても、できたらテレビに出たいと思ってるんですよね……」と、言い出します。トーンダウンしつつも、何とかテレビで自社の名前が呼ばれる可能性を探りたいというわけです。

 今回はそんな方に向けた話です。

知らない会社が出ている知らない番組の謎

 「当社がテレビ番組『XXXX』で取り上げられましたー」

 企業のSNSアカウントがそんな投稿をするのを見たときに「『XXXX』? こんな番組あったんだ」と思ったことはないでしょうか。もちろん「XXXX」は仮名ですが、知っているタレントは出ているものの深夜の放送だったり、放送局もキー局ではなくローカル局だったりするような番組のことです。そのような番組の過去の放送回について検索してみると、さまざまな中小企業が取り上げられていたりします。

 実はこれらの番組、出演する側が制作費を負担していることが多いのです。いわゆるタイアップという形式で、番組全体が広告の役割を果たしているわけです。番組制作をまるっと担当する企画・映像会社が、出演者となる企業を探すという仕組みです。料金は100万〜200万円と聞きます。

 普段から費用対効果を細かく気にしているマーケティング・広報担当も、なぜかテレビ出演と聞くと舞い上がってしまうようで、まあいいかと出演を決めてしまうことが少なくないとか。

 確かに「テレビ」って特別感がありますよね。ちなみに私は過去に「パネルクイズ アタック25」に出たことがあるのですが、素晴らしい体験でした。当時司会者を務めていた児玉清さんと一緒に撮っていただいた写真も大切に保管していますし、休憩時間に児玉さんから飴をもらったことは恐らく一生忘れないエピソードとなるでしょう。もちろん、出場権は予選を勝ち抜いて得たもので、お金を払ったわけではありません。逆に、獲得したパネル数に応じた報酬もきちんともらっています。

 思い切り話がそれましたが、企業がタイアップのテレビ番組に出る利点について、考えてみたいと思います。ざっと思いつく範囲では、以下のようなところでしょうか。

  • メディアに自社のことを売り込まなくても、テレビに出る機会が得られる(大抵はプレスリリース配信サービスを使った後などに、売り込みのメールがくるようです)
  • 動画を使い回せるので、放映後もいろいろ活用できる(二次利用権利あり)
  • テレビに出たことを自社サイトなどでアピールできる
  • 社長がテレビに出たいと言っていたので喜ばれる
  • テレビに出ると社員のモチベーションも上がる
  • テレビに出演する体験をしたことがなかったので、番組の裏側も見ることができ、マーケ・広報担当者として学びがある
  • 余っていた予算が消化できる(使わなかった予算は翌年に持ち越せないので年度末までに使い切る企業も多いようです)

 悪くない話のように思えるかもしれません。しかし、5分の映像に100万円以上かかるのは、なかなか思い切った投資です。ちなみに、動画制作会社に同じ尺の映像を制作した場合の見積をもらったことがありますが、その際は、テレビ放映はないものの5万〜20万円ということでした。

 5分間では会社の詳細を説明するのは難しいので当たり障りのないことしか紹介できないし、そもそもあまり見られていない番組です。他の出演企業が自社のようにまだ知られていない企業ばかりというのは、逆に言えばビッグネームは出ないということでもあります(信用させるために、ビッグネームには無料で出演してもらっている番組もあるようです)。自社の見込み客になる人が見ているのかどうか知る由もないし、デジタル広告のように効果測定もできません。そんな番組でも反響が全くないわけではありません。ただし、その多くは「この会社は、こういった企画にお金を払う」と察した企業からの、しつこい電話の売り込みです。

 見込み客も増えそうにないし費用対効果も不明でPR効果が期待できそうにないこうしたコンテンツは、テレビだけでなく他の媒体にも存在します。聞いたことのないビジネス誌から「御社の社長と著名人の対談記事を載せてあげるから」と、取材協力費(または印刷費)と称して少なくない費用負担を持ちかけられた、対談取材後に記事がなかなか出ないので問い合わせたところ「取材は無料だが掲載は有料だ」と言われたという話は、広報界隈でよく耳にします。

ターゲットと合致した記事広告はあり

 ここまで書くと、筆者は広告(メディアにお金を払って、企業の紹介をしてもらう行為)を否定しているのかと勘違いされる方もいるかもしれないので、念のために言っておきます。筆者は広告を否定していません。当社は広告代理店業務も行っており、その意味ではむしろ推奨しています。

 それでも「見込み客に刺さらないメディアにお金を払うのは、費用対効果の観点から言えば意味がない」と言いたいのです。自社の社長と著名人の対談風の記事体広告を載せるにしても、誰もが知るビジネスメディアや信頼のおけるビジネスメディアであれば広告料を払うことに意味があると思っています。

 自社が目指しているゴールに近づけるのか。これは意味のある行動なのか。「テレビ出演」という言葉に舞い上がらず、冷静に判断したいものです。

執筆者紹介

加藤恭子

加藤恭子氏

かとう・きょうこ ビーコミ代表取締役。アスキー、ソフトバンクで編集記者を経験後、米国ナスダック上場の外資系IT企業でのマーケティング/PRマネージャーを経て独立。企業向けセミナーやビジネススクール/大学などのゲスト講師を務める他、主に国内外のテクノロジー企業が適切な相手に情報を届ける仕組み作りと実務支援を行っている。青山学院大学大学院修士(国際コミュニケーション)、日本パブリックリレーションズ協会認定PRプランナー、日本マーケティング学会常任理事(PR担当)、サイバー大学客員講師(コミュニケーション論)。著書に「話題にしてもらう技術〜90.5%の会社が知らないPRのコツ」(技術評論社)、「デジタルで変わる広報コミュニケーション基礎」(宣伝会議、15章を担当)などがある。PR/広報について、「広報会議」「PR Week」などの専門メディアに寄稿している。


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