Xに掲載される広告に幾つかの不具合が生じている。この事態はFTCから警告を受ける可能性がある。
X(旧Twitter)の広告配信システムに幾つかの問題が生じているようだ。これらは後々、同社のビジネスにとって深刻な課題につながる可能性がある。
Xのオーナーで最高技術責任者(CTO)であるイーロン・マスク氏は、ユダヤ人の権利保護団体であるADL(名誉毀損防止同盟)と対立を続けている。一方で、X広告の多くが必要な"Ad"ラベルなしでインストリームに表示されていることがユーザーによって発見されている。また、サブスクリプションサービス「X Premium」の契約者の中には、プロフィールに広告が表示されず、広告収益分配が制限されている人もいる。
最初の問題は、Webメディア「TechCrunch」が報じている通り、現在多くのX広告が広告であることが明示されていないまま掲載されていることだ。これは米連邦取引委員会(FTC)のルールに違反している。
TechCrunch(外部リンク/英語)は次のように述べている。
私たちのテストでは、私たちがフォローしていないアカウントが投稿したラベルのない広告ポストに出くわした。それらが広告であることを知るための唯一の方法は、投稿の右上にある3つの点のメニューをクリックすることだった。広告ポストでこのメニューをクリックすると、「この広告に興味がない」や「この広告が表示されている理由を見る」といった、さまざまなエンゲージメントオプションが表示され、そのアカウントをフォローしたりミュートしたりブロックしたりするツールも表示される。
同じことに気づいたと語るユーザーは多い。もし本当にこの仕様にFTCの目が向けられるようになれば、Xにとってより大きな頭痛の種になるかもしれない。
思い起こせば2023年7月、Xは広告表示マーカーを以前の「Promoted」タグから、投稿の右上に表示される新しい、より小さな「Ad」ラベルに移行し始めた(※編注1)。
※編注1:本稿公開時点で日本語版では確認できていない。
これは、インストリームで広告をよりオーガニックに見せるためのものだが、それ自体が、広告ポストの適切な告知に関するFTCガイドラインに違反している可能性もある。
広告ポストの告知に関するFTCの要件では、全ての広告はデジタルアプリ内で「明確かつ目に付きやすいように」(clearly and conspicuously)表示されなければならないと規定されている。以前の規則では、FTCはこの要件を「明確かつ目立つように」(clearly and prominently)と記載していたため、改訂された定義では「Ad」ラベルでも問題ないということなのかもしれない。しかし、FTCはどちらの定義も有効であるとしており、さじ加減一つで、Xの小さい「Ad」ラベルは十分に目立つものではないと見なされる可能性もある。
このことは、広告ラベル自体が欠落している問題と何か関係があるのだろうか。
これまでのところ、この変更についてXがFTCに監視されていることはなさそうだ。しかし、それはFTCが公式な苦情を受け取るのを待っているからかもしれない。つまり、FTCが積極的に調査してこなかったからこそ、Xはこのような目立たない表示でやってこられたのであり、この新たな問題がFTCの目にとまれば、Xの広告表示のあらゆる面が調査対象となる可能性があるということだ。そもそも、投稿の右上の小さく色あせた2文字のタグが「明確かつ目に付きやすい」表示であると主張するのは、無理があるだろう。
いずれにしても、これは懸念すべきことのように思われる。広告ラベルの欠落というこの新たな問題は、Xに新たなプレッシャーを与えることになりかねない。
もう一つの問題は広告配信で、X Premiumユーザーの個人のプロフィール画面に広告が表示されていないことだ(※編注2)。これはXの広告収益分配プログラムのもう一つの問題点を浮き彫りにしている。
※編注2:原文公開は米国時間2023年9月8日。
Xは参加ユーザーにどのような形で正確に報酬を与えるかをいまだに検討中だ。しかし、すでに支払いは始まっている。問題を先送りにしたまま実際にお金を払い続けるのは潜在的に多くの過ちを犯すことになるように思われる。
おそらくこれらの問題の根本は同じで、Xの広告配信システムにおけるより広範な不具合の一部であるようだ。イーロン・マスク氏の傘下でスタッフの80%を削減したXは、少数のスタッフでこのような大幅なシステム変更に対処しており、同時に新しいドメイン(x.com)への移行を模索し、アルゴリズムのシフトも実施している。そのため、あちこちでエラーが発生していても不思議ではない。
しかし、繰り返しにはなるが、こうした不具合はより困難な事態につながりかねないという意味で、大変深刻な問題だ。
だが、マスク氏自身の関心はそこにはないらしく、現在はカリフォルニア州の立法府やADLを相手に、オープンなコミュニケーションを目指すXへの攻撃と見なすものとのバトルに夢中だ。
しかし、対ADLのケースでは、マスク氏は従来と矛盾したスタンスを取っているように見える。マスク氏の考えでは、言論の自由とは人々が好きなことを言ったり投稿したりできるようにすることであり、何が真実で何が真実でないかは聴衆の判断に委ねられる。
そういう意味では、ADLが彼らの言いたいことを言ってもかまわないはずだ。マスク氏の就任以来反ユダヤ主義の投稿がX上で増加しており、広告主が広告を掲載するかどうかを決定する際にそれを考慮に入れているとADLが言うのであれば、それはまさにマスク氏が称賛する「言論の自由」が実現していることにほかならないではないか。
どうやらマスク氏の言論の自由に対する考え方は、彼の表向きの発言から想像されるよりも少し柔軟であるようだ。マスクは、たとえそれが彼の公的な主張と矛盾しても、彼や彼のビジネス上の利益に影響を与える、あらゆるタイプの言論を徹底的に封じようとする。
例えば、マスク氏は赤の他人に小児性愛者のレッテルを貼って、その人に多大な風評被害を与えても問題ないと考えていた。それなのに、ADLがXでより多くのヘイトスピーチが野放しにされていることを証拠付きで指摘するのを、なぜ受け入れられないのか。
こうした全ての要素の結果として、Xが規制当局の監視下に置かれる可能性は高い。そうなればXは、より多くの困難に直面することになるだろう。もちろん、それを乗り越えてXが強くなる可能性もある。いずれにせよ、マスク氏のXに退屈することがないのは確かだ。
© Industry Dive. All rights reserved.