トップこそがコンテンツであれ――ゲスト:電通アイソバー得丸英俊氏withコロナ時代の「デジタルプレゼンス」を語ろう 第1回(1/2 ページ)

これからの企業に求められる「デジタルプレゼンス」を識者と語るこの連載。第1回は電通アイソバー代表取締役社長CEOの得丸英俊氏をゲストに迎え、企業トップが提唱する新時代のコミュニケーションについて語ります。

» 2020年06月26日 08時00分 公開
[安部知雄サイトコア]

 新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う大規模な外出自粛の結果、私たちのライフスタイルは大きく変化しました。買い物ではオンラインショッピングをこれまで以上に利用するようになったことでしょう。売る側の視点から言えば、この数カ月はデジタルの顧客接点こそが生命線だったという企業も多いのではないでしょうか。

 2020年6月に入って数々の制限は緩和の方向にあり、人々の関心は「ニューノーマル」に向かいつつあります。この新しい日常がより一層、デジタルと深い関わりを持つことになるのは間違いありません。そうした中で重要性が高まるのが「コンテンツ」です。

 私たちサイトコアは、従来のWeb CMS(コンテンツ管理システム)を進化させ、パーソナライズされた顧客体験を演出するためのプラットフォームを提供しています。デジタルプレゼンスを高め維持することの重要性を痛感した企業は今こそ、顧客の求める情報を的確に把握・理解し、関連性の高いコンテンツをタイムリーに提供する仕組みを整備しなければならないと私たちは考えています。

 この連載ではDX(デジタルトランスフォーメーション)のパイオニアとして知られる松永エリック匡史氏とともに、企業の経営者、コンテンツクリエイター、コンサルタントをゲストに迎えて話を聞きます。松永氏は青山学院大学教授を務める傍ら、サイトコアのパートナー企業であるアバナードでデジタル最高顧問も務めています。

 私たちは各回での対話を通じて、企業におけるコンテンツを時代の変化に適応させて「デジタルプレゼンス」を高める上で必要な示唆を提供したいと考えています。第1回は電通アイソバー代表取締役社長CEOの得丸英俊氏をゲストに迎え、「Experience is the Product(顧客体験こそが製品)」の時代に求められる「経営トップのコミュニケーション」をテーマに話を聞きました。

「トヨタイムズ」に見るコミュニケーションの新しい形

得丸英俊氏

――まずは自己紹介をお願いします。

得丸 電通アイソバーは、電通グループのグローバルネットワークブランドの一つであるIsobarの一員であり、日本におけるデジタル領域の強化のために2016年1月に電通レーザーフィッシュとアイソバー・ジャパンとが合併してできた組織です。ここ最近は「CXデザインファーム」を掲げ、CX(顧客体験)を軸としたDXを支援するビジネスに力を入れています。私自身は2009年11月のまだ社名が電通レーザーフィッシュだった時代に代表取締役社長に就任し、現在に至ります。マス広告の時代からキャリアの半分以上をデジタル領域にフォーカスしたマーケティングプランナーとして過ごしてきました。

松永 私は現在、青山学院大学の地球社会共生学部の教授としてDXやグローバル経営の研究者という立場で教職に就いています。もともとはビジネスコンサルタントで、アクセンチュア、野村総合研究所などを経て、直近はPwCコンサルティングのデジタル部門の日本統括パートナーとして、デジタル部門の立ち上げをリードしました。プロミュージシャンとしての活動歴も長く、デジタルイノベーションやデザイン思考を専門に、さまざまな提言活動に従事しています。

――3月から5月にかけて、多くの人たちが大変な環境で仕事をしていたわけですが、得丸さんのところはどのようにビジネス継続に取り組んできたのでしょうか。

得丸 当社の場合、環境面が整っていたことと社員のITリテラシーが高いことを理由に、比較的スムーズに在宅勤務に移行できました。一方で、非言語の要素や何気ない会話から広がる一体感など、オフィスで生まれるリアルなコミュニケーションの価値も再発見しました。今後に向けて、オンラインとオフラインを組み合わせた働き方の新しい枠組みを考えるフェーズが来ていると思います。

松永 デジタルシフトが進み、個の時代が到来すると、トップが情報発信をするときの姿勢やビジョンが重要になると思います。私は2018年から経営トップが企業のアイデンティティーを明確にし、自らメッセージを発信する「Neo PR」を訴え始めたのですが、withコロナで予想より早くその世界が実現しそうです。というのも、急速に進展したオンライン化により、企業という組織の中で経営トップと社員との距離がこれまで以上に近づいたからです。

得丸 注目すべき事例が「トヨタイムズ」でしょう。トヨタイムズは自由なモビリティーの楽しさを伝えるためのメディアで、豊田章男社長のメッセージを直接社会に向けて伝える場となっています。それと同時に社員にもメッセージを伝えようとしています。このような例が増えると、企業とデジタルエージェンシーとの関係も変わります。ターゲットの心に響くメッセージが必要になりますし、この仕組みを支えるツールにも高度なものが求められます。

コミュニケーションで重視すべき2つの要素

松永エリック匡史氏

松永 一方で、刻々と経営環境が変化する中では人の心を動かす企画を立ててもすぐに実行できなければ陳腐化してしまう懸念があります。得丸さんはクライアントが求めるスピード感にどう応えるべきだと思いますか。

得丸 スピード感については全くその通りで、私たちも迅速に提案をしないといけないと痛感しています。クライアントに対してだけでなく、社員に対しても同様です。刻々と状況が変化し、自社の今後の方向性を気にする社員も多い中、社長としては経営方針をタイムリーに発信する機動力が求められています。トヨタイムズはその好例です。組織が大きいにもかかわらず、チャネルミックスでトップのメッセージを幅広く伝えられる仕組みとなっています。上場企業の社長の発言は株価への影響を考えると、慎重になってしまうという事情がありますが、多くの企業の参考にできる事例といえるでしょう。

松永 これからのエージェンシーにぜひやってもらいたいのが企業のトップから社員一人一人に向けたコミュニケーションのサポートです。今までに培った外向けのコミュニケーションのノウハウを生かし、社員向けにインターナル・コミュニケーションとして展開すべきだと思います。

得丸 トヨタがやっているのは、まさにそれです。豊田社長が企業としての考え方を伝え、社員やステークホルダーへタイムリーに浸透させるためにメディアの力を使っています。これまでの広告コミュニケーションは、商品やサービスを通じて訴えるものでしたが、トップが企業の価値観を直接伝えることの重要性が増していると感じます。この変化は、ソーシャルメディアの登場でもたらされたものです。最近は減りましたが、ソフトバンクの孫正義氏がTwitterで情報発信を積極的に行ったことはよく知られています。トヨタのやり方はもっと洗練された形だと思いますが、他の企業もスピーディーに取り組んでいくべきだと思います。

松永 「トップこそがコンテンツであれ」という考え方もありますし、組織的に情報のマネジメントと発信を行うことも重要と分かります。一方、トップからの情報流通を活性化してスピーディーにやっていく上では、企業のビジョンのように、軸になるものが必要になるのではありませんか。

得丸 それについては少し違った観点からお話しさせてください。電通アイソバーがCXデザインで重視していることは2つあります。1つは体験に伴う障害を取り除く「フリクションレス」で、もう1つが行動を促すための「モチベーション」です。人を動かすには動機を作るクリエイティブが必要です。これは今までエージェンシーが得意としてきたことです。これにテクノロジーの貢献余地が大きいフリクションレスを組み合わせれば、優れたCXができると考えています。価格や機能では差別化できない今、「ワクワクする」「ホッとする」などの情緒的な価値の創出がこれまで以上に重要になっています。トップのビジョンというのも、こうした価値の創出に大きな影響を与えるものだと思います。

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