マーケティングは経営を変えることができるし、マーケティングだけが経営を変えられる。だが、それを担うのは誰なのか。そもそもなぜそれに挑まなければいけないのか。
2018年8月1日、B2Bマーケター向けカンファレンスイベント「Bigbeat LIVE」が開催された。私はこのイベントのホストの1人として、登壇者と参加者が双方向で思いを共有するためのライブ空間作りという役割を与えられていた。ところが実際にイベントを終えてみると、誰よりも私自身が大いに刺激を受けたと感じている。
私のパートの登壇者の1人であるアルテリア・ネットワークス(以下、アルテリア)代表取締役社長CEOの川上 潤氏は今、会社の未来に向けてマーケティングを経営の主軸に据えることに挑んでいる。今回のイベントでは、そうするに至った経緯と取り組みを進める上での苦悩(struggle)について、率直に語ってくれた。なお、アルテリアの挑戦については、今回のイベント主催者でもあるビッグビート代表取締役の濱口 豊氏がITmedia マーケティングで既に記事化しているので、こちらも参照してほしい(関連記事:「テクノロジー企業からマーケティング企業へ)。
アルテリアは法人およびマンション向けに自社回線網を活用したインターネット接続サービスを提供する通信キャリアだ。少数の超大手が支配する通信市場の中で、同社は独特な立ち位置にいる。
NTTやKDDI、ソフトバンクといったメガキャリアと同じ戦い方をしても勝ち目はない。資本力では、はなから勝負にならない。プロダクトの品質は重要ではあるけれど、それだけで差別化はできない。生き残る道は、マーケティングをコアコンピタンスに据え、従来のポジショニング戦略をブラッシュアップしてオンリーワンの存在になる以外にはない。そのために川上氏は決めた。「全社員のDNAにマーケティングの考え方を組み込む」と。
そう決意した日から、川上氏の挑戦の日々は始まった。それは決して順調な戦いではなく、今もなお苦闘は続く。実は私自身も、同社のプロジェクト支援という立場で関わってきたのだが、その中で共に考え、教えられてもいる。
川上氏は、マーケティングを「お客さまが必要とする価値や成果と、自社の努力を結び付けるための活動の全て」と定義する。成果を売るためにはまずその成果が何を意味するのか合意を取ることから始めなければいけない。しかし、全部署の全社員が顧客のゴールを理解し、自分たちが提供できる価値を考えるようにするというのは、言うほど簡単なことではない。
どの部署で働く社員も、日々努力をしている。それは今までもそうだったし、他の多くの企業でも同じだろう。だが、それらの努力が全て、本当に顧客が必要とする価値や成果をもたらすためのものになっていると、胸を張っていえる人がどれだけいるだろうか。
私は講演などで常に「お客さまには製品ではなく成果を売れ」というメッセージを発信し続けてきた。デジタルシフトの流れの中、B2Bマーケティングといえば、マーケティングオートメーションなどを使ったデマンドジェネレーションの取り組みと同義で語られがちだ。だが、予算を付けて人をアサインし、ツールを与えさえすれば成功するのかといえば、そうではない。「せっかく獲得したリードを営業が追いかけてくれない」「マーケティング部門がろくなリードをよこさない」と社内が反目し合っているダメな企業が山ほど存在するのは、ご存じの通りだと思う。もしかするとこれを読んでいるあなたの会社もそうかもしれないが。
マーケティングを仕組みとして回すためには、ツールよりもまず戦略が定まっていなければならないのであり、戦略が機能する組織になっていないなら、そもそも企業文化から変える必要がある。会社が変われないのはトップが悪いからという愚痴を耳にするが、たとえ社長であっても1人の力で文化は変えられない。だからこそ、マーケティングの考え方を全社員のDNAに組み込む必要があるのだ。
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