「ボケない大阪へ、ツッコメ」のキャッチコピーと、文字通り大阪の大地に頭から突っ込んだ人々を描いたインパクトあるポスターが話題を呼んだ「ボケない大阪プロジェクト」。企画に携わったNPO法人に話を聞いた。
突然だが、読者の皆さんは「大阪」に対してどんなイメージをお持ちだろうか。「週刊ダイヤモンド」(2016年3月26日号)では「好きな県」「嫌いな県」について、読者アンケートを基に全国の都道府県の“番付”を作っている。これによると大阪府は「嫌い」部門の「横綱」。一方で「好き」では10位と、微妙なポジションだ。硬派なビジネス誌の調査で調査対象の平均年齢53.6歳、男性比率89%というサンプルの属性が偏りをもたらしている可能性はあるのかもしれないが、少なくとも全てにおいて好感度が高いとまでは言えないようだ。
そんな大阪府が東京圏(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県・茨城県の一部)在住在勤者に対して「大阪で働く」「大阪で暮らす」ことの魅力を伝え、大阪への移住を奨励するのが「大阪おためし移住プロジェクト」(通称「ボケない大阪移住プロジェクト」)だ。
2016年8月に公開された公式サイトに採用されたのは「ボケない大阪へ、ツッコメ」というキャッチフレーズと、それを文字通り表現したメインビジュアル(大阪の大地に人々が頭から突っ込んでいる下の画像を見てほしい)。これに対し、SNSを中心に「これはひどい」「ツッコミ待ちだな」「かなり攻めている」などとさまざまな声が上がった。ネットから口コミが広がりテレビや雑誌などにも多く取り上げられたので、知っている人も少なくないだろう。
ボケない大阪移住プロジェクトでは2016年8月に公式Webサイトを公開し、9月初旬まで参加者を募集。10〜12月にかけて、大阪への移住モデルとして3つのプログラムを実施した。
1つ目のプログラムは、大阪府内の企業で1〜5日間働く「仕事体験」。2つ目は、大阪のスタートアップ団体やプロジェクトに3日間参加する「起業体験」。3つ目は大阪府内のIT企業とチームを組み、ビジネスプランを考えてプレゼンする1日限りの「大阪ブレインストーミング」だ。
近年、多くの都道府県が、都会から人を呼び込もうと移住プロジェクトを盛んに展開している。その中で同プロジェクトがとりわけ興味を引くのは、大都市である大阪が「地方の魅力」を出し、都市から地方への移動を想起させる「移住」という表現を意図的に使っている点だ。
「大阪府から東京圏へ、年間およそ1万人の転出超過が起きています。大阪の企業100社ほどにヒアリングしたところ、とくに若くて優秀な人が東京へ出ていってしまい、求めている人材が不足していると話す人事担当者が多くいました」と語るのは、同プロジェクトで企画立案と実施に携わるNPO法人スマイルスタイルの藤吉航介氏だ。
東京への人材流出は、他の多くの自治体同様、大阪にとっても実は深刻な問題だったのだ。こうした状況は今に始まったわけではなく、大阪府もこれまで、ただ指をくわえて見ていたわけではない。実際、2014年頃から20〜30代を中心とする若い働き世代を呼び込もうと、求人している企業と働きたい人材をマッチングさせるためのイベントなども行ってきた。しかし、年間100人の人材を大阪府へ呼び込み、大阪で働き始めてもらうことを目標に掲げたものの、思うように成果が出ず、苦戦を強いられた。
「大阪で働くことを前面に打ち出したプロモーションでは、情報が埋もれてしまうのです。地方創生の流れの中で、都市から自然豊かな地方への移住モデルは確立されつつありますが、都市(東京)から都市(大阪)への『都市間移住モデル』を構築する必要がありました」と藤吉氏は語る。
それから事業のコンペを経て、2016年度に大阪で働きたい人の掘り起こしを任されたのが、スマイルスタイルというわけだ。
ボケない大阪移住プロジェクトは、大阪をあまり知らない人が大阪移住に向けて進むまでに、
という4つのステップを踏むと想定している。このうち同プロジェクトが担うのは前半2ステップだ。
それらを達成するために実践した“攻めのマーケティング”の1つが、先述のWebサイトだ。
前述したように、同プロジェクトでは都市間移住のモデル構築を目的にしている。まずは見た人が何か一言物申したくなる、大阪流の笑いのセンスがギュッと詰まったファーストビューでターゲット層の注意を引く。そして、その後に大阪の魅力をていねいに伝えているのだ。
冒頭に述べた通り、多くの人は大阪のことを好きでもなければ意識すらしていないのが現実だ。そんな中で人を動かすには、最初の意識を変えることがまず重要になる。ツッコミは「好き」の始まり。何とも大阪らしいではないか。
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