マーケティングの正解は「既存顧客への利益還元」か「新規顧客獲得」なのか?既存か新規か(1/2 ページ)

今年7月23日にMIT Sloan Management Reviewに掲載された論文 “Should You Punish or Reward Current Customers?”(「既存顧客をぞんざいに扱うか、それとも報いるべきか?」)では、この問題に対する考察が載っている。

» 2013年08月02日 14時34分 公開
[岩崎史絵,ITmedia マーケティング]

 ビジネス拡大を目指す上で、マーケティング部門のミッションは大きく2つに分類できる。1つは既存顧客とのリレーションシップを深め、長期間付き合いがある優良顧客に利益を還元していく戦略。もう1つは、常に新しい顧客獲得に向け、新規登録優待キャンペーンなどを行う戦略だ。

 さて、実際ビジネス上有効なのは、「既存顧客への利益還元(リワード)」なのか、それとも「新規顧客獲得」なのか。今年7月23日にMITビジネススクール機関誌のMIT Sloan Management Reviewに掲載された論文“Should You Punish or Reward Current Customers?”(「既存顧客をぞんざいに扱うか、それとも報いるべきか?」)では、この問題に対する考察が載っている。

 本論文では、過去10年間に掲載された一連の学術論文を基に、ゲーム理論を用いた分析手法を使って「カスタマー・リワード・プログラム設計の複雑性」に関するインサイトを抽出している。このフレームワークでは、見過ごされがちな顧客行動における2つのシンプルなルールを導入した。1つは「フレキシビリティ(購買における適応性)」だ。これはニーズや利便性、その他嗜好性などで刻々変化するもので、例えば「自宅に近いホームセンター」を行きつけにしていた人が、「通勤途中にあるホームセンターの方が利便性が高いため、そちらを行きつけの店舗にする」といった行動が挙げられる。さらに単純な例では「自分のお気に入りの航空会社があったとしても、その航空会社が自分の行きたい地域に運航していないので、別の航空会社を選ぶ」といった事柄も含まれる。

 もう1つの重要な顧客行動の特徴は何か。それは「顧客はすべて、等しく価値をもたらすものではない」という事実だ。アメリカン・エキスプレスによると、超優良顧客は小売店鋪では一般顧客の16倍、レストランでは13倍もの金額でカードを利用しているという。このように2割の優良顧客による売り上げが全体の8割を占めるという「8:2の法則」は現実のものであり、本論文ではこのアンバランスさを「バリュー・コンセントレーション(価値の集中度)」と定義。この「フレキシビリティ」と「バリュー・コンセントレーション」という2つの次元を使い、顧客維持と獲得のバランスを探っていった。その結果を表したのが下記の図になる。これによると、自社のビジネスにおいて「フレキシビリティ」と「バリュー・コンセントレーション」の両方の色合いが濃い場合、特に優良顧客に対しては利益還元を行う方が有効だという。残り3象限にある企業は、むしろ新規顧客獲得に注力する方が、効果が高いそうだ。

図1:フレキシビリティとバリュー・コンセントレーションから見たマーケティング戦略

 フレキシビリティ、バリュー・コンセントレーションともに低いビジネスとして「雑誌購読」を考えてみよう。定期購読の場合、購入する雑誌数も固定化されており、購読期間も半年〜1年以内というものが多い。とすると、顧客に対して何らかの報酬を出すよりは、常に新規開拓をしていく方がビジネス向上につながりやすい。携帯電話も同じで、バリュー・コンセントレーション率は雑誌よりも高いものの、その層に手厚くするよりは、1〜2年契約してくれる新規ユーザーを多く獲得する方が戦略的に有効だ。一方、既存顧客への利益還元が有効なのが小売店鋪だ。利便性や嗜好に左右されやすいが、一度その店舗やブランドのファンになれば、購入頻度も金額も増える。さらに、購入回数や金額に応じてセールや割引などの利益還元を行えば、よりその店舗/ブランドで購入するようになる。自社のビジネスの特徴を見極め、マーケティング戦略の方向性と対象を設定しよう。

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