第1回 なぜ、今、インバウンドマーケティングなのか【連載】基礎から理解するインバウンドマーケティング(1/2 ページ)

企業や消費者の購買行動の変化、および、売る側に求められる変革の圧力という観点から、いま、インバウンドマーケティングが注目される背景を考察する。

» 2012年08月02日 12時30分 公開
[尾花 淳,マーケティングエンジン]

購買行動が変わった

 昨今、日本国内においても「インバウンドマーケティング」という言葉を目にする機会が増えてきた。Googleで同ワードを検索すると、インバウンドマーケティングについての定義やその手法がさまざまに論じられている。これと言った決まった定義があるわけではないのでどれも正解なのだろうが、概して、「顧客から見つけられること」「顧客を引きつけること」が主軸になるところに異論はないだろう。筆者なりの定義は後にまわすとして、まずは、なぜ今、こんなにも注目されているのかを考察したい。

 インバウンドマーケティングが注目されている背景には、これまでのマーケティング手法が効かなくなってきていると言われたり、思うような成果が得られなくなってきたと言われたりしていることがある(あるいは、新しいもの好きのマーケターならではの特性かw)。そしてこれは、世の中の人々や企業の購買行動に変化が生じたことが主要因だと考えられている。

 改めて「購買行動」の変遷を辿ってみよう。高度経済成長期に代表される大量生産、大量消費の時代、売る側の立場は強く、極端に表現すれば「次に必要なものはこれですよ、用意しましたので、どうぞ順番に並んで買ってください」と発信すれば、消費者に対してであろうと、企業であろうと売ることができた。買う側には、情報もなければ、選択の余地もなかった時代だったと言えよう。

 その後、売る側にとっての情報発信手段/コミュニケーション媒体が増えていった。そしてインターネットが登場する。インターネットが商用として立ち上がると、これも売る側にとっての情報発信の媒体となった。まずは、電子メールによる情報発信。これは、一部業者の行き過ぎた行為によって「迷惑メール」として法律で規制されるまでとなった。そして、企業のWebサイト。TVCMなどと違い、そこに行けばいつでも情報がある媒体として、「看板」や「カタログ」の代替えとして始まり、その後、そのインタラクティブ性を活かした情報発信が試みられてきた。

 企業による情報の掲載、個人による情報の掲載、2ちゃんねるに代表されるBBSへの投稿など、有象無象、玉石混淆の情報のるつぼと化したインターネットにおいて、必要な情報に辿り着くための「道具」としての検索エンジンがその性能を高め、結果的にネットの普及/成長に大きな貢献を果たした。そして、いつでも入手可能な膨大な情報と検索エンジンが両輪となって、購買行動のパラダイムシフトが起こった。以前は限られた者だけが持っていた情報が、もはや、ネットにない情報などないと無意識に思ってしまうほどに、検索による情報入手と活用は日常化してきている。当然、購買行動の中にも取り込まれている。

 そしてもう1つの重要な流れがソーシャルメディアの普及だ。これにより情報を一方的に受け取るだけだった買う側も発言権を持つことになった。また、従来は知人としか取り交わされてこなかった買う側同士での情報交換を、見知らぬ人と行えるようになる。買う、使う、そして、感想を知らせ合う=ネットに投稿するという流れだ。

 GoogleがZMOT(Zero Momentum of Truth)と呼んで提唱している消費者の購買行動の変化はまさにそれを表している。これは、P&Gが店頭で商品と向きあったその瞬間に消費者は購買意思決定を行うとして提唱したFMOT(First Momentum of Truth)から発展した考えで、消費者の購買意思決定は、店頭に行く前にネット上で行われるというものだ。

 2010年に経済産業省によって行われた消費者購買動向調査で、「商品・サービス購入時の信頼できる情報源」についての調査結果が下図だ。最も信頼できる情報源は企業のオフィシャルWebサイトとなっており、続いて20歳代から40歳代の合計では商品・サービスに関する評判や情報のサイト、50歳代まで含めた合計では、テレビという結果になっている。以下、価格比較サイト、検索結果と続いており、パンフレット/カタログや人的営業よりも概してインターネット上の情報の方が、信頼され参照されているのである(なお、60歳代まで含めると全体の1位はテレビになる)。ここから、現代の企業や消費者が、実際の購買行動の前にインターネットによって事前調査を行なっている姿が浮かび上がってくる。

inbound01_01.jpg 経済産業省「消費者購買動向調査」(2010年)の結果を元に筆者作成

 なお、この購買行動の変化については、総務省がまとめた「平成23年版 情報通信白書」にもまとめられているので必要に応じて参照して欲しい。

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