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» 2016年03月11日 08時00分 UPDATE

【連載】サイバーエージェント流動画広告入門 第4回:Web動画広告の「弱点」と、その乗り越え方について

今後ますます成長が見込まれるWeb動画広告市場ですが、もちろん、課題がないわけではありません。最終回となる今回は、すでに表面化している諸課題と近未来に予測される問題について解説します。

[酒井英典,株式会社サイバーエージェント]

 Web動画広告を取り巻く市場概況から実践するためのKPI設計、予算アロケーションの考え方に至るまで、これまでの連載で一通りのことはお分かりいただけたと思います。Web動画広告の可能性は底知れぬものがあります。とはいえもちろん、ただ始めさえすれば必ずうまくいくというものでもありません。第4回は、表面化している諸課題と近未来に予測される問題について、解説したいと思います。

課題1:コスト問題

 第1回でも触れましたが、Web動画はテレビCMより割高です。テレビCMは出稿予算が億単位になりがちなのでイメージしにくいかもしれませんが、1リーチ当たりのコスト効率は良いのです。「テレビでリーチできるのは子どもと高齢者ばかり」という見方も根強くあり、それが必ずしも無根拠とは言い切れないことも、われわれの研究で分かってきていますが、それでもやはり、テレビCMの方が安いのが現実です。その現実をどう受け止め、広告費全体の中でWeb動画をどう位置付けていくべきか、考えていきます。

その1:ハイブリッド配信でWeb動画は最低限度に

 テレビCMが安いとはいえ、テレビCMだけではリーチできないユーザー層が多いことも確かです。だから、テレビでリーチ可能な層にはできるかぎりテレビCMでリーチすることにして、残りを「やむなく」Web動画で補完するという考え方は合理的だと思います。

 高コストの出稿をするわけですから、効率が少しでも良くなるように「運用」していくことがとても大事です。入札コストの低減化、フリークエンシーの制限、テレビでは届かない層へのターゲティング配信など、やるべきことはたくさんあります。私はテレビ予算の2、3割はWeb動画に投資すべきと考えています。それを無駄金にしないためにも、テレビCMの買い付けよりも手間を掛けて運用していく必要があるのです。

その2:ターゲットへのリーチ率を最大化する

 商材にもよりますが、ターゲットの年齢層が狭ければ狭いほど、若ければ若いほど、デモグラフィック(性年齢)別配信ができるWeb動画の方が、出稿全体に対するリーチ率は高くなっていきます。「無駄撃ち」が少なくなっていくわけです。そうなると場合によっては、Web動画の方がテレビCMのリーチコストよりも割安になることがあります。女性専用商材とか学生向け商材とか、ターゲットが絞られている商材を持つ広告主にとって、Web動画は極めて有効な手段となり得るのです。

 とはいえ、セグメンテーションの正確さについては、少し疑問があることも確かです。われわれも、調査会社をアサインしてSSP(シングルソースパネル)を活用したターゲットリーチ率検証を行いながら、日々改良を進めています。

その3:「認知」はテレビに任せ、Web動画は「理解」に注力

 広く一般にリーチすべき内容はテレビCMに任せ、理解を深めてほしい内容をWeb動画で訴求する。それぞれの役割を変えて、うまくすみ分けるような考え方です。

 ただし、全員がテレビを見ているわけではありませんから、ターゲットは「テレビCMを見て商品認知ができている層」と「テレビCMを見ていなくて商品認知ができていない層」の2グループに分かれます。そもそも認知ができていなければ理解を深めることもできませんから、そこは課題となります。2つのグループに配信内容の出し分けができるといいのですが、現状では難しいといわざるを得ません。そこでわれわれはテレビCMに接触しない層のWeb行動データ分析を行い類似ユーザーリストを作成し、それに基づいたターゲティング配信を行う研究を進めてきました。まだ完璧とはいえませんが、テレビCMを見ていなくて商品認知ができていない層に効果的にリーチすることで、認知を補完することもできるようになってくるでしょう。

課題2:需要期の「オークション高騰」問題

 日本市場ならではの話として、オークション形式の広告取引は全般的に3月に高騰する傾向があります。予算消化のタイミングで、各社が入札を強めるからです。

 Web動画の世界でも、YouTubeを中心にしてここ数年、3月の入札単価は高騰傾向にあります。リーチコストの金額が他の時期よりも明らかに高くなり「より割高感の増す」時期となります。解決策を考えてみましょう。

その1:CPM買いの予約型広告にシフトさせる

 予約型であればCPM買い(定額購入)ができますので、出稿金額が確定しているなら、予約してしまうことも一手です。また、需要期にはメディアによっては「在庫切れ」のリスクもあります。CPM買いはそのための対策にもなるでしょう。

その2:前後の時期に出稿予算を分散させる

 商品発売のタイミングであるとか期間限定キャンペーンでなければ、配信期間を長めに取って、予算を分散させることも有効な一手です。早めに判断して、コスト効率の良い配信につなげられるようにしましょう。

これから課題になりそうなこと

 最後に、これから顕在化してきそうな問題について、私の予測を述べておきたいと思います。

配信在庫の「天井」問題

 まだそれほど問題にはなっていませんが、2016年以降、表面化してきそうな問題です。特に「PCのインストリーム広告」については、広告在庫を急増させることは難しそうです。このまま動画ニーズが伸びていくと、いずれ在庫の「天井」に当たります。毎年、年度末に当たる今ごろは、YouTubeを中心に「オークションプレッシャー(入札高騰)」が話題に上がりますが、これは天井が見えてかけている証拠でもあります。まだ比較的余裕があり、今後の伸びも期待できるスマートフォン枠や、インフィード、インバナー広告の在庫開拓が、2016年以降の課題になりそうです。

デバイス間の「重複リーチ」問題

 スマートフォン向け配信はPC向け配信のように追跡ビーコンを付与して効果検証することが技術的に難しいとされてきましたが、そこは近い将来、何とかなりそうです。となると、今度はPCとスマホ間の重複リーチをどう考えるかに話題が移っていくと思われます。「PC上での広告接触=スマートフォン上での広告接触」となるのか、もしかしたら「PC1回接触=スマートフォン2回接触」といった計算式が成り立つかもしれません。今後の効果検証が期待されます。

ターゲティングの「精度」問題

 Web広告でよく見掛ける「デモグラ指定(性年齢のターゲティング)」ですが、メディアによっては、精度が高くないものも見受けられます。ともすれば、男性向けの広告が一部女性に当たってしまったり、60代向けの広告が一部10代に当たってしまったりと、残念な事態が起こっていることがあるようです。こうした事態を放置しておくことは、広告発信元にとっても受け手にとっても、何も良いことがありません。特に動画広告は静止画広告よりも広告表示コストが高いわけですから、無駄撃ちは避けたいところです。

 ちなみに現時点では、多数のユーザーが性別や年齢情報を登録するソーシャルメディア(主にFacebook)が、情報確度が高く広告のターゲティング精度も良いと評判です。「Facebook広告のターゲティング精度を基準にして、他メディアの配信精度を検証する」というサービスも出てきました。運用型広告なら、メディアごとにオペレーティング側でターゲティング精度を高める工夫も可能ですが、なかなか大変な作業です。今後、ターゲティング精度向上のための努力が深まるでしょうが、メディア各社には早々に改善をお願いしたいところです。

まとめ

 これまで4回にわたり、急成長する動画広告市場の概況を解説しました。「市場予測」「テレビCMとの比較」から始まり、「KPI設計」「新しい効果計測」「予算配分の考え方」そして「現在の諸課題」「近未来に予測される問題」について、簡略ながら網羅的に解説したつもりです。

 Web動画広告は発展途上の市場であるため、まだまだ荒削りな部分も多いと思いますが、これからも中長期的に成長が続くと思います。今後も皆さんとともに市場を育てていければ幸いです。

寄稿者紹介

酒井英典(さかい・ひでのり)

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株式会社サイバーエージェントオンラインビデオ総研 所長。新卒で博報堂に入社。コピーライター兼CMプランナーとして、自動車や携帯電話キャリアのクリエイティブ制作を担当。同社を退社後、モバイル系の広告代理店を経て、株式会社CIRCUSに在籍。テレビCM枠の買い付けを含むメディアプロデュースを経験。2013年にサイバーエージェントに入社。2015年10月よりオンラインビデオ総研を設立に伴い所長に就任。動画広告の新商品開発・運用・制作を幅広く担当。動画広告配信における新商品「ローテレ配信」「アジャイル型配信モデル」などを開発。


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