セールスフォースが新たなAIエージェントを発表した。
個人向けAIツールを使っていると、質問や依頼を入力して出力結果を得るまでのユーザー体験が変化していることに気付く。会話型ウィンドウに入力する内容が変わってきたこともあるが、出力までにかかる時間が以前は数秒程度だったものが、最近では「考え中」であると明示され、数分かかって結果を返してくることも少なくない。
この背景にあるのはLLMの進化である。2025年前半までは別々だった「素早く回答するモデル」と「じっくり考える推論モデル」が実質的に統合され、現在の主要LLMは推論機能を備えている。
ここで留意したいのが、LLMにとって「複雑で難しいタスク」とは、時間がかかるものではなく、タスクを複数のステップに分解した時、前後に依存関係があり、逐次処理が連続するようなものであることだ。具体的には「試行→エラーの検知→原因の特定→修正→再試行」のループを繰り返しながら進行するものが該当する。
ビジネス活動では、このようなタスクが多く存在する。営業の案件創出のプロセスも「顧客の経営課題や悩みを分析する→仮説を立てて解決策を提案する→顧客からフィードバックをもらう→認識の相違が生じた原因を分析する→提案内容を修正する→再度提案する」という単位に分解できるが、これらの業務は連続性を持って遂行することが重要となる。
セールスフォースの年次イベント「Dreamforce 2026」の基調講演で、マーク・ベニオフ氏(Salesforce会長兼CEO)が「モデルだけでは十分ではない」と指摘したように、AIエージェントにこのようなタスクを任せる場合、タスクを分解し、優先順位を付けて実行する計画能力が必要になる。これはモデルの推論機能で可能だが、モデルの外側では次のような能力を強化する必要がある。
メモリー: コンテキストと進捗(しんちょく)状況を保持する。
持続的な実行力: 計画を長期間にわたって保持し、状況の変化に応じて計画を微調整する。
動的ステアリング: ユーザーからのフィードバックと指示に基づいて、AIエージェントの動作を調整する。
セールスフォースは、このようなタスクに特化した推論(ロングホライズン推論と呼ばれる)専用の環境で動く初のAIエージェント「Hunter」をリリースした。同社のAIエージェント基盤「Agentforce」で、Hunterはアウトバウンド営業の機能を担い、インバウンド営業の担当のAIエージェント「Piper」と共にパイプラインマネジメントでの活用が期待されている。
米国では11月に一般提供開始を予定しているが、日本での提供開始時期は未定だ。
PiperはWebサイトに常駐し、見込み客からの問い合わせへのフォローを中心とする案件獲得を担当し、Hunterはターゲットリストを作成し、ゼロからの案件獲得とフォローを担当する。セールスフォース自身の先行利用では、SDR(Sales Development Representative、マーケティングが獲得したリードにアプローチするインバウンド型の営業手法)チームとBDR(Business Development Representative、企業が接点のない顧客にアプローチする営業手法)チームそれぞれがPiperとHunterを使い、2027年度第2四半期だけで合計約5億ドルのパイプラインを獲得したという。
PiperとHunterはどちらもユーザーのビジネスゴールの達成に向けて、24時間365日連続稼働する共通点がある。それぞれどんなゴールの実現を目指すのか。セールスフォース・ジャパンの田崎純一郎氏(製品統括本部 プロダクトマネジメント & マーケティング本部 シニアディレクター)は「パイプラインマネジメントのプロセスを『1.パイプライン(案件)を作る』『2.案件を進める』『3.案件をクローズする』の3つにプロセスを分解すると分かりやすい」と説明する。
このうち、Piperはステップ1の案件創出に特化したエージェントのため、Hunterへ渡す連絡先の獲得あるいは商談スケジュールの設定がビジネスゴールになる。
対してHunterは、月単位、四半期単位のリズムの中で活動する営業の業務特性を踏まえ、担当者に複数の「中間目標」を提案する設計とした。
HunterはABM(Account Based Marketing)のアプローチを取り入れ、ターゲット企業の組織階層に沿って整理されたデータにアクセスできる。
B2Bのビジネスでは、目の前の1人の説得に成功しても、すぐにクロージングに至るわけではない。その人の上司、さらには周辺部署のキーパーソンたちを説得する次のステップが待っている。
その際重要なのが、組織図のデータである。特に顧客企業内での人事異動は重要なイベントである。先月の商談でキーパーソンの気持ちを掴んだとしても、その人が別の部署に異動した、あるいは退職して別の会社に入社した──このような場合、前任者との合意事項が引き継がれているか確認し、新任者の考え方に合わせて活動計画を見直さなくてはならない。
海外では、詳細な組織階層データを入手するため、専用のツールを利用している企業が多い。Hunterはその代表的なツールを組み込んだ設計を採用し、リアルタイムで情報を得られるようにした。
日本では外部から組織階層データを購入する商習慣はあまりなく、LinkedInの活用も海外ほどではないが、新聞の人事異動情報を定期的に読み込むなど、代替策を講じる余地はあるとみてよさそうだ。
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