ファネル→フライホイールへ レイ・イナモト氏が語る、ブランドが「信頼」を得るための“思考の型”とは?後編(1/2 ページ)

これまで何年もの間、「認知→関心→検討→購入」と進むファネル型のモデルがマーケティング施策を考える際の“よりどころ”として機能してきた。このファネルの考え方が、SNS活用の多様化や生成AIの登場によって、限界を迎えている。グローバル・イノベーション・ファームI&COの共同創業者 レイ・イナモト氏が提唱する新しい思考方法「フライホイール型」の内容と、ブランド構築を経営課題とすべき理由について、詳しく紹介する。

» 2026年02月25日 09時00分 公開
[野本纏花ITmedia]

 「ブランドは、日々の企業活動の積み重ねによってたどり着いた“結果”であり、企業に対する消費者からの“信頼の象徴”だとも言える。ブランディングはあくまでも“手法”であり、ブランド構築の一端を担うに過ぎない表層的な取り組みだ。ブランドを正しく理解し、ブランド構築を経営の中心課題に据えることで、日本企業に大きなチャンスが来ると信じている」

 ──そう語るのは、グローバル・イノベーション・ファームI&COの共同創業者であるレイ・イナモト氏だ。

 同氏にこれからのブランド構築のあり方についてインタビューした模様を、前後編でお届けする。

前編:「ストーリー重視」の時代は終わった レイ・イナモト氏が語る、信頼を軸にしたブランド構築

 これまで何年もの間、「認知→関心→検討→購入」と進むファネル型のモデルがマーケティング施策を考える際の“よりどころ”として機能してきた。SNS活用の多様化や生成AIの登場によって、このファネルの考え方だけで施策を考えることが難しくなっている。

 後編の本記事では、イナモト氏が提唱する新しい思考方法「フライホイール型」の内容と、ブランド構築を経営課題とすべき理由について、詳しく紹介する。

ファネル型の考え方だけでは“もう限界”

 これまで何年もの間、ブランド構築やマーケティング施策を考える際にはファネル型のモデルが活用されてきた。

 しかし「SNSで口コミを調べる」「比較サイトで複数の商品を比較する」「生成AIに相談する」など、多様な手段を手に入れたデジタル時代の消費者は、このような一本道を進むことが少なくなった。

 また、企業が知り得ない“アンコントローラブルなところ”にもブランドと顧客の接点がある以上、このファネルを前提としたブランド構築には限界が来ているという見方もある。

 マーケティングファネルは、理論上はさておき実務上は、モノ(商品)がすでに完成している状態で考えられている。完成したモノを前提に、「購入」というゴールへ向かって、顧客をどう導いていくかを考えるためのものだ。

 「プロダクト構成が決まって、モノ(商品)が完成してから、ブランドをどう構築しようかと検討するのでは、遅すぎる」とイナモト氏は指摘する。

 商品企画の段階で「どういう文脈でどんな商品を作るのか、それによってどんなブランドを育てていきたいのか」まで練っておくことが大切だという。

 マーケティングファネルの考え方が完全になくなるわけではないし、イナモト氏がマーケティングの手法を否定しているわけでもない。「ブランド構築の観点で言えば、マーケティングファネルとは異なる、新たなフレームワークが必要だ」ということである。

従来のファネル型(提供:I&CO)

信頼の積み重ねを生み出す「フライホイール型」のブランド構築

 イナモト氏が提唱する新たなブランド構築のアプローチは、フライホイール(はずみ車)型だ。「(1)COMPANY:企業がプロダクトを生み出す→(2)PRODUCT:プロダクトで顧客を魅了する→(3)CUSTOMERS:顧客がブランドを信頼する→(4)ブランドで他社と差別化する」 という4つのステップを循環させる。

フライホイール型のブランド構築(提供:I&CO)

 一つ一つのステップを詳しく見ていこう。

(1)COMPANY:企業がプロダクトを生み出す

 企業の「ミッション・ビジョン・バリュー」を社内の共通言語として明文化することが重要である。「会社の全ての人が理解できる、繰り返して言える言葉であることが重要」と指摘する。

(2)PRODUCT:プロダクトで顧客を魅了する

 プロダクトは、企業の思想や視点を伝える“メディア”となる。そのプロダクトの価値を可視化していくことが重要だ。このプロダクトを選ぶとどんな良いことがあるのか、提供価値(ベネフィット・差別化要因など)をできるだけ可視化できるよう意識したい。

 日本の技術企業は技術力が高い一方、伝える力に苦手意識を持っているケースが多い。だが、プロダクトにブランドを語らせると捉えれば、どうだろう。自らストーリーを語るよりも、プロダクトというメディアを介して思いを語るほうが、合っているかもしれない。

(3)CUSTOMERS:顧客がブランドを信頼する

 プロダクトに込められた思いを受け取った顧客が「この企業や商品、サービスは信じられる」と感じた瞬間に、ブランドが成立する。広告やキャンペーンによって瞬間風速を強めても、一度きりの接点だけでは、すぐに忘れられてしまう。

 「これからも長く関係を持ち続けたい」と思ってもらうために、メンバーシッププログラムやカスタマーサポートなど、あらゆる顧客接点で一貫性と整合性のある体験を提供し続けられる仕組みを作る必要がある。

(4)BRAND:ブランドで他社と差別化する

 信頼の積み重ねによって成立したブランドは、企業経営そのものにまで影響を及ぼすようになる。なぜなら、ブランドに寄せられた期待から外れる行動をとれば、顧客の心は離れ、売り上げは下がり、上場していれば株価も下がることになるからだ。

 逆に、ブランドに対する信頼をさらに積み重ねていけば「(自分の信じる)このブランドだから」という理由だけで選ばれるようになり、機能や価格による競争から抜け出すことができる。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

関連メディア