現在も、「こんにちは、<名前>さん」のような単純なフレーズですら、名前の表記に誤りがあるなど、データソースが統合されていないことが伺える場面に出くわすことがある。パーソナライゼーションを実践するには、AIエージェントだけでなく、信頼できるデータソースへのアクセスが不可欠なのだ。ハモンド氏は「Marketing Cloud Nextを提供するにあたり、セールスフォースはユーザーエクスペリエンスの簡素化と、パーソナライゼーションを業務フローに組み込むことに注力した」と話す。
では、Marketing Cloud Nextを利用すると、マーケティングキャンペーンはどう変わるのか。
イベントでは、Cumulus Financialという架空の金融サービス会社を例に、Agentforceを利用し、新しいキャンペーンを素早く立ち上げられることが紹介された。
例えば、初めて住宅を購入しようとしている人たちを対象とするキャンペーンを企画したとする。マーケターが最初にやることは、プロンプトへの企画概要の入力だ。Agentforceに「キャンペーンの期間、ターゲットセグメント、オファー内容など」を伝えると、Agentforceは作業を開始し、企画のドラフトを作成してくれる。
続いて、キャンペーンワークスペースに移動すると、全てのキャンペーンアセットを1カ所で確認できる。ここでは、新規でターゲットセグメントを作成したり、既存のセグメントを選択したりできる。
ターゲットオーディエンスが決まったら、メッセージ内容をパーソナライズするステップに進む。この作業もAgentforceはサポートしてくれる。Agentforcerは、Data Cloud内の住所データに基づき、ヘッダーのクリエイティブとコピーのパーソナライズができる。例えば、シカゴ在住者とニューヨーク在住者向けには、それぞれでメッセージ内容を変えるべきなので、異なるものを用意してくれる。
メールの内容もより踏み込んだものにできる。Data Cloudに保存されている個人の信用スコアのデータを参照し、審査で適用可能になりそうな金利レンジをメールの内容に反映する。一人一人の経済状況を反映しているため、Cumulus Financialのオファーに関心を持ってもらえる可能性が高まる。
メールを見て、関心を持った見込み客がCumulus FinancialのWebサイトに来たら、ページ自体がパーソナライズされている。よくあるのが、Webサイトに移動しても表示は通常通りというものだが、メールでの体験との一貫性を維持したまま、Webサイトでの新しい体験を始めることができる。
本領を発揮するのはここからで、これまでのやりとりの文脈を維持しつつ、Agentforceは見込み客の質問に答えることができる。加えて、ローン返済計画の試算や地域の住宅価格の相場など、パーソナライズした情報の提供、ファイナンシャルアドバイザーとの面談の提案、そのスケジュール調整など、タスクを自律的に実行できる。これはAIエージェントだからできることで、カスタマージャーニーを先に進める力をマーケターに与えてくれる。
対話が進む過程でのWebサイトでの体験も変わる。対話の中でAgentforceに条件を示し、最適な製品/サービスを提案してくれるよう頼むと、Data Cloud内のプロダクトデータにアクセスし、チャットウィンドウ横のWebページ画面に示してくれる。見込み客が自分で検索する必要がない。
この裏側では「Webキュレーション」という機能が動いている。この機能は、AIエージェントに与えられた自然文の依頼内容から、画面に表示するべき情報とレイアウトを決める動的レンダリングを行うものである。
ただし、Marketing Cloud Nextを導入すれば、すぐにこのようなWeb体験の最適化が可能になるわけではない。AIエージェントは、ポテンシャルは高いものの、何をするべきかを教えなければ、新人マーケター以下の存在である。
そのためにAgentforceはAIエージェントが対応できるタスクの範囲を、「トピック(担当できる会話の分野)」と呼ぶアクションライブラリーで管理できるようにした。同社は事前定義済みのトピックを毎月アップデートしており、ユーザーはカスタマイズや独自のトピックの作成で、AIエージェントのスキル拡張もできる。
「このメールは送信専用です」という一方通行のメッセージでは、顧客とのコミュニケーションは発展しない。「新しいテクノロジーは、従来のマーケティング手法から脱却し、2兆件のメッセージを2兆件の対話への進化に役立つ。会話型マーケティングという次世代のマーケティングへと移行していく」とハモンド氏は強調した。
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