広告収入減はサブスクで補える? 逃げた広告主は戻る? そして余命は? Xの将来に関する5つの考察【後編】Social Media Today

前編ではX倒産の可能性はあるか、イーロン・マスク氏の個人資産でXを立て直すことはできないのか、考察した。後編ではX逆転のシナリオについて考える。

» 2023年12月06日 09時00分 公開
[Andrew HutchinsonSocial Media Today]
Social Media Today

 広告離れが深刻化するXはこれからどうなるのか。前編に引き続き、誰もが知りたいポイントを考察する。

(編注:本稿は「倒産する? マスク氏は金持ちなんだから自腹を切ればいいのでは? Xの将来に関する5つの考察【前編】」の続きです)

考察3:Xはサブスクリプションで広告の損失を相殺できるか?

 当初はそれこそがマスク氏の野望のように思えたが、現状は全くもって程遠い。

 マスク氏は2022年11月に旧TwitterのCEOに就任した直後、サブスクリプションを主要な収益の柱とし、最終的には収益全体の50%を占めるようにするという漠然とした計画を説明した。

 上記の数字から逆算すると、Xの2022年度の収入レベルでは、年間20億ドル以上をサブスクから得る必要があることになる。これはXプレミアムの最高価格帯の加入者数約1200万人に相当する。

 しかし、これまでのところ、Xプレミアムの加入者数は100万人にすら満たない。

 概念的には理解できるし、マスク氏がこれを実行可能な選択肢だと考えたことも分かりる。マスク氏は、大多数の人々がXにおける彼の「言論の自由」を支持していると信じており、2億5000万人以上のデイリーアクティブユーザーがいるのだから、わずか5%にお金を払わせることは十分に達成可能な目標だと考えているのだ。

 だが、実際にはそうなっていないことは明白だ。

 APIアクセスのコストを引き上げたりブランドへの認証を有料化したりすることで、より多くの副収入を得ることができるようになったとはいえ、Xが広告から得る収入には遠く及ばない。

 現在の広告収益は年間約20億ドルにまで減少している。それでも、その他の収入源が収益全体の50%を生み出すには程遠い状況だ。

 2023年11月、Xはサブスクリプションとデータ売り上げが全体の25%を占めるようになったと発表した。これは朗報のように思えるが、どちらかというとXの全体的な広告収入が大幅に減少したことが大きく作用しているのであり、サブスクリプションの売り上げが増加したわけではない。

考察4:広告主は戻ってくる?

 理想的には、これがXの目指すところなのだが、最近のマスク氏の発言は、彼が状況を是正する努力を全くしていないことを示している。

 実際、マスク氏は広告パートナーを積極的に遠ざけ、X内の情報フローの重要な推進力であったメディアやジャーナリストを侮辱している。

 マスク氏は、広告主が彼のアプリを放棄することと、より広範な「言論の自由」の議論における「Xとは何か」についての彼自身のイデオロギー的見解を結び付けている。ここに分断があるようだ。

 このことは、マスク氏が最近広告主を批判した際の具体的な表現を見れば明らかだ。

もし誰かが広告で私を脅し、金で私を脅そうとするなら、くたばれ(Go fuck)。くたばっちまえ。分かったか。

 マスク氏の見解では、広告主はXに検閲の一線を越えさせようとしているということだが、実際はそんなことはない。

 著名YouTuberのハンク・グリーン氏はXで次のように語っている(外部リンク/英語)。

Fortune 500に名を連ねるような企業は、それほどモラルが高いわけではない。彼らは収益が増減するかどうかに基づいて意思決定を行う。広告主がTwitterから離れるのは、声を挙げたいとか(ボイコットという形で)何らかの目的を達成したいからではない。彼らがTwitterから離れるのは、Xに広告を出稿することがネガティブな価値をもたらしているのか、それともポジティブな価値をもたらしているのか、確信が持てないからだ。実際に自社を傷つける可能性のあることにお金をかける理由はない。

 マスク氏は広告主のX離れをイデオロギー的な観点から見ているが、グリーン氏が指摘するように、彼のビジネスパートナーは各々のブランド価値を心配しているのであって、何が言えて何が言えないかをコントロールしようとているわけではない。

 マスク氏の反抗的な姿勢と広告主の圧力に対する彼の立場の根本にあるのは、その誤解だ。

 マスク氏はいつかそのことを理解するだろうか。そして、Xの広告サービスのシステムにおける自身の落ち度、特に自分の発言の問題点と、それによりXがどのように見られているかを反省することがあるだろうか。

 現段階では、マスク氏は意地でも沈黙することはなさそうだ。たとえ自分が間違った、誤解された、有害なものをシェアしていたとしても。

 そうなると、CEOのリンダ・ヤッカリーノ氏と彼女のチームが、今後どのように広告パートナーに状況の改善を売り込むことができるのか、私には分からない。

考察5:Xの余命は?

 もちろん、これら全ては変動するものであり、その過程におけるさまざまな要因に左右される。

 もしかしたら、マスク氏は広告パートナーと協力して状況を改善したいと考えるかもしれないし、そうすればXのユーザーベースが確保され、結果として広告パートナーが戻ってくるかもしれない。Xはまだ数億人のアクティブユーザーを抱えており、大きな広告機会を提供している。Xが状況を再び好転させる可能性はまだある。

 しかし現在、Xの成長計画のほとんどはまだ漠然としており、マスク氏はこの点でプラットフォームの再調整に関心を示していない。

 Xは決済の導入を検討しているが、実現にはまだ何年もかかる。また、決済を導入したところで、ユーザーがそのようなサービスを利用するのかどうかも疑問だ。

 XはGrok AIチャットbotを徐々に展開し始めているが、ほとんどの人はすでにChatGPTを使っているため、AIチャットbotの導入で大きな差別化が図れるわけではない。

 Xは求人情報を追加し、出会い系を視野に入れ、より長編のテキストや動画コンテンツを推し進めようとしている。だが、これらは全て他のアプリでより完全な形で機能的に提供されているものだ。

 状況を一変させるような大きな進歩がない一方で、マスク氏が広告宣伝に関する従来のスタンスを堅持している以上、Xは2024年3月までに大きな問題に直面する可能性があると私は想像する。なぜなら、第1四半期の結果から、見込みとのギャップの大きさやそれに伴う損失の規模が明らかになるからだ。

 Xはそれを必ずしも公には報告しないかもしれないが、そうなればさらなるコスト削減が進められる可能性が高まる。これは深刻なトラブルにあることのシグナルになるだろう。マスク氏はすでにほとんどの要素を最小限に削減しており、それを考えると、2024年半ばには、倒産を検討するほどの大赤字になるかもしれない。

 状況は変わるかもしれないし、Xはそのスタンスを見直すかもしれない。これは長期的な軌跡の中のほんの一点にすぎないかもしれない。しかし、現時点でマスク氏は「言論の自由」の立場を死守しようとしており、マスク氏の発言の一つ一つに耳を傾け、何とかしてマスク氏に認めてもらおうと必死ですがりつく多くのファンに応援されている。

 もしマスク氏が本当に感銘を与えたいのがそのような人々なら、Xはその代償ということになるのだろう。

 そして今、マスク氏はそれでいいと考えているように見える。

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