ディズニーなど主要広告主に暴言 イーロン・マスク氏はなぜX離れが加速しても煽りをやめないのか?Social Media Today

New York Timesが主催するイベントの壇上でイーロン・マスク氏は、彼の投稿がきっかけとなって出稿をやめた広告主のことを非難した。信念を曲げないやり方は一部の支持者に称賛されるかもしれないが、Xの広告ビジネスへの影響が懸念される。

» 2023年12月01日 07時00分 公開
[Andrew HutchinsonSocial Media Today]
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 X(旧Twitter)の再生に取り組む中で、イーロン・マスク氏はまたしても自分のやり方を変えられないことを示してしまった。マスク氏はどうやら、そんなことをするくらいなら直ちにXのプラットフォームを焼き払った方がましだと考えているようだ。

Fワードで挑発 ディズニーCEOには「ヘイ、ボブ」

 ここで現在のXの広告ビジネスの現状を簡単に振り返ってみよう。

  • マスク氏は2023年7月、旧Twitterの買収や市場動向などに関連するさまざまな要因により、Xの広告収入が前年比で50%減少していると述べた。Twitterは2022年に広告から39億6000万ドルの収入を得ているということなので、このままのペースだと、Xの2023年の広告収入は20億ドル程度になりそうだ。
  • マスク氏はさらに、Xの広告収入が2023年10月までに再び減少し、Xの最大の広告市場である米国の広告収入が前年比で60%減少したと指摘した。
  • 2023年11月初旬、Xが攻撃的なコンテンツの隣に広告を表示していることを示す2つの独立したレポートが発表された。一方でマスク氏は自身のXアカウントを通じて反ユダヤ主義的な発言を拡散したこともあった。
  • その結果、さまざまな有名ブランドがXへの広告出稿を中止すると発表したが、これはレポートよりもマスク氏の発言によるところが大きかった。これに対してマスクは、レポートの執筆者の一人に対し、事業に損害を与えたとして訴訟を起こした。

 Xの広告ビジネスにとって状況はかんばしくない。マスク氏はこれまで謝罪もせず、この新たな広告主ボイコットの主なきっかけとなった上記の投稿を認めることさえしていなかった。そして、ボイコットは日々拡大しており、より多くの広告主がXから手を引いている。それが年間最大の収益期であるはずのXの広告収入をさらに悪化させている。

 全てが危機に瀕している中、マスク氏はNew York Timesが主催するイベント「DealBook Summit」の壇上で大勢の潜在的な広告パートナーを前に自分のスタンスを明確にし、過去の過ちを償い、Xのビジョンについてより深く洞察する機会を得た。

 そして、彼はそれをした、しかし……。

 最初にマスク氏は、反ユダヤ主義的な投稿について実際に謝罪した。

 「あの投稿については申し訳なかった。愚かだった。私の3万の投稿の中で、文字通り最悪で最も愚かな投稿だったかもしれない。そして、徹底的に最善を尽くして説明したいのだが、少なくとも私は反ユダヤ主義(アンチセミティック)とは程遠く、実際にはその反対(フィロセミティック)だと思っている」

 これは謝罪として適切な言い方ではなく、やや的外れでもある。だが、私が思うに、オンラインに多くの聴衆を抱えるマスク氏にとっては、「私は反ユダヤ主義者ではない」と言うことよりも、彼がそのプラットフォームで実際に何をしているかの方が重要だ。

 

 しかし、これはいつか必ずマイルストーンの瞬間とみなされる出来事となり、しばらくの間、マスク氏とXのCEOであるリンダ・ヤッカリーノ氏、そしてXに投資する全てのパートナーたちを悩ませることになるだろうが、マスク氏は、彼の投稿がきっかけとなって出稿をやめた広告主のことをいわゆる「Fワード」を使って非難したのだ。

 マスク氏の「ヘイ、ボブ」という呼びかけは、DisneyのCEOであるボブ・アイガー氏に向けられたものと思われる。Disneyはマスク氏の発言を受けてXでの活動をほぼ中止した幾つかのブランドのうちの一つである。ESPN、Marvel、20世紀フォックスなど、同社が所有するブランドのプロフィールは、今後Xで公開されなくなるだろう。

 広告主との架け橋となり、Xが広告主の懸念に耳を傾け、気にかけていることを保証しようと努力してきたヤッカリーノ氏が、観衆の中で何を考えていたかは想像に難くない。

 マスク氏の広告主への宣戦布告は衝撃的ではあったが、意外というほどでもない。しかし、会社の存続が広告費にかかっているというのであれば、それはビジネスアプローチとして賢明なやり方ではない。

 Xは、広告パートナーとの議論においてより大きな力を得ることを期待して、別の収入源となるサブスクリプションにユーザーを誘導しているが、同社のサブスクリプション収入の総額は、より広い収入のパイのほんの一部にすぎない。現時点で、Xは2023年にサブスクリプションとデータ販売から約6億ドルを生み出す見込みだ。これに対して、広告収入は20 億ドルだ。

 広告業界は、業界の常識を覆そうとする個々のプラットフォームにはあまり良い反応を示さない傾向がある。このような発言をすることで、マスク氏は「言論の自由」の愛好家たちからさらなる称賛を得られるかもしれないが、Xのビジネスへのダメージの方がはるかに大きいだろう。つまり彼は、広告費を大幅に減らしてもXを運営し続けるための代替資金を見つけられると確信しているか、あるいは主流メディア機構の統制への抗議声明(あるいはモニュメント)とするためにXを崩壊させても構わないと考えているかのどちらかである。

 この局面におけるマスク氏の高度な戦略を理解しようと、私たち皆が頭を悩ませていると思う。というのも、これまで彼はこのような大きなインタビューではスイッチを切り替え、メディア向けに真面目な人格を見せることがあったからだ。

 今のところマスク氏は自分を前面に出すつもりはないようだ。ヤッカリーノ氏とそのチームは、Xが安全で応答性の高い有益な体験を提供することに取り組んでいることを広告パートナーに説得するのに、非常に苦労することになるだろう。

 マスク氏は、広告主が何を考えているか基本的には気にしておらず、彼のルールに従ってXに広告を掲載するかしないかのどちらかだと言っている。

 マスク氏にとって問題なのは、Xがどんなビジネスにとっても不可欠な広告プラットフォームではないということだ。現在、彼は全てのブランドにそれが必要かどうかを評価する理由を与えている。そして、より多くの企業が、有料かオーガニックを問わずXへの投稿を減らしているため、この点でXの価値は日に日に失われている。

 だから、マスク氏が広告主を挑発し続けている間、しばらく痛みを感じることになるのは彼自身の方なのではないかと、私は思う。

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