Grokの何が特別であり、例えばChatGPTや他のAIチャットbotとどう差別化されているのか。
イーロン・マスク氏のX(旧Twitter)傘下のxAIは、現在限定テスト中の最初のチャットbot「Grok」を引っ提げて生成AIレースに本格的に参入しようとしている。Grokは「Xプレミアムプラス」加入者向けに近日リリースする予定だ。
Xは2023年10月27日(現地時間)、月額16ドル(日本では月額1960円)で「Xプレミアム」のハイエンドプランとして、全機能を利用できてタイムラインの広告が表示されなくなるプレミアムプラスを発表した。ここでまもなくGrokにアクセスできるようになる。以下は現時点でのイメージだ。
さて、Grokの何が特別で、例えばChatGPTや他のAIチャット体験とどう差別化されているのだろうか。Grokの主な特徴を、マスク氏自身の言葉を借りて言えば「反Woke」(※)であり、潜在的にデリケートな話題への検閲が少ないことだ。
※編注:「Woke」は「目覚め」を意味する俗語。差別や人権問題などに意識が高いリベラル派を揶揄(やゆ)する意図で使われる。
マスク氏は、ChatGPTが特定のトピックに関する特定の回答を検閲していると思われることに強い批判を表明し、彼自身の定義と経験において、「真実」をよりよく表現するために独自のAIプロジェクトを立ち上げた。
Grokは特にリアルタイムのニューストピックについて、より正確な真実の情報源になるとマスク氏は信じている(外部リンク/英語)。なぜなら、Xからデータを調達しているからであり、Xの新しいユーザー規約によって、人々の投稿をシステムに利用することが可能になったからだ。
Xはまた、他の生成AIプロジェクト、特にマスクが個人的に不満を抱いているOpenAIをAPIから切り離そうとしている。その結果、GrokとXの他のAIプロジェクトは、Xの保有する情報にフルアクセスできる限られた存在となる。
これは、少なくとも理論上、幾つかの点で大きな利点となるはずだ。しかし同時に、Xは「主流」のニュース会社を弱体化させることを意図したさまざまなアップデートを行っており、その結果として、多くのジャーナリストが他のプラットフォームに移行している。
Xには2億4400万人のデイリーアクティブユーザーがいることになっているが(外部リンク/英語)、実際に何かを投稿するユーザーはさほど多くはない。xAIの技術者であるロス・ノルディーン氏のXへのポストによると、ユーザーの80%は「ROM専」モード(外部リンク/英語)であり、投稿もしなければいいねやコメントも一切しない。これは、Xが公言する1日当たり1億件のユニーク投稿(外部リンク/英語)が、実際には4900万人弱によって生み出されていることを意味する。
つまり、Xの投稿者は、アクティブといっても、返信を含めなければ1日平均2回しか投稿していないことになる。あるいは、それよりももっと少ないかもしれない。Xは最近、ユーザーの42%がスポーツファンであると報告した(外部リンク/英語)が、これは毎日2億件の投稿と返信のかなりの部分がスポーツ関連であることを示唆している(そうでないならば、Xはこんな数字を堂々と出せないはずだ)。
全てのスポーツファンがスポーツに関する投稿ばかりしているわけではないものの多くの人はスポーツに関する投稿と仮定しよう。例えばXの1日の投稿の30%がスポーツ関連だとすると、スポーツ以外の話題については、1日当たり約7000万件しかオリジナルの投稿がないことになる。
これは、考えられていたよりもはるかに小さなボリュームであり、もはや世界的なトレンドや意見を示しているとは言い難い。また、最もアクティブなXユーザーはXプレミアムの購読者であり、投稿から収入を得ている人も少なくない。だとすると、この7000万件の偏った投稿は、COVID、イスラエル戦争、メディアの誤報、米国の政治など、分断を招きがちなさまざまなトピックに関して、マスク氏自身の意見と大きく一致している可能性も高い。
言い換えれば、マスク氏の"市民ジャーナリスト"軍団がXで好き勝手なことを共有するデータを基にしたGrokは、右寄りの誤報マシンになる可能性が高い。
コミュニティノートによる事実確認があるから問題ないと思うかもしれない。確かに、コミュニティノートは投稿で論争になっている幾つかの主張に関して有効に機能することが証明されている。だが、システムはすでに操作されている。また、各ノートは政治的傾向が反対の投稿者のコンセンサスを必要とするため、より分裂的なトピックの多くでは、関連するノートが表示されることはない。なぜなら、そのような合意は決して得られないからだ。
従って、特定の誤情報はコミュニティノートから事実上排除される。それはマスク氏の望むところなのかもしれないが、最新のニュースを共有することに重点を置いているQ&Aベースのサービスにとっては、必ずしも良い兆候ではない。
しかし、マスク氏は、Grokが「その反応にちょっとしたユーモアがある」だろうし、Xの投稿で鍛えられたから皮肉も言うだろうと述べている。だから、たとえそれが攻撃的で有害かつ中傷的で危険なものであったとしても、楽しいものになるはずだというのだ。
マスク氏は、メディアや政府のうそから逃れて真実を広める手助けをする方程式を自分が持っていると確信している。そして、それがやがて世界の現実の出来事を共有する市民のムーブメントに拍車をかけるだろうと。
さて、どうなることか。
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