楽天市場のこれから 三木谷 浩史氏が語る「物流へ2000億円投資」「送料無料ライン」「ZOZO追撃」他「Rakuten Optimism 2019」レポート(1/2 ページ)

楽天会長兼社長の三木谷 浩史氏が店舗と共に成長を目指す楽天市場の戦略を語った。

» 2019年08月06日 17時00分 公開
[織茂洋介ITmedia マーケティング]

 2019年7月31日から8月3日の4日間、楽天は同社として最大規模のイベント「Rakuten Optimism 2019」をパシフィコ横浜で開催した。

 本稿では8月1日、同イベント内で「楽天市場」出店店舗向けに開催された「楽天市場戦略共有会」における楽天会長兼社長の三木谷 浩史氏の講演内容を紹介する。

楽天会長兼社長の三木谷 浩史氏

楽天市場の成長が再加速へ

 1997年に創業した楽天は今日、流通、金融、コンテンツ、広告、そして通信キャリアなども加え、70以上のサービスを展開する。今回のイベントはオンラインとオフラインの両面で拡張し続ける同社のエコシステムの勢いを対外的に知らしめる場となった。映画ビジネスへの参入や世界のこんまり(KonMari)こと近藤 麻理恵さんのプロデュースを手掛けるKonMari Mediaとのパートナーシップ締結なども発表され、楽天のブランドはありとあらゆる分野へ浸透しつつあることを実感させた。

 拡大がやまない楽天だが、その原点となるのはやはり「楽天市場」だ。

 楽天市場に出店する店舗は現時点で4万7000を超えている。国内EC流通総額(楽天市場の他、楽天トラベルなどの数字も含む)は3兆4000億円。もちろん国内最大級だ。

 創業以来22年続く事業だが、楽天市場においてもサービスの在り方は少しずつ変化している。例えば商品画像登録ガイドラインの必須化による「クリーンイメージ」の推進、電子メールからパーソナライズメッセージへのシフトなど、伝統的に受け継がれてきた楽天のノウハウを、時代に合ったものに改めてきているのだ。また楽天市場のショッピングSNS「ROOM」を中心としたコミュニティーの活用も進んでいる。「(楽天市場の成長の)再加速が始まっている」と三木谷氏は語る。

「ワンデリバリー」構想の進捗

 楽天市場のさらなる成長に向けた取り組みの1つが、2018年に打ち出した「ワンデリバリー」構想だ。これは楽天市場の出店店舗を対象に、商品の保管から配送までの包括的な物流サービスを提供するものだ。

 楽天市場はもともと従来の通信販売の代替手段として生まれた。しかし今日では、ECは主要な販売チャネルの一つとなりつつあり、オンラインとオフラインの垣根を越えたオムニチャネルの取り組みも盛んになっている。

 ECがメインストリームになってくることで課題となるのが物流だ。「物流プラットフォームを変えなければ将来の成長はない。楽天市場の物流プラットフォームがなければ店舗さんの発展もない」という考えから、楽天では物流を根底から支えることを決意し、この領域に2000億円を超える投資を行うことを宣言している。

 具体的には総合物流サービス「楽天スーパーロジスティクス」や配送サービス「Rakuten EXPRESS」などを既に開始している。

 楽天スーパーロジスティクスにおいては千葉県流山市、兵庫県川西市、尼崎市および大阪府枚方市に物流センターを設けている。これらの施設は順調に稼働率を上げており、2020年中頃には満床となることが想定されることから、この時期に新たに千葉県習志野市と神奈川県大和市に大規模な物流センターを開設する。

神奈川県大和市に新設予定のRakuten Fulfillment Center Chuorinkan(イメージ)

 Rakuten EXPRESSにおいては、翌日配送サービス「あす楽」や深夜の不在再配達、置き場所指定配達(置き配)など、ニーズをとらえたユニークなサービスを提供している。特に置き配を選択する人は急激に増えている。三木谷氏によれば「ほぼ事故率はゼロ」で、楽天としては「将来的には置き配をデフォルトにしていきたい」意向だ。

 また、Rakuten EXPRESSはこれまで楽天スーパーロジスティクス利用店舗のみ利用可能だったが、自社の倉庫を使いたいという店舗に向けた集荷サービスも開始している。今後も配送エリアを拡大して人口カバー率を60%まで高め、2021年末までに楽天市場における物流の50%は楽天が担う方針だ。「楽天が物流を担うことで店舗は運営に集中でき、ユーザーは安心に買い物ができる」と三木谷氏は語る。

楽天市場における物流の50%は楽天に

送料無料ラインの設定

 楽天市場における顧客とは、楽天ID(発行数は1億超)を使って買い物をするユーザーと、楽天のドメイン下で物品を販売する店舗の双方を意味する。B2Cの側面を持つB2Bのビジネスモデルといっていい。ユーザーの満足度は店舗の売り上げに直結し、結果として楽天の収益につながる。逆にいうとユーザーに不満があれば店舗と共にそれを解決しなければならない。

 これまで、楽天ユーザーの中でこれまで特に不満が多かったのが、送料だ。「売値を見て安いと思ったが送料込みで計算すると高くなった」「店舗によって送料がことなり分かりにくい」などといった声は今なお根強い。それはユーザー調査の結果にも表れている。一方で理想とする送料体系について聞くと「○○円以上で送料無料」という送料無料ラインの設定を支持する声が大きい。

送料に対する不満は大きな課題だった

 そこで今回、楽天市場の各店舗においてユーザーが一度に3980円(税込)以上の買い物をした場合には送料を原則無料にすると決めた(店舗の判断で3980円を下回る送料無料ラインを設定する場合もあり。また、冷蔵・冷凍品などのクール便や家具など大型宅配便で配送される商品は対象外)。この共通送料無料ラインの対象となる配送地域は日本全域で2020年の年初をめどに導入予定だ。

 送料無料ラインを試験的に実施した店舗では、実施していない店舗に比べ購買金額が15%増えており、店舗当たりの新規顧客数も14%増えたそうだ。

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