マーケティング中心の経営を実践するB2B企業を訪ね、そのチャレンジについて聞くこの連載。最終回は気鋭のマーケターを追って、タイに渡って話を聞いた。
今回は、B2Bのマニュアル作成・共有プラットフォーム「Teachme Biz」を提供するスタディストの執行役員グローバル事業部部長の豆田裕亮氏をご紹介したい。豆田氏は、創業間もない時期のスタディストに参画し、未経験の状態からマーケティングを担当してきた。そこからビジネスを軌道に乗せるまでのチャレンジとはどのようなものであったか。
Teachme Bizはクラウド型のマニュアル作成ツールだ。その開発を担ったメンバーの全員が製造業向けの業務改善を主とするコンサルタント出身で、プログラム未経験者だったと聞いたら、誰もが驚くのではないだろうか。
開発元であるスタディストは、代表の鈴木悟史氏と取締役の庄司 啓太郎氏が2010年に立ち上げ、2期目に入るタイミングで豆田氏を含む4人が合流している。
6人の創業メンバーはそれぞれ、企業のコンサルティング業務を日々行う中で、「Microsoft Power Point」や「Microsoft Excel」が得意でない現場の人たちでも簡単に使えてマニュアルの作成・共有ができるプラットフォームが欲しいと考えていた。折しも、スマートフォンが普及し始め、高画質の写真や動画を誰でも簡単に撮影できるようになっており、その思いはますます強くなっていた。
「僕自身、Power Pointで1000〜2000枚の操作手順書を作っていましたが、マニュアルを作るのってすごくつらいし、PDFで納品したところで、後から誰も見ない。誰も更新しないし、紙を無駄にしているだけではないかと思っていたのです」(豆田氏)
2011年からTeachme Bizの開発を始め、リリースできたのは2013年9月。6人とも日中はコンサルティング業務を続けながら、代表の鈴木氏と豆田氏を除く、プログラミング未経験者の4人で開発を進めた。
「これがコンサルタントのダメなところで、自分たちでやろうという気が強過ぎるんですよね。何でコンサルタントがコンサルティングされなきゃいけないんだと……。誰にも頼まずに自分たちで開発していたのですが、結局、らちが明かなくなって、前職の会社のエンジニアの方にお願いして、開発のイロハを教えてもらいながら、どうにか完成させました」と豆田氏は振り返る。
Teachme Bizの開発が進む傍ら、豆田氏はマーケティングの練習を始めることにした。豆田氏にとってはマーケティングの仕事も未経験であったし、そもそもマーケティングの意味さえも分かっていなかったという。
当初の計画ではB2C版の「Teachme」とB2B版の「Teachme Biz」を並行して販売することで、B2C版に慣れた利用者にB2B版へ移行してもらおうと考えていた。そこで手始めに「Teachme Biz」の写真加工のモジュールを切り出したB2C向けアプリ「Markee」を作り、それをどうすれば普及させられるか、マーケティングにトライしてみることになった。
当時はニューヨーク大学准教授のアダム・ペネンバーグの著書『バイラル・ループ あっという間の急成長にはワケがある』(講談社)が話題になっていた。「バイラル・ループ」とは、モノやサービスが人の口コミや紹介を通じて、ウイルスのように広がっていく現象を指す。この考え方に影響を受け、豆田氏はいろいろなところに顔を出してはブロガーとのつながりを作り、Markeeのβ版を渡してブログで紹介してもらい、Twitterも含めた口コミマーケティングにも挑戦した。
「他にも、Teachmeを使って、ユーザーからネイルアートの手順を募ったり、手作り弁当の作り方コンテストを実施したりしたのですが、あまりうまくいきませんでした。ネイルアート企画では、北海道から沖縄まで、ネイルサロン数百社に手作業でメールを送っていたので、その頃の私のブラウザに表示されるディスプレイ広告は、女性下着ばかりになっていて……今、思えば、かなり迷走していましたね(笑)」(豆田氏)
プレスリリースをメディアに向けてメールで送ってみても、一向に掲載される気配はないし、プレスリリースの一括配信ツールを使って見ても、やはりどこにも取り上げてもらうことはできなかった。
そんな中で豆田氏は、事業が急成長していたSansanのエバンジェリスト日比谷 尚武氏に出会う。豆田氏はSansanの名刺管理アプリ「Eight」を利用していたのだが、名刺を取り込むためのスキャナー連携に関するマニュアルが、非常に見にくいと感じていた。そこで、Teachmeで作成し直したマニュアルをTwitterで展開したところ、誰かが引用RTをしてくれた。それが日比谷氏の目に留まったのだという。
「もともと日比谷さんとつながりたいと思っていたので、シメシメと(笑)。そのタイミングで共通の友人に会食をセッティングしてもらい、念願かなってお会いすることができました」(豆田氏)
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