中国向け越境ECプラットフォーム「豌豆(ワンドウ)プラットフォーム」を運営するインアゴーラは2016年11月29日、資金調達および大型業務提携に伴う新戦略発表会を実施した。
中国向け越境ECアプリ「豌豆公主(ワンドウ)」および越境ECプラットフォーム「豌豆(ワンドウ)プラットフォーム」を運営するInagora(以下、インアゴーラ)は2016年11月29日、東京・六本木のグランドハイアット東京において新戦略発表会を実施。中国最大のインターネットサービス企業であるAlibaba Groupが運営する「淘宝全球購(タオバオグローバル)」との提携および、World Innovation Lab(以下、WiL)などを引き受け先とする3回目の資金調達(シリーズCラウンド)を行ったと発表した。
インアゴーラはキングソフト代表取締役の翁 永飆(おう・えいひょう)氏と、美容家でありMNC New York代表 山本未奈子が2014年12月に設立。中国で豌豆公主を展開し、日本の商品を販売してきた。豌豆公主はブランド価値の訴求に注力し、日本製商品の魅力を中国語で詳細に伝えるコンテンツに定評がある。
また、バックエンドで豌豆プラットフォームを構築し、日本企業に対して初期費用・固定費ゼロで中国ユーザー向けに商品情報の翻訳や物流、決済、マーケティング、顧客対応などの作業を代行し、中国市場進出を支援してきた。これにより日本企業は、インアゴーラの日本国内倉庫に商品を配送するだけで中国市場への進出が可能になっている。
今回、中国のC2C(個人間)オンラインショッピング市場において約80%のシェアを占める淘宝全球購と提携した背景について、翁氏は中国におけるインターネット利用習慣の急速な変化を挙げる。
近年、中国ではSNS「微博(Weibo)」やメッセージングアプリ「微信(WeChat)」などで人気のアカウントを運営する人々の影響力が増している。「KOL(Key Opinion Leader)」と呼ばれる彼らの中には、数千万ものフォロワーを抱える人もいる。こうした有力アカウントがマネタイズの手段としてECにこぞって参入し、2016はKOLエコノミーの年とも呼ばれている。
彼らが個人ショップを運営するための大きな受け皿となっているのが「淘宝(タオバオ)」だ。中国では同じAlibaba GroupがB2C向けショッピングモール「天猫(T-mall)」を運営しているが、C2Cの淘宝はその4倍に当たる約4億人の月間アクティブユーザーを抱えており、2015年の流通総額は1兆8090億元(約35兆円)を記録。年対比約20%成長を遂げている。淘宝全球購はその越境EC部門に当たる。
高い成長を遂げる一方、淘宝全球購にはC2Cモデルならではの課題もあった。具体的には、正規の日本商品を仕入れるルートやノウハウがないこと、ブランド価値を保ちつつ販売することのハードルが高く偽造品が出回っていることなどだ。
今回の提携により、淘宝全球購にある約10万の個人ショップは、インアゴーラがシステムに登録した日本企業の商品リストから販売したい商品をピックアップし、その承認を得るだけで販売することが可能になる。また、中国における在庫・物流システムと連動し、保税区の倉庫から商品を直送するシステムを採用することで、在庫リスクや仕入れ資金の心配をすることなく商品を販売することができるという。さらに、商品紹介など豌豆公主のコンテンツをそのまま淘宝全球購のショップ上で自由に利用することができ、豌豆公主と淘宝全球購の2つのプラットフォームのチェックを経ることで、100%の正規品を提供する。また、価格についてもショップが設定可能な範囲があり、値崩れもない。
これにより日本企業もブランドイメージを損ねることなく、これまでリーチできなかった層へのアプローチが可能になり、10万の個人ショップを経由して4億人の中国人ユーザーにリーチ可能になった。また今回、新たな提携先として子ども服の「ミキハウス ホットビスケッツ」や高級菓子の「資生堂パーラー」、女性用下着の「トリンプ」、アパレルの「MARK STYLER」などのブランドを紹介している。
インアゴーラの新戦略について翁氏は「越境EC2.0」というキーワードで語る。日本で商品を集めて中国に在庫を持って販売する従来の越境ECのやり方と異なり、出店する日本企業や販売提携先の中国企業の在庫管理システムなどと豌豆プラットフォームを連携することで、新規市場を開拓したい日本企業と質の高い商材を求める個人ショップ、日本製の良質な商品でライフスタイルを充実したい中国のユーザーそれぞれのニーズを満たすことを目指す。
越境EC2.0戦略とともに発表されたのが3回目の資金調達だ。インアゴーラは今回、World Innovation Lab(WiL)などを引受先として第三者割当増資を実施し、2100万ドル(約23億円)を調達した。
同社は既に2016年の2月と6月に、中国大手投資会社を中心として2度の資金調達をしており、これでわずか10カ月の間に合計4100万ドル(約47億円)の調達を実現したことになる。特に今回は、日本の大手企業20社以上が共同出資する約300億円超の国内最大級のファンドであるWiLの出資を受けることで、日中での事業基盤を強化した形だ。
今回の資金調達の目的として翁氏は「まずは日本のメーカーの出店を強化ためコンサルティングやコンテンツ制作を強化し、中国でのマーケティング強化、そして、事業開発の体制とシステム開発の強化に充てる。そのための人員を増強したい」と述べている。
また、WiLの共同創業者である松本真尚氏は出資の経緯について「日本ではすぐに上場してしまうベンチャーが多い中、これだけの資金調達をしても日中の懸け橋となるという高い志にほれた。越境ECはメガマーケットだが、日本企業と中国の市場どちらともリレーションがなければできない。ユニコーン(※)と呼ばれる企業は日本では現在メルカリ1社だけといわれる。ぜひ2社目を目指してほしい」とエールを送った。
※未上場でも評価額が10億ドル(1000億円)以上の企業
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