Facebookが提案する次世代のブランド構築フレームワーク“つながる世界”のブランド構築

ソーシャルメディアは企業のブランド構築プロセスを革新する。牽引役の1社である米Facebookの狙いとは? マーケティング担当者向けイベント「Facebook Marketing Conference」(fMC)から同社の戦略を読み解く。

» 2012年03月22日 11時00分 公開
[谷古宇浩司,ITmedia]

The Connected Worldとピンボール・エフェクト

 米Facebookが2月に発表した「Building Brands For The Connected World」というレポートのユニークさは、メディア自身が広告事業のフレームワーク変革に強くコミットしている点にあります。タイトルにあるThe Connected Worldは広告事業における既存概念の崩壊を意味しているように感じられますし、一企業としてのFacebookの事業戦略を広告業界全体の枠組み変革に繋げたいという野心も感じられます。

 The Connected Worldとは、ソーシャルメディアを介して人々がつながっているという世界観を表現しています。ポイントはソーシャルメディアです。このレポートにおいては、ソーシャルメディアが存在しなければ、The Connected Worldは存在しないという風にも読めます。

 では、FacebookはThe Connected Worldをどのような世界と定義付けているのでしょうか。Facebookの意図を把握するには、The Connected Worldと対になる世界観を理解することが早道です。(The Connected Worldと対になる概念として)このレポートではThe Analog Worldという世界観が提示されています。ブランドが構築されるプロセスにおいて、The Analog Worldに生きる消費者は、ある企業のブランド・メッセージに接することで購買意欲を喚起され、検討した上で実際に購入し、使用満足度が高まればそのブランドに特別な好意を持つことになります。

fig01 「Building Brands For The Connected World」より。ブランド構築のプロセスは、The Analog WorldからThe Connected Worldへ。

 The Analog Worldのブランド構築プロセスはわたしたちに馴染み深いもので、現在でもそれなりに機能していることは確かなのですが、“それだけではない”というのが、広告を巡る現在の状況を複雑にしています。消費者が接する情報量と接点の爆発的な増大は、「気づき」というブランドロイヤリティ醸成におけるスタートポイントのインパクトを弱めてしまいました。どこが(あるいは何が)ブランド構築の入り口なのか、にわかには定め難くなってきたのです。

 それゆえFacebookは、従来の広告を巡る世界を、(消費者が)「学習」「調査」「購入」「相互作用」という行為を繰り返す世界として書き換えたのでした。この世界がThe Connected Worldと呼ばれるもので、消費者はソーシャルメディアで緩やかに接続されているがゆえに、「学習」「調査」「購入」「相互作用」を繰り返し得るのだと考えられています。国際的な飲料メーカーDiageoのCMO アンディ・フェネル(Andy Fennel)氏は、このようなブランドロイヤリティの醸成過程を「ピンボール・エフェクト」と表現しています。ブランド・メッセージがピンボールのように、さまざまな人を介しながら少しづつ育っていくというイメージです。

Facebookページ、タイムライン化の意図

 2月29日(現地時間)にニューヨークで開催された「Facebook Marketing Conference」(fMC)と3月16日に東京で開かれた「fMC Tokyo」でFacebookが強調したのは、ストーリーを軸としたブランドコミュニケーションが、消費者間のつながりによって拡散するというメッセージでした。このメッセージをレポートの形で解説したのが「Building Brands For The Connected World」なのです。

 両イベントでは、「リーチジェネレーター」「Facebookプレミアム」などの新しい広告メニューやFacebookページのタイムライン化といったトピックが発表されました。それぞれの機能についてはすでに多くのWebマーケティング専門ブログで紹介されていますので詳細は省きますが、いずれも広告プラットフォームとしてのFacebookの価値を高める戦略に沿ったものと考えてよいでしょう。

 例えば、Facebookページのファン75%に1日1回の記事配信を保証する「リーチジェネレーター」は、Facebookにおける、企業から消費者へのリーチ率の低さを劇的に向上させる改善メニューとして注目されています。また、「Facebookプレミアム」は、広告スペースをニュースフィードやモバイルといった新たなチャネルに拡大する広告メニューです。同社によると、広告がニュースフィードに掲載されることで、CTRは5〜10倍に増大します。これらの新しい広告メニューは、ブランドメッセージをより多くの消費者に到達させるための機能改善と位置づけられています。そして、ブランドメッセージに独自のストーリーを持たせ、消費者の共感を増幅させる働きかけがFacebookページのタイムライン化ということになるでしょう。

 Facebookページのタイムライン化は、Facebookによるブランド構築のためのフレームワークの提案として捉えることができます。従来の「ウォール」デザインのFacebookページはキャンペーンのランディングページとして機能していましたが、Facebook経営陣にとってFacebookページは、長期的な視野に沿って構想されたブランディング戦略の中心拠点であるべき、なのかもしれません。カバー画像でキャンペーン告知を意図したテキストの表示を排除したり、投稿内容(コンテンツ)に歴史性を明示させる枠組みがそのことを示唆しています。このような枠組みを嵌(は)めることで、同社はソーシャルメディアが強力な影響力を持ち始めた時代の企業ブランディングの新しい方法論を提案しているのだと考えられます。

 現在、Facebookは全世界で8億人超のユーザーを有しており、1日あたりの利用者数は5億人を超えています。一企業が有する「ブランドコミュニケーションメディア」としてはまさに怪物的な存在といえます。そんな破格なメディアだからこそ、一メディア企業の戦略が広告業界全体のビジネスに無視できない影響力を行使できるのだと考えられます。果たして、彼らの戦略は広告業界の未来を予言するものとなるのでしょうか。興味は尽きません。

谷古宇浩司

アイティメディア ITインダストリー事業部 事業開発部 チーフアーキテクト。コンピュータ・ニュース社(BCN) 報道部 記者を経て、2002年にアットマーク・アイティ入社。@IT自分戦略研究所編集長、アイティメディア エンタープライズ編集長を歴任後、現職。


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