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» 2017年08月14日 12時00分 UPDATE

気鋭のマーケティング学者と「ネスカフェ アンバサダー」仕掛け人が語る:「マーケティング4.0」とは結局どういうことなのか? (1/2)

「マーケティング4.0」とは何か。本稿では、首都大学東京大学院准教授の水越康介氏とネスレ日本の津田匡保氏の講演から、その概念と実践について探る。【更新】

[下玉利尚明,タンクフル]

 2017年7月5日、東京ビッグサイトにおいて販促とマーケティングの総合展示会「第9回 販促ワールド 夏」が開催された。本稿ではそこで行われた専門セミナー「マーケティング4.0〜新時代のマーケティングとは〜」の内容をレポートする。同セミナーの前半では、首都大学東京大学院准教授の水越康介氏が「マーケティング4.0時代に向けて」と題して「マーケティング4.0」の概念についてその歴史的背景を踏まえて解説し、後半ではネスレ日本ダイレクト&デジタル推進事業部部長の津田匡保氏が「ネスカフェ アンバサダー プログラムの考案から実行」について語った。両氏の話から、企業がこれからのマーケティングで目指すべき大きな方向性をつかんでほしい。


「社会のために」をデジタルで

水越康介氏

 マーケティング4.0とは、マーケティング学界の泰斗であるノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院教授のフィリップ・コトラー氏が2016年に著書『Marketing 4.0: Moving from Traditional to Digital』(邦訳『コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則』は2017年8月21日、朝日新聞出版より発売)で提唱している概念だ。

 冒頭、水越氏はマーケティング4.0に至るまでの歩みを以下のように整理した。

 「マーケティング1.0」の課題は販促すること、つまり「作ったものをどうやって売るか」であった。それが、「消費者志向」の高まりで、売れるもの、必要とされるものをどうやって作るかが重視されるようになった。これが「マーケティング2.0」への変化だ。

 マーケティング2.0では、他社よりも良いもの、顧客に欲しがられるものを作ろうという「差別化」こそが戦略になった。しかし、そもそも顧客とは何か。コトラー氏は。顧客とは単に目の前の消費者だけではなく「マインドとハートと精神を持つ全人的存在」であり、マーケティング3.0では、その全人的存在である顧客に対してアプローチしなければならないと説いた。

 コトラー氏が2010年に上梓した『コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則』(朝日新聞出版)によると、そのコンセプトは「価値主導」ということになる。消費者志向に変わりはないが、機能的な充足にとどまらず精神の充足をも目指す、人間中心のマーケティングだ。そうでなければ顧客、そして社会の期待には応えられないというのだ。

 とはいえ、社会の期待に応えるといっても、具体的に何をすればいいのかとなると、なかなか難しい。『マーケティング4.0』は、現場のマーケターからのそうした疑問の声に答えるために書かれた。

 マーケティング4.0で大切になるのは「顧客の自己実現を支援したり、促進したりするような商品やサービスを開発すること」だという。マーケティング4.0はマーケティング3.0を完全に上書きしてしまうものではない。むしろ3.0を補完し、自然に広めていくためのものといえる。ただ、そこであらためて強調されているのが「伝統からデジタルへ」というスローガンだ。新著の中でコトラー氏は「ニューウエーブの技術」という言葉を繰り返している。つまり、インターネットやソーシャルメディアのことだ。コトラー氏が2010年の頃に想像していた以上に『デジタル』はマーケティングの中で無視できない存在になった。ソーシャルメディアには自己実現したい人々がたくさんいる。ここで求められるのは「驚きや感動の体験」だ。

【更新:2017年8月15日10時10分 『Marketing 4.0: Moving from Traditional to Digital』の邦訳について情報を追記しました】

「Wow!」を作り出すということ

 水越氏はマーケティング4.0の世界で考え直すべき事柄を4つにまとめる。1つ目は、マーケティング3.0同様に社会のため、価値主導を推し進めるということ。2つ目はデジタルエコノミーに焦点を当てること。3つ目はデジタルエコノミーが作り出す「コネクテッドカスタマー」と呼ぶべき顧客像を持つこと。そして4つ目は、単に良い製品や良いサービスだけでなく「Wow!」、つまり驚きの体験、感動を与える何かを作り出し、提案していくことだ。

 Wow!の事例としてコトラー氏は、起業家のジャ・ジャン氏による「リジェクションセラピー」の中で起こったエピソードを紹介している。リジェクションセラピーは「拒否されることに対する耐性」を身に付けることを目的に見知らぬ人にわざと断られるようなお願いを100日間続けるというものだ。活動の模様は「YouTube」で公開され、人気コンテンツになっている。

 ジャン氏はその中で、クリスピー・クリーム・ドーナツのある店舗において「オリンピックのシンボルマーク状のドーナツを特別に作って売ってほしい」と注文した。もちろん断られることが前提なのだが、販売員の機転によって意外にもそれが実現してしまった。ジャン氏は驚き、感動した。この体験はソーシャルメディアを通じて多くの人の共感を呼び、またたく間に話題となった。このエピソードをきっかけにジャン氏は「TED」への登壇も果たしている。

日本はまだ「マーケティング2.0」にとどまっている?

 残念ながら日本においては現状、マーケティング4.0まで至っている企業は少ない。「企業が『社会のために』というと、何か裏があるように勘繰られてしまう。マーケティング3.0さえ難しく、2.0を信奉しているのが現実だ。状況を少しずつ変えていく必要がある。社会のため、価値主導のマーケティングに変えていくことは結果的に顧客の利益にもなり、企業の発展にもつながっていく」と水越氏は述べる。

 社会をより良くしていこうという考えに基づいてマーケティングを成功させている事例として、水越氏は米国の総合医療サービス「CareMore Health Plan(以下、CareMore)」の例を挙げた。CareMoreでは体調などを理由に予約の時間に来院できない患者のために、行政機関に掛け合って患者のタクシー代を一部負担してもらっている。予定通りの診察が行われないことで患者の健康が悪化すれば、1つの医療機関の問題というよりも、巡り巡って社会的なコストが増大することになる。行政の協力を得て、安定的に受診できる環境を整えることで、そうしたリスクを低減しようというわけだ。もちろん、社会のためになるこの価値主導の取り組みが、顧客(患者)の利益にもなることは言うまでもない。

 もう1つ、デジタルエコノミーが生むコネクテッドカスタマーを考える上で水越氏が注目するのが「Uber」や「Airbnb」のようなシェアリングエコノミーだ。例えば米国やカナダで人気のカーシェアリングサービス「Zipcar」の利用者はエコロジー意識の高い人が多く、利用者同士で強い連帯意識を持っているという。コミュニティー活動も活発で、企業もそうした高い志に応えるべく、きめ細かくサービスを提供している。

 また、「Kickstarter」のようなクラウドファンディングプラットフォームやそれを利用したサービスも、ユーザーと企業が新しい価値を共創していく手段となり得るという。

 マーケティング3.0から4.0への変化のポイントはデジタル化だが、この流れは今後さらなる広がる可能性がある。一方で日本においては、マーケティング4.0以前にまず、マーケティング2.0から3.0へという、より本質的な変化を意識する必要があるようだ。水越氏は「『企業メセナで社会にもちょっと良いことをしている』という話ではなく、ビジネスそのものが社会にどう関わっていくのか考えることが重要。そして実際の活動の中で『Wow!』を作り出していくこと」と、日本企業が今後取り組むべきテーマを示唆して、講演を終えた。

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