マーケティング部門とIT部門の断絶が顧客体験の創造を阻む――マルケト 福田康隆氏が語る「Gartner Symposium/ITxpo 2016」レポート(1/2 ページ)

2016年10月5〜7日に開催された「Gartner Symposium/ITxpo 2016」から、マルケト代表取締役社長 福田康隆氏の講演「CIO、CEO、CMOの連携によるデジタルマーケティング戦略」の概要をレポートする。

» 2016年10月14日 07時00分 公開
[やまもとはるみITmedia マーケティング]
マルケト代表取締役社長 福田康隆氏

 データやテクノロジーを駆使した「デジタルマーケティング」へのシフトが必須であることは、多くの企業で認識されていることであろう。

 その一方で、デジタルマーケィングを効果的に運用するに当たって「マーケティング部門とIT部門がいかに連携するか」「IT部門はマーケティング部門にどう関わるか」といった悩みも聞こえてくる。日本企業が構造的に抱える「縦割り組織」の弊害をどう乗り越えるかというテーマが、マーケティングのデジタル化をトリガーにして、新たに浮かび上がってきているといってもいい。そして、それは今度こそ待ったなしだ。

 部門間の壁を超え、デジタルマーケティングを経営に生かしていくためには、CIO、CEO、CMOの協調が欠かせない。利害を乗り越え、自社のビジネスを加速させるために3者はどう取り組むべきか。マーケティングオートメーションベンダーのマルケト代表取締役社長 福田康隆氏による講演からヒントを探ってみたい。

組織を超えた変革が必要な時代

 冒頭、福田氏は現在を変革の時代と位置付け、マーケティングの領域で顧客に起きている変化について3つの観点から分析した。

 1つ目は、「溢れるメッセージ」。顧客の日々の生活はマーケティングメッセージに満ちているが、ほとんどは記憶に残らない。すなわち企業にとっては、顧客に届けたいメッセージが届かない時代になっている。

 2つ目が「高い情報リテラシー」。顧客の購買行動のほとんどは自らの情報収集で完結しているともいわれる。オンラインで十分な情報を得て既に意思を固めた顧客を広告で翻意させるのは容易なことではない。

 3つ目が「高まる期待値」。ある調査によると、64%の人は「価格よりも顧客体験の方が大切である」と回答しており、その体験はかつてのような店舗での対人コミュニケーションではなく、その前段階での体験となる。この顧客体験の設計において、日本の多くの企業は後れを取っており、高まる顧客の期待値を上回るために、企業は日々進化していかねばならない。

 「そのためには組織を超えた変革が必要。デジタルトランスフォーメーションにおいてはCIO、CEO、CMOが協調して動くことが大切であり、3者の協力体制が最も重要」と福田氏は述べる。

従来の企業組織は「顧客体験の創造」を念頭に設計されてはいない

 3者が連携してデジタルマーケティングにおける顧客体験を成功に導くためのポイントは何だろうか。福田氏は「戦略」「組織と人材」「テクノロジー」の3つの視点から語った。

戦略

 一方通行のマーケティング施策からデジタルを活用した対話型のマーケティング施策へ。顧客とのワンツーワンのコミュニケーションが求められる。そしてそれを実現するテクノロジーは既に生まれている。一律に同じ内容を大勢に送り付けるマスメールやマス広告よりも顧客の行動に基づいたトリガーメールやターゲティング広告を、コールドコールよりもソーシャルセリングを、誰がいつ見ても内容が変わらない静的なWebサイトよりもWebパーソナライズを活用していくべきである。

 そして、顧客のライフサイクル全体を見据えることが重要だ。マーケティング部門においても従来のように新規顧客獲得ばかりではなく、顧客体験を創造し、LTV(顧客生涯価値)を高めることを意識する必要がある。

組織と人材

 しかし、従来の組織体系は機能別に分かれており、顧客体験の創造を念頭に設計されてはいない。顧客の行動がクロスチャネル化しているのに対し、企業のマーケティング(プロモーション)活動はテレビや印刷物、Web、イベントなどチャネル単位に分断されている。サイロ化した組織はそれぞれ顧客のライフサイクルを部分的にしか担うことができず、一貫した顧客体験を作り出すことを困難にしている。こうした課題を解決するためには、従来の機能別組織編成を見直し、クロスファンクショナルチームや集中組織を作り、共通の指標を持ちながら一体となって動くことが効果的である。

テクノロジー

 テクノロジーやデータを活用した「データドリブンマーケティング」が顧客体験の成功においては必須である。その中で、CMO(マーケティング部門)が最も重視すべきなのが、CIO(IT部門)のサポートだ。2部門が協調して、テクノロジーの利活用に関する意思決定を下さなければならない。

 ここで難しいのが、マーケティングテクノロジーの選定である。世界的にデジタルマーケティングは成長分野であり、ここ数年、マーケティングテクノロジーのツールベンダーは増加の一途にある。2011年には150社程度だったのが、2016年は3800社近くがマーケティング業界に集結しているともいわれている。進化の早いこの分野で、自社に最適なソリューションを見つけるのにマーケティング部門、IT部門どちらか一方だけで判断するのは困難だ。

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