連載
» 2016年06月26日 07時00分 UPDATE

【連載】キーワードで読む「IoT時代のエクスペリエンス・デザイン」 第1回:エクスペリエンスは「場」から「時間」へ――エクスペリエンス×IoTのメカニズム (1/2)

顧客の過去・現在・未来のエクスペリエンスは「データ」を媒介にして1本の「時間」の軸で長くつながって行く。全ての産業がサービス業化する時代のマーケティングとはどうあるべきなのか。

[朝岡崇史,電通]

『IoT時代のエクスペリエンス・デザイン』について

書影

 スターバックスの「The Third Place 」(オフィスでも家庭でもない第3の場所)やディズニーランドの「Where Your Dreams Come True 」(夢がかなう場所)に代表されるように、これまで、エクスペリエンスの提供は体験の「場」にフォーカスしてきました。しかし、いったんIoTが導入されると顧客の過去・現在・未来のエクスペリエンスは「データ」を媒介にして1本の「時間」の軸で長くつながって行きます。そして、このことは全てのインダストリー(産業)がカタチを変えて、サービス業になることを示唆します。顧客のエクスペリエンス、すなわちブランド体験価値が変わりゆく中、マーケターはどうするべきか。エクスペリエンスデザインの専門家と読み解いていきましょう。

※本稿は朝岡崇史著『IoT時代のエクスペリエンス・デザイン』(ファーストプレス)から一部の内容を抜粋・編集して転載しています。


IoTという破壊的イノベーションの衝撃

 2015年の家電見本市CES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)。毎年1月に米国ラスベガスで開催され、世界中のビジネスマンの耳目を集めるCESの歴史の中でもエポックメイキングな年だったように思う。なぜなら、イベントの開催を飾るパネルディスカッションで「Disruption」や「Disrupt」というショッキングなキーワードが米国の大企業のトップから繰り返し発せられたからである。

 「Disruption」という単語は一般の日本人にはなじみが薄いかもしれない。1997年にハーバード・ビジネス・スクール(HBS)教授のクレイトン・クリステンセンが著した『The Innovator's Dilemma』(日本語版は『イノベーションのジレンマ:技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』浜田俊平太監修、伊豆原弓訳)で紹介されている「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」のうち、「Disruption」は後者の「破壊的イノベーション」に相当する専門用語である。

 とりわけ、そのCESのパネルディスカッションの中でもシスコシステムズのCEO ジョン・チェンバースは以下のような趣旨の発言をして大きな注目を浴びた。

 「IoE(Internet of Everything:IoTのことをシスコシステムズではこう呼んでいる)によって全ての国、都市、企業、家、人……何もかもがコネクトされる。そして、全ての、どのような業種であろうと、ハイテク企業になる。それはテクノロジーによって全てのビジネスの変化のスピードがさらに増すことを意味している」

 「今後10年間でフォーチュン500企業のなかで生き残れる企業は40%程度にすぎない。テクノロジーによるDisruptは今そこに起きている現実であり、巨大企業であっても自らがDisrupter(破壊者)にならなければ生き残れない」

 クレイトン・クリステンセンが「イノベーションのジレンマ」を発表した1997年時点では、優れた特色を持つ商品を売る優良な大企業はお客さまの声を聞き過ぎるあまり「持続的イノベーション」を保ち続けることに集中してしまい、「破壊的イノベーション」を持つ新興企業の前に力を失う、という主張は説得力があった。「破壊的イノベーションを持つ新興企業」とは、具体的には、当時のグーグル、アマゾンや日本のユニクロ(ファーストリテイリング)を想起すると理解がしやすいだろう。

 しかしながら、2015年のCESにおけるジョン・チェンバースの主張はクレイトン・クリステンセンのそれとは明確に違う。現在起きている「破壊的イノベーション」には企業規模は全く関係がない。むしろ優良な大企業こそが生存競争を生き抜くために積極的に「Disrupter(破壊者)」になるべきだ。そしてそれを後押しする変化はIoTの進展であり、全ての企業はIoTで武装したハイテク企業へと変わらなくてはならない、と言っているのである。

 しかもそれはもはやモノとモノの戦いではない。エクスペリエンスとエクスペリエンスの戦いになる。既存のサービス業はもちろんのこと、全ての製造業は新しい形のサービス業へと形を変える。AIによるビッグデータ活用とアナリティクスにより、お客さまの近未来のエクスペリエンスの予測と改善提案が企業のサービスの根幹として提供され続けることになる。

 企業主語の視点では、確かに「Disruption」は従来の市場の競争ルールや業界の概念の否定という、恐ろしい「破壊的イノベーション」である。しかしながら、逆にお客さま視点で見た場合、それは、お客さまがかつて経験したことのない新たなエクスペリエンス創出のための「創造的イノベーション」とポジティブに捉えることもできるだろう。いずれにしても変化の激しいマーケットでは市場の競争ルールをその手にしたものだけが生き残るのだ。

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