ここで、筆者が以前、著書『小さな会社の広報大戦略』(日経BP 日本経済新聞出版)のなかで取材した企業の実際のKPI例を紹介します。
※以下の掲載内容は取材当時のもの、かつ簡潔にKPIがイメージできるように内容を簡略化しています。実際のKPIの詳細や設計の背景などは書籍をご確認ください。
目標は部門に関係なく「ムーンショット目標」(普通に行ったら5、6割しか達成できない困難な目標)であることが求められ、必ず定量的な目標にする
ある四半期の主な目標例
社外広報のKPIは、「広報活動の目的」(例:営業ターゲット層への認知獲得)から「大テーマ」(例:自社サービス活用の有益性)、「個別テーマ」(新たな情報インフラとしての認知獲得)を決めて、個別テーマに沿った取材がどれだけ獲得できたかを評価
(取材時点の)広報活動フェーズでは、広報活動の評価指標としてメディア露出の定量目標はなし。「パートナー企業との事例作り」や「サービスサイトのリニューアル」など期ごとに広報活動のゴールを決めている
広報部に期待されていることは、ステークホルダーにクラシコムの現在の姿を正しく理解してもらえるように情報発信をすること。それが実現できているかどうかを定期的に経営者と確認。
「こうすれば必ず人から信頼される」という方法がないのと同じで、広報活動はどこまでいってもアンコントローラブルです。また、身もふたもない言い方ですが、まだ無名の中小企業の新サービスが取材される可能性は限りなく低いです。認知獲得という目標が同じでも、広報活動のリソースや条件によって目標達成の難易度は大きく変わります。
KPI設計においては、広報活動がアンコントローラブルであること、そもそも取材獲得は難易度が高い(大手メディアが自社を取材する理由はあるのか?)ということを経営者に理解してもらうことも重要です。
上記の事例が物語るように、何を妥当とするのかは経営者ごとに判断が分かれます。もし社長が理解してくれないようなら、こうした実例を見せるのも手です。
最後に、広報兼務マーケターの方が気になるであろう、「じゃあ、短期的に商品売り上げに効く広報はできないの?」という疑問にもお答えします。
実際、中小企業、スタートアップ向けに広報支援を行う筆者の実感としても、多くの経営者が「できれば広報も売り上げに貢献してほしい」と考えています。広報、マーケティング活動の両面から売り上げを上げてほしいから兼務にするのでしょう。
会社員である以上は上司の(たとえ理不尽でも)要望に応える必要があるのはよく分かります。「中長期的な関係構築を」とお伝えしているなか矛盾して心苦しいですが、この対策としては以下の2通りが考えられます。
商品、サービスの内容にもよりますが、筆者の感覚上、広報活動が潜在顧客の購買意欲に短期的に影響を与えている部分はあると思います。例えば以下のような指標を確認することでそれが分かります。
メディアに掲載された日、プレスリリースの発表日、ブログ更新日などに以下のような指標を見ると影響度合いが確認できます。
実は、しつこく確認すれば、「新商品の記事を読んでお問い合わせしました」というお客さまがいます。これは広報担当者がかなり積極的に数値を確認したり、営業担当者に「受注理由」を聞いたりしないと分からないことですが、確認すると意外と出てきます。
もし広報活動がマーケティング活動の成果にもつながっている部分があるのであれば、要因分析をしてより効果的にマーケティングと広報を連携させる方法を考えることができるはずです。兼務だからこそやりやすい部分もあるでしょう。
ただそれでも、改めて「広報活動の本来の目的を見失わないで」とはお伝えしておきます。近視眼的な対応で広報自らが自社の「信頼の土台」を削ってしまっては何の意味もありません。
まつだ・じゅんこ リープフロッグ合同会社代表。早稲田大学卒業。求人広告のコピーライターを経て、2007年からワークスアプリケーションズ、博報堂グループのスパイスボックスで広報業務に従事。ゼロから広報部を立ち上げたスパイスボックスでは、初年度から400媒体以上の露出を実現、「広報活動によって1億円の売り上げに貢献した」として局長賞(社内アワード)を受賞。経営戦略室マネジャーを経て2019年3月に、BtoB企業向けに伴走型、人材育成型で広報部立ち上げ支援を行うリープフロッグ合同会社を設立。 「外から来る広報マネジャー」をコンセプトに多くの企業を支援。広報勉強会の主催や登壇、メディアでの寄稿、連載多数。著書「小さな会社の広報大戦略」(日経BP 日本経済新聞出版)
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