連載
» 2018年02月09日 08時00分 公開

【連載】HubSpotに学ぶ「働き方改革」 第3回:小さなWeb制作会社が大きな一歩を踏み出せたきっかけとは?――HubSpotのパートナー戦略について

HubSpotの成長は世界中に広がる販売代理店によっても支えられている。インバウンドマーケティングの哲学の下、企業の垣根を越えて協働が進む企業同士のエコシステムとは?

[田村 慶,24-7]

 中堅・中小企業向けのマーケティングオートメーション(MA)ツールであるHubSpotは、2018年1月現在、世界90カ国以上で3万4000社に導入されている。日本でもHubSpotを導入する企業が続々と増えている。

 なぜ、HubSpotはここまで急速な拡大ができたのか。今回は、HubSpotの成長を支える販売代理のパートナープログラムについて取り上げたい。

なぜ小さなWeb制作会社がHubSpotのパートナー企業になったのか

 筆者が代表を務める24-7は、2012年にHubSpotのパートナー企業になった。日本では2社目だった。

 当時の24-7はWeb制作を事業の柱としていたが、小さな会社であり知名度も低く、新規顧客を獲得するのに苦労していた。そうした中、ブログで自社の技術やマーケティングノウハウなどの情報を発信することで認知度を高め、顧客獲得につなげたいと考えていた。最新のマーケティング手法やWebサイトの実装方法をもっと知りたいと思い、海外の事情についてもリサーチを重ねていた。そして、あるときHubSpotに出合った。

 HubSpotが提唱するインバウンドマーケティングとは、前回も述べたように、「将来的に自社のお客さまとなるような人々に対して、課題克服や目標実現の助けとなるような有益な情報(コンテンツ)を発信することでその注目を集め、最終的に自社の製品やサービスの購入を後押ししようとするマーケティングのコンセプト」だ。これは、私が目指していたものと完全に一致する。そして、同社はそのインバウンドマーケティングを実現するためのプラットフォームとなるツールを提供しているという。早速24-7で導入することにした。

 コンテンツを配信してリードを獲得し、獲得したリードを育てて営業につなげる。コンテンツ作りなどの苦労はあるものの、コツコツと地道にやっていけば成果が出るというHubSpotの考え方が、性に合ったのだろう。想定以上にこの活動が功を奏し、24-7の事業は順調に成長した。

 自社での成功から、他の中小企業でもHubSpotを活用することができると考え、24-7はHubSpotとパートナー契約を結んだ。小さなWeb制作会社から新たな領域へ一歩踏み出す、大きな決断だった。

 パートナー企業になった2012年当初、日本ではほとんどHubSpotは知られていなかった。しかし、ほどなくインバウンドマーケティングの考え方が注目されるようになってきて、徐々に導入企業を増やし、現在に至っている。2017年には、24-7はアジア圏におけるHubSpotの最優秀パートナーに選ばれ、ボストンで開かれたイベント「INBOUND2017」で表彰されるという栄誉を得た。日本の小さな企業でもきちんと評価されるというのは、他の日本のパートナー企業にもポジティブな影響を与えたのではないだろうか。

新規導入よりも継続率が評価される

 この原稿の執筆時点(2018年2月)で、日本国内のパートナー企業はおよそ30社以上あると聞く。数年前はマーケティング会社やコンサルティング会社が多かったが、最近の傾向としては当社のようなWeb制作会社の参入が増えている。その背景には、HubSpotならではのパートナー評価制度がありそうだ。

 IT系サービスの場合、一般的に代理店の報酬は新規導入時の売り上げに応じることが多い。人によっては、パートナー制度や販売代理店制度と聞いて、新規導入や売り上げに課されるノルマのことをイメージするかもしれない。

 HubSpotの場合は、そうしたノルマは一切ない。販売目標を達成できなかったからといってすぐに認定を外されるようなこともない。これは、中小企業にとっては参入しやすい条件だ。

 パートナー企業経由でHubSpotが導入された場合は、導入後もパートナー企業が支援を行うことになる。この連載の第1、2回で強調したように、HubSpotは長期的な運用を前提としたツールである。そのため、パートナープログラムでも、新規を増やすよりも既存顧客の長期的な利用を推奨するような仕組みが設けられている。

 パートナー企業にWeb制作会社が増えているのは、グローバルで見ても同じ傾向のようだ。Web制作会社は導入だけでなく、その後のコンテンツの継続的な発信や、キャンペーンに応じたランディングページの制作などでも支援ができる。そういったことから、インバウンドマーケティングと相性がいいのだろう。

発信から成約までトータルな支援が求められる

 もちろん、パートナー企業には、顧客企業のコンテンツ発信だけでなく、獲得したリードを育成し、成約につなげるまでの“フルスタック"での支援が求められる。

 第2回でも紹介したように、HubSpotはMAツールとしてさまざまな機能が用意されているが、パートナー企業のダッシュボードでは、導入を支援した企業におけるHubSpotの活用状況がひと目で分かるようになっている。導入件数や売り上げのノルマはないが、導入企業の活用が少なければ、パートナー企業としての評価は下がってしまう。積極的に活用していない企業には、パートナー企業がサポートして活用を活性化しなくてはならない。売って終わりではなく、顧客に伴走し、成功を支援することで、初めてパートナー企業として評価されるのだ。これは、第1回で紹介したHubSpotのカルチャーにもつながる考え方といえる。

パートナー企業のダッシュボード例《クリックで拡大》

 MAツールに関して、多くの企業では導入したものの活用しきれていないという現実がある(関連記事:「『導入するも放置』が多数――マーケティングオートメーションを持て余す企業は何を間違えているのか 」)。いかにHubSpotが使いやすいツールといっても、さすがに初心者が誰の支援もなしに施策を回すのは難しい。まずは、コンテンツ制作、リード獲得、育成、成約までの一連の流れをパートナー企業と一緒に実践しながら、やり方を身に付けてもらうことが重要だ。導入はゴールではなく、スタートにすぎない。その後の運用を見越した資金計画、リソース配分が必要であることを最初に理解してもらう必要がある。

パートナー企業が顧客を獲得するために

 ところで、パートナー企業自身はどうやって顧客を獲得しているのかといえば、もちろんHubSpotを活用したインバウンドマーケティングによってだ。自社でインバウンドマーケティングを実践して顧客を獲得し、実績を得ることが、そのまま顧客を支援するためのノウハウとなっていく。

 そうは言っても、最初はなかなかうまくいかないかもしれない。そこで、HubSpotは有料でトレーニングメニューを用意している。このメニューでは、ターゲットとする顧客設定、リード獲得の手法などを、HubSpotがコンサルティングしてくれる。その他、リード獲得のためのeBook、ソーシャルメディアの活用方法のeBookなど、HubSpotには学習のための教材が多数用意されている。パートナー企業であれば、それらに無料でアクセスできる。

 なお、24-7を含むパートナー企業の多くが、パートナーになった後の社員教育が成功の鍵だと考えている。HubSpotでは認定資格を用意しており、その取得のための教育リソースも整っている。当社では、エンジニアでもデザイナーでも、新入社員はまず提供されている教材で徹底的に勉強し、四半期中に資格獲得を目指すことにしている。中小企業の常で、通常業務もやりながらの挑戦となるが、実務に加えて、体系的に整理された知識を学ぶことで、インバウンドマーケティングの考え方を身に付けてもらうことを重視している。

ユニークなパートナー支援制度

 HubSpotにおいて、パートナー企業は導入件数だけではなく、継続率や企業の活用状況などを鑑みて評価されると述べた。パートナー企業には「ティア(tier)」というランクが付与されており、ティアの高低によって、それぞれ特典が異なる。ティア未獲得でも基本的なサポートは受けられるが、上位に行くほど手厚いサポートや特典が受けられるようになっている。例えば、HubSpotとの月例ミーティングで販売計画や課題などについて相談できたり、パートナー企業としてのプロモーションを実施してもらえたり、新機能のβ版へいち早くアクセスできたりする。HubSpot公式ブログに寄稿する権利などの特典もある。

 現時点において日本では未対応だが、「成長支援ファンド」もユニークな特典だ。HubSpotが準備したファンドがパートナー企業に無利子で30万ドルまで融資してくれるもので、これを利用してパートナー企業はマーケティングやセールスの人材獲得などが可能になる。

 パートナー企業は、ティア以外にパートナー・オブ・ザ・イヤーというアワードでも評価される。リード獲得が多い、セールス機能の活用が活発など、さまざまなジャンルの賞が用意されており、他のパートナー企業の実績やノウハウを知る良い機会にもなっている。

パートナー企業同士のつながり

 HubSpotのパートナー企業は日本でも増えているが、同時に、HubSpot Japanのセールススタッフも直接営業活動をしている。企業ごとにある程度顧客ターゲットが決まっているとはいえ、リードがかぶることはあるだろう。そうした場合に、HubSpot Japanとパートナー企業が競合しないような仕組みとして、先にリードを獲得した側に営業権利があるように設定することができる。

 また、上位のティアに限られるが、パートナー企業のためのイベント「Partner Day」も開催されており、そこで世界各国のパートナー企業と情報交換や交流ができる。前述したパートナー・オブ・ザ・イヤーも、このイベントで表彰される。

 当社では、海外のパートナー企業との連携を今後進めていく予定だ。具体的には、ヨーロッパのパートナー企業が持つクライアントの日本支社の支援など、ローカル性を生かした協業を考えている。他にも共同のセミナーを開催するなど、パートナー企業同士の付き合いや取引も調整中だ。

 HubSpotでは、インバウンドマーケティングという考えを基にツール提供をしているので、異なる国のパートナー企業でも、同じ方向に向かって進むことができる。それによってグローバルな協業がやりやすいのも、大きなメリットだろう。

 次回は、筆者も登壇した「INBOUND2017」のイベントの様子について述べる。海外のパートナー企業の動きなどもより詳しく紹介していこう。

寄稿者紹介

田村 慶

たむら・けい 東海大学大学院、デジタルハリウッド札幌校卒業。2003年よりフリーランスでWeb制作事業を始め、2005年に24-7を札幌で創業。現在は東京を拠点にインバウンドマーケティング支援、Webサイト構築、コンテンツ制作事業を行っている。2012年に日本で2番目のHubSpotのパートナーとなり、2014年にゴールドパートナー、2015年にプラチナパートナー、2016年にはアジア初のダイヤモンドパートナーに昇格。


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