売り手の常識、実は買い手の非常識? オムニチャネルの「便利さ」と「うっとうしさ」について【連載】オムニチャネル時代のコミュニケーションの「ツボ」 第1回(1/2 ページ)

「いつでも接客」「どこでも接客」のオムニチャネル。しかし、過剰接触で「ウザい」と思われてはせっかくの取り組みも台無し。適切なコミュニケーションの実現に必要なこととは?

» 2016年06月03日 07時00分 公開
[鶴田 啓太郎デジミホ]

 かつて、モノやサービスの「売り手」と「買い手」を結ぶほぼ唯一の販売チャネルは「店舗」でした。それが小口宅配等の流通サービスの発達に伴って「通信販売」が生まれ、さらにその後のインターネットの急速な普及がECの台頭を促すなどし、「売り手」と「買い手」を結ぶ接点は多様化しつつあります。

 また、WiMAXやLTEなどの高速移動体通信技術の急速な進歩と、スマートフォン、タブレットなどの情報デバイスの多様化により、これまで、家やオフィスという「場」に縛られていたコミュニケーションは、固定的な「場」から解放され、今や私たちは、文字通り24時間365日、いつでもどこからでも必要な情報に接することができる時代を生きています。

 この販売チャネルの多様化と、その前提である情報アクセス手段、通信およびデバイスの多様化が、消費者のライフスタイルに大きな変容をもたらしているのです。

シングルチャネルからマルチチャネルへ

 店舗、通販、ECなど、1企業に販売チャネルが1つであった段階においては、消費者側の選択肢も明確に分かれていました。「私はやっぱり現物を見てから買いたい」という人は実店舗派、「家のソファーでくつろぎながらいろんな商品を見比べられるカタログ通販が好き」という通信販売派、「ネット上で価格比較をして、買うと決めたらその場で決済や配送手配まで完了」というEC派。それぞれ販売チャネルの選択に迷うことはありませんでした。この段階を「シングルチャネル」と呼びます。

 やがて、自社ブランドの市場認知が高まり、例えばこれまで実店舗販売のみであったアパレルブランドが店舗のない地域で販売するために補完的なチャネルとしてECを構築したり、通販専業の化粧品メーカーが百貨店やショッピングモールに自社テナントを出店するという具合に、販売チャネルを「追加」する企業が現れます。このような形態を「マルチチャネル」と呼びます。

 ただ、この段階では、既存の販売チャネルに後から新たな販売チャネルが追加されるだけで、各チャネルにおける顧客管理は一元化されていません。そのため、例えば、先月店舗で買い物をしたAさんが今日、ECで買い物をしても、同じAさんと特定することができません。

マルチチャネルからオムニチャネルへ

 現在、多くのアパレルショップ、スーパー、量販店、専門店が、実店舗に加えてECサイトを運営しています。しかし、その多くはこのマルチチャネルの状態にとどまっています。チャネルごとに顧客がすみ分けられていればこの状態でもいいのですが、昨今では、同じ人があるときは会社のPCからインターネットで注文し、またあるときは通勤や通学の途中にスマートフォンでショップ専用アプリを立ち上げて買い、時に実店舗に足を運ぶという具合に、消費行動の多様化が急速に進んできています。

 チャネルの多様化によって、企業は各販売チャネルでの販売機会が増えるというメリットが得られます。しかし一方で、既存の顧客が他社のチャネルと接触する機会を増やすことにもなるため、競争にさらされるリスクも同時に高まることになります。

 そこで企業は、いったん獲得した顧客との関係を維持・強化していくために、店舗であれECであれ、自社のチャネルで買い物をした方が他社でお金を使うより「お得」であることを顧客に対してアピールする必要が出てきます。

 例えばA社がECとリアル店舗の両方のチャネルを持っているならば、これまでECで蓄積されたポイントを実店舗でも利用可能にするとか、ECで蓄積されたポイントを店舗で利用する場合に通常1ポイント5円換算のところ、1ポイント10円の割引金額を適用するというように、チャネル間をまたいだ施策を実現するのです。そうすることで、何もしなければ各チャネルで他社に取られて逸失していた利益を獲得できるかもしれません。

 しかし、店舗で買った顧客とECで買った顧客を異なる人格としてしか認識できなければ、そうしたことは実現できません。まずは各チャネルの顧客管理の仕組みを一元化し、同じ企業の中では販売チャネルが異なっても単一のIDでサービスを利用可能にする必要があります。そしてもちろん、各チャネルにおける顧客の購買行動もまた一元管理されていなければいけません。この状態に至って、初めて「オムニチャネル」と呼ぶことができます。

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