第13回 Social CRMのアプローチを整理する【連載】海外事例に学ぶマーケティングイノベーション(1/2 ページ)

既存顧客のデータとソーシャルメディアで蓄積されるパブリックデータの2つのデータを組み合わせ、誰が、どんなニーズを持っているかをリアルタイムかつ定量的に理解する――。Social CRMが可能にした新しいマーケティングの可能性を解説する。

» 2013年10月28日 08時00分 公開
[馬渕邦美,オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパン]

はじめに

 Social CRM。聞きなれない人が多いかもしれない。Social CRMとは、文字通り、従来のCRMアプローチに加えて、ソーシャルメディアを最大限に活用した新しいマーケティング手法である。このコラムを通じて、マーケティングのROI最大化には、1)ソーシャルメディアの活用、2)サイレントマジョリティの活性化が重要であることを述べてきた。今回はこのソーシャルメディアの活用をSocial CRMという観点から考察したい。

CRMとは

 CRM(Customer Relationship Management)は1990年代後半にマーケティング業界で一世を風靡したマーケティングアプローチだ。技術的背景として、データベース利用環境の飛躍的技術革新がある。

 パソコンのオペレーションシステムの革新、とりわけWindows 95の市場への爆発的な浸透に象徴されるように、パソコンがコンピューター技師だけのものから、ほぼすべてのビジネスパーソンのものとなった。自社の顧客データベースを解析できる環境が、ハード的にも、ソフト的にも整った。そうした環境の変化を受け、顧客データの価値を最大化すべく、顧客データ解析をマーケティングのプロセスに取り入れ、より高い収益を実現できるビジネスモデルを模索する動きが盛んになった。 

 顧客分析が加速し、既存顧客の2割の顧客が収益の8割を占めているという論理が、多くの企業で実証された。こうした2割の価値ある顧客を維持し、そして、売り上げに対する割合を増やす取り組みにより、収益を増やそうという試みが多くの企業で行われた。

 具体的な施策として「ロイヤルティ・プログラム」がある。上位2割の顧客を手厚くするプログラムを実施し、ブランドと優良顧客との関係性を高め、継続的な購入、クロスセルを促す。準ずる他のセグメントには、この上位2割の顧客と同様の取引量をしてもらうべく、プッシュ型のセールス施策が展開された。

 システムへの投資も盛んに行われた。システム会社は、CRMシステムを売り上げ強化の秘策と位置付け、大きな投資を企業に迫った。

 しかし、2000年辺りから、CRMへの投資によって実利を受けた事例よりも、実利が少なかったという意見が目立つようになった。結果、CRMはマーケティング史にあまり良い印象を残さなかった。

 米国IT調査会社のガートナーの調査からもそのことが読み取れる。CRMに取り組んだ日本企業で「期待通りの成功」と答えたのはわずか5%未満に過ぎず、「ある程度は成功」と答えた企業を合わせても2割程度である。調査結果は、CRMで成果を上げた企業は非常に少ない、と厳しい結果をマーケティング業界に突き付けた。

 そうした経緯によりCRMは忘れかけられ、もしくは意図的に見過ごされてきたわけだが、今、新たにSocial CRMが脚光を浴びている。CRMの多難な時代を経験したマーケティング業界関係者ですら、この Social CRMというマーケティングアプローチに熱い視線をおくっている。

 過去のCRMが多くの企業で実利をもたらすことができなかったの理由とはいったい何だったのだろうか? Social CRMはどういう点で従来のCRMの課題を克服しているのだろうか?

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