アディダス出身の新CMOが語る “破壊者”オールバーズ復活のマーケティング戦略Marketing Dive

Marketing Diveは、スニーカーブランドのAllbirdsでCMOを務めるケリー・オルムステッド氏に、同社の新マーケティング戦略や事業立て直しについて話を聞いた。同氏が着目したスニーカー市場におけるAllbirdsの強みとは?

» 2024年09月26日 08時00分 公開
[Peter AdamsMarketing Dive]
Marketing Dive

 レッドオーシャンのスニーカー市場において、Nike(ナイキ)やAdidas(アディダス)といった老舗ブランドが苦戦する中、新興ブランドがシェアを拡大している。この波に乗ろうとしているブランドの一つが、D2Cスニーカーの先駆けとして知られるAllbirds(オールバーズ)だ。

 過剰な店舗拡大に伴う業績悪化を乗り越えるべく、マーケティング戦略の刷新に臨むのが、2023年12月にCMO(最高マーケティング責任者)に就任したケリー・オルムステッド氏だ。同氏はAdidasで約20年間、マーケティング部門をリードした人物でもある。

 Marketing Diveは同氏に、CRM(顧客関係管理)を通じて熱狂的なファンを獲得する方法や今注目しているマーケティング手法について話を聞いた。

※本稿は「シリコンバレーで人気のD2Cスニーカーブランド 急拡大の反動で落ち込んだ業績をどう回復する?」の続きです。

AllbirdsのCMOが考える自社の魅力と課題とは

 以下のインタビューは、内容を明確かつ簡潔に伝えるため、編集を施している。

――CMOに就任して1年ほど経った感想は?

オルムステッド氏 Allbirdsのリブランディングで忙しくしている。スニーカー業界に戻ることに不安を感じ、最初は契約社員として入職した。今ではAllbirdsの社風と、一緒に働く仲間が大好きだ。Allbirdsには「High horsepower, low ego」という社訓がある。「高いパフォーマンスを発揮しつつも、謙虚でいよう」という意味だ。このメッセージが心に刺さった。Allbirdsは力強い復活を遂げる準備ができていると感じ、働き続けることにした。

 Allbirdsが復活すると感じたのは、NPS(ネットプロモータースコア)が非常に高いからだ。スニーカー業界に長くいたので、NPSが80%を超えているのは、Allbirdsへの顧客の強い愛情を示していると分かった。問題は認知度で、約15〜17%と低い状態が続いている。より多くの人々にAllbirdsを知ってもらい、まずは試してもらうことが重要だ。

――過去のマーケティングで、認知度を上げられなかったのはなぜか?

オルムステッド氏 Allbirdsは2016年の創業から9年しか経っていない。認知度を上げるには時間がかかる。CEOを務めるジョー・バーナチオやCDO(最高デザイン責任者)のエイドリアン・ナイマン、クリエイティブエージェンシーSid Leeと共に広告キャンペーンを打ち、広告プラットフォームを構築している。実にエキサイティングな経験だ。私たちには素晴らしい製品があり、その良さを多角的に表現できる。より野心的なブランド領域にも柔軟に対応可能だ。Allbirdsを選ぶ人は、一般の人がまだ知らないものを意識的に選ぶ人だ。メジャーに対抗するカウンターカルチャーだ。

――CMO着任以来、Allbirds社内の組織体系はどのように変化した? 以前は現在よりも縦割り型だったか?

オルムステッド氏 CEOのジョーはAllbirdsでの勤務以前、Mountain HardwearやThe North Face、Nikeで経験を積んできた。ジョーはCEOとしてのキャリアは短いが、「High horsepower, low ego」という理念の下、縦割り型の組織構造を改革しようと奮闘している。以前のAllbirdsがどうだったかを説明しても仕方ない。とにかく今は同じ考えを持ち、社員全員が共有できる明確な計画を立てようと努力している。

――ビジネスにとって厳しい時代に突入している。新しいマーケティング戦略と、事業立て直しのバランスをどのように取ろうとしている?

オルムステッド氏 Allbirdsの経営健全化に向けてさまざまな取り組みを進めてきた。役員だけでなく取締役会からも、Allbirdsのブランド価値向上に向けた投資意欲を感じる。100年続くブランドにしたいという意欲だ。マーケティング手法や、注目すべきKPI(重要業績評価指標)も変わりつつある。長い歴史を持つAdidasに在籍した経験から言えば、これが不況や売り上げ不振といった難局を乗り越える秘訣だ。

――ブランドの構築とパフォーマンスマーケティングのバランスを取るのは簡単ではない。これは、MARKETING DIVEがこれまで何度も取り上げてきたテーマだ。Allbirdsは創業当初からD2C事業を進めてきた。どのようにメディアを活用しようとしている?

オルムステッド氏 広告の運用方法を変えた。以前はEC部門がパフォーマンスマーケティングを運用していたが、今はマーケティング部門がその役割を担っている。宣伝に使えるアセットやマーケティングのストーリーの成果を見て、改善に向けた施策を打てるようになった。これは大きなメリットだ。

 「YouTube」や「Netflix」「TikTok」といった、より現代的な広告プラットフォームがある。動画を通して消費者を楽しませ、価値あるものを提供し、注目を集める。注目されない動画は、3秒で切り替えられてしまう。Allbirdsも動画を通じてブランドストーリーを伝えたいが、とても3秒では伝えきれない。ブランドを最初から押し出さない、より長尺の広告コンテンツを検討中だ。もちろん、その広告から消費者が多くの価値を得られるようにしたい。

――NetflixやTikTokなどのプラットフォームに言及したが、広告は出稿しているか?

オルムステッド氏 最新の広告キャンペーンでは、YouTube以外にもTikTokやその他のソーシャルメディアを使用している。第4四半期の広告については未定だが、Allbirdsのマーケティングストーリーの展開にどのプラットフォームが最適か検討中だ。スニーカーの購入は、感情に強く根ざしている。より感情に訴える、強力な広告を考えている。

――スニーカー市場は、NikeとAdidasが新興ブランドとの競争に苦戦するという興味深い時期に突入した。Allbirdsもその競争のさなかにいると考えているか?

オルムステッド氏 イエスだ。Allbirdsはスニーカー市場に参入した最初の新興ブランドだった。私がAdidasにいたとき、「Allbirdsって何者?」と話題になった。大手に挑戦する最前線にいて、戦い方は有言実行だった。企業秘密を明らかにする企業などAllbirds以外にない。それがAllbirdsとの出会いだ。AllbirdsとAdidasがコラボして、当時のスニーカー市場で最もサステナブルなランニングシューズを発表した。Allbirdsは、サステナビリティーという新しいスニーカーの切り口を作った。

――スニーカーには、ファッションアイテムの一部として、運動能力に寄与する存在、履き心地を提供するという3つの役割がある。このうちどの要素で存在感を発揮したいか?

オルムステッド氏 ここ数年、Allbirdsはサステナビリティーというキーワードを同社の強みとして前面に押し出してきた。これが、私たちがリーダーシップを発揮できる領域だからだ。広告キャンペーン「Effortless by Nature」は、自然とは大きく人間にとって理想的な場所であることを強調している。

 「Effortless by Nature」は、Allbirdsがスニーカー「Tree Glider」に込めたメッセージだ。他ブランドのスニーカーは派手で装飾に凝りがちだ。Tree Gliderはあえて目立たないロゴを採用している。履き心地がよく、機能美を備えている。開発当初から意図的にこのようなデザインを選んだ。より洗練されたアプローチに舵を切る余地を持たせている。

――Sid Leeとの関係について詳しく知りたい。今回のキャンペーンが同社との初めての仕事なのか?

オルムステッド氏 そうだ。CEOのジョーも私もSid Leeとの接点はあり、今回Sid Leeとのコラボレーションを実現できた。私たちがたどり着いた「Effortless by Nature」というアイデアはとてもシンプルだが、懐の深いコンセプトだ。製品の特徴と、意識の高いライフスタイルの魅力を分かりやすく表現している。このアイデアは今後も使っていく。Allbirdsは小さな組織で、毎回異なるブランディングストーリーを使うことはできないからだ。

――新学期を迎え、冬のホリデーシーズンも近づいている。2024年下半期の計画は?

オルムステッド氏 Tree Gliderのリリースは、少なくとも私がAllbirdsに在籍していた期間で最大規模の広告キャンペーンになる予定だ。動画配信やテレビを始めとしたチャンネルを駆使して、Allbirdsとはどのような企業なのか、何を提供しているのか、独自の方法で表現できることをうれしく思っている。第4四半期に向けて、ソーシャルメディアやデジタルコンテンツ、ポップアップストア、インフルエンサーを起用する取り組みに加えて、長尺のコンテンツを使って動画よりも深みのあるストーリーを展開することも検討している。この内容は2025年の第1四半期に実施する予定だ。ここまでが最初のステップで、2025年の第3四半期までにはマーケティングと投資の方向性を定める考えだ。

――2024年、特に期待している新しいマーケティング手法やテクノロジーは?

オルムステッド氏 これまでは、パートナーシップの構築やインフルエンサーの起用、認知度向上といったチャンネルを使って認知度を高める取り組みに注力することができなかった。これらのチャンネルは新しい手法という訳ではないが、投資する機会がなかった。Tree Gliderのリリースでは、ヨガやピラティスのインストラクターでインフルエンサーでもあるメリッサ・ウッド・テッパーバーグ氏に協力を依頼した。テッパーバーク氏は、フォロワーからの信頼を失わないために、信頼できるブランドとしか協業しない。

 Allbirdsは、顧客との関係を包括的に把握できるCRMを使っている。データは、多ければ多いほどよいわけではない。CRMの効果的な活用方法と、戦略の構築に向けて新しい従業員を迎え入れた。適切なタイミングで適切な商品を顧客に提供するために、広告をパーソナライズしたり、CRMをより効果的に活用したりする方法を検討するためだ。

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