Xが新規アカウントに課金するとユーザーはどれほど影響を受ける? そしてそれは本当にbot対策になるのか?Social Media Today

Xが新規利用者を対象に、課金制を導入する方針を表明した。botの排除が目的だというが、これは本当に機能するのか。

» 2024年04月18日 13時00分 公開
[Andrew HutchinsonSocial Media Today]
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 X(旧Twitter)は、いくつかの地域でテストを行った後、新規にアカウントを作成する全ユーザーに対して課金することを検討しているようだ。

 ただし、対象はユーザーが自分で投稿したり誰かの投稿に返信したりする場合に限る。

年額1ドル課金を実施したニュージーランドとフィリピンで起こったこと

 2023年の10月にニュージーランドとフィリピンで開始されたXの「Not a Bot」プログラムの下では、「書き込みアクションを実行する」場合、全ての新規アカウントに年額1ドルが課金される。

 これは大したことではないだろう。年額1ドルであれば大した負担にはならないし、多くのXユーザーはおそらく問題なくその金額を支払えるだろう。

 しかし、より大きな問題は、彼らがそれを支払うのかということだ。また、それが長い間、Xの悩みの種であったbotの流入を食い止める手段として実際に機能するのかということだ。

 その答えは、おそらく「ノー」だ。

 最初のポイント、つまり新規ユーザーが支払うかどうかについて考えてみよう。現状、Xユーザー全体における有料版「Xプレミアム」ユーザーの割合は非常に小さい(1%未満)。さらにイーロン・マスク氏と彼のさまざまな経営判断に関するネガティブなニュースが継続していることを考慮すると、ユーザーがXにお金を渡したり、アカウントにひも付いた銀行口座からアクセスしたりすることを強く望むとはあまり考えられない。

 これは、今回の新規ユーザー課金推進の動機の少なくとも一部ではある。マスク氏は「全部乗せアプリ」ビジョンに沿って、Xをあらゆる取引のための仮想マーケットプレイスに変えたいと考えている。そこで人々が買い物をしたり、請求書を支払ったりするのと一緒に、銀行口座の開設や管理までできるようにしようとしているのだ。

 これに向けた最初のステップは全ユーザーに銀行口座を接続させることであり、これが新規登録者に年会費を請求する理由の一つであると思われる。

 しかし最近、マスク氏のもう一つの会社であるTeslaが米国でFSD(完全自動運転)オプションの月額利用料を約半値の99ドルに値下げた際に、元の価格を支払った人には払い戻しがなかったことで、マスク氏の会社への支払いは最近少し信頼性が低くなっているように感じる。多くのXプレミアム加入者が解約後もXへの支払いが続いているなどの問題も報告されている。

 従って、基本的に多くの人は、Xを使うために代償を支払うことをためらうだろう。しかし、そもそも大多数の人々にとって、Xにお金を支払うかどうかは、気にすることですらない。

 なぜなら、「Not a Bot」プログラムの下では、Xの投稿を読むために登録することはできる。料金を支払う必要があるのは自分で投稿したい場合のみだからだ。そして、Xユーザーの80%は投稿やインタラクションを行わないことを考えると、ほとんどの人々にとって、課金はそれほど大きな阻害要因にはならない。

 実際、アプリ分析のSensor Towerのデータを見ると、ニュージーランドとフィリピンのXダウンロードは変わらず、フィリピンでは10月の発表後もさらに増加している。

 ユーザー課金は新規登録者数にさほと影響しない。しかし、Xのデイリーアクティブユーザー数が2022年11月以降2億5000万人のままであることを考えると、新規登録者の多くは定着していないことになる。つまり、ほとんどの人は投稿しなくても問題がないと考えていたため、支払いを行わなかったと推測される。

 この新しい料金体系によって全体的に収入が増えることもなければ、登録者数が減ることもないだろう。しかし、特にこれがより多くの地域に展開されるとき、新規登録者が支払わなければ投稿できないということを考慮すると、投稿活動の減少が想定される。登録者数は変わらないものの全体的なエンゲージメントレベルが低下し、時間の経過とともに解約率が高まれば、さらに低下し続けるだろう。

 では次に、マスク氏が期待するように、これが実際にbotと戦うのに役立つのかというと、それもないだろう。なぜか。ここで、マスク氏が説明した、この新しい提案の重要な但し書きを見てみよう。

 マスク氏は「これは新規ユーザーのためのものであり、3カ月後には無料で書き込みができるようになる」と明言している。もしXがこの通りに運用するなら、bot作成者はまずアカウントを作って機が熟すのを3カ月待つということを、継続的なサイクルの一部とするまでだろう。

 つまりbotの運営には全く影響がないということだ。もしXが本当に新規アカウントの投稿にたった3か月の期限を設けるとすれば、そのプロセス全体が台無しになってしまう。

 ただし、それによってXが詐欺アカウントを検出する時間は増える。毎月5000万人の新規プロフィールが登録されていることを考えると、投稿前に詐欺アカウントを検知するためのバッファが必要なのだろう。

 Xの検出プロセスがどのように機能するか、詳しいことは分からないが、Xには1日に170万人の新規登録があると報告されているのに対し、先述したようにアクティブユーザー数は数か月間、2億5000万人で安定している。

 これは、Xは新規登録者の多くを排除していることを意味する。おそらくXのシステムがbotかどうかを判断するのに時間がかかるのだろう。

 しかし、botの検出に際しては、アカウントが投稿する内容やインタラクションにで判断している可能性がある。新規アカウントが3カ月間投稿できないとなると、Xにとっては、botを除外するためのシグナルが少なくなることになる。

 ここにもある意味行き詰まりが見える。もしXが何らかの効果を得たいのであれば、無料投稿まで3カ月という期間を設けることはできないだろう。

 ならば、もしこの条件がなければうまくいくのか。

 たぶん、そうだ。botの作成者がアカウントごとに必ず1ドルを支払わなければならないようにすることで、マスク氏が言うように、それははるかにコスト高になるだろう。ただし、政府による影響力の行使を止めることはできない。アカウント当たり1ドル程度なら、彼らのプログラムにとって投資する価値がありそうだからだ。一方、大規模なボット作成者はコストを彼らの顧客に転嫁する可能性がある。1ドルが多くの顧客に分散されれば、それほど負担にはならない。

 ある面ではインパクトがあるかもしれない。特に、時間とともにコストがかさむことで、botの売り手がビジネスを持続可能にするのが難しくなる可能性はある。

 しかし、繰り返しになるが、アカウントごとに1ドルを支払うことがなぜbotの抑止力になるのかは、やはり理解し難い部分が残る。現にXプレミアムで月に8ドルを請求しても、多くのbot販売者がアカウントの信頼性をさらに高めるために青色のチェックマークを取得する動きを止められていないのだから。

 銀行口座を接続することで、例えば特定のクレジットカードをブロックしてこのような問題に対抗するといった方法は考えられる。しかし、詐欺師はカードを盗むこともある。

 要するに、これが重要な形で機能する保証はない。せいぜい広範なbot対策の中の小さな一要素として、Xチームに何らかの影響を与える可能性があるという程度の話だ。

 本当の解決策は、botアカウントをより迅速に検出できる人間とシステムへの投資だ。どのソーシャルプラットフォームもこれを正しく行っておらず、MetaもXも、常に少なくとも5%のユーザーがフェイクであると報告している。

 しかも、マスク氏はXにおけるbot含有率は実際には20%に及ぶと主張する。これが、マスク氏が対策を急ぐ理由の一つだ。Xが実際に良い方法を見つけてbot排除に成功した場合、Xのユーザー数や市場の認識にどのような影響を与えるだろうか。

 旧Twitterはbotと戦おうとさえしないと常に批判されていた。bot対策は成長への影響が非常に大きく、ポジティブな報告をしてもそう見てはもらえない。行動すれば株価が下落しかねない。故にTwitterには積極的にそれをするインセンティブがなかったのだ。

 広告収入がかつての水準から50%減少しているXがユーザーの20%を削減すれば、同じように痛みを感じるだろう。5000万人のアクティブを失えば、理由がどうであれ、後退とみなされてしまう。そうなればマスク氏とXはまた別の問題に対処しなければならなくなる。

 いずれにしても、少額課金が答えになるということはない。

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